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15.武器の話。

「そういえば、トラジ。武器はどうする?」

 ナナさんに聞かれて、俺は屋台で買ってもらったホットドッグ的な食べ物を危うく落っことしかけた。うわあぶな。

 え、聞き間違いかな?

 めちゃくちゃ物騒な単語が聞こえた気がする。

「ぶき?」

「ななちゃん、トラジくんは平和な時代の日本生まれ日本育ちだから……」

「嗚呼、そうだったね。あまり日本人っぽくない顔と体格だから忘れていたよ」

 これって誉められてるってことでいいのか?

 うちの家族は母親がロシア人だったので、俺はハーフってことになる。

 でも母親も生まれはロシアだけど幼少期に家族と日本に来て以来ずっと日本で生活してたから、ロシア人なのはおおよそ見た目だけだった。母親はロシア語も喋れたみたいだけどほとんど聞いたことがないし、俺も全く喋れないし現地に行った事もない。

 よくお前ハーフだし外国語できるんだろ!とか英語のテスト楽勝とかずるじゃねーか!なんて言われたけど残念ながら混血に対する一種の風評被害である。

 英語もロシア語も特には出来ないし、俺の中のロシアのイメージは母親の作るピロシキとボルシチだけだ。

 まあ言語に関してはこの時代もう関係なさそうだけど。つくづく思うけど、ナノマシンって最強チートアイテムだよなぁ。コレが無かったらまず意思疎通すらできてないわけで、本当にありがとう兄貴。

「旅なんてしてると結構物騒だからねー。武器を持ってる人は多いよ」

 言われて俺の脳裏に過ぎっていったのは、ナナさんが肩に掛けていた厳ついライフルだ。うん、物騒……。

「あ、物騒っていっても対人じゃなくて、基本は護身とか狩猟用にね」

 ななちゃんのアレ、カスタムしてあるから厳ついだけでただの猟銃だからね? とユーニさんに言われてちょっと安心した。

 そっか。そういえば昨日の昼ごはんのベーコンとかナナさんが獲ってきたって言ってたな。なるほど。

 確かに、道中で野生動物に襲われてどうしようもなくなったら武器はいるのかもしれない。日本人の俺はまずクマを思い浮かべたんだけど、それだけじゃなくてライオンとか虎とかワニとか色々言われた。大陸こっわ!

 旅人の服は防刃効果とかも高くて見た目より頑丈な防具だけれど、さすがに大型肉食獣の牙とか爪の直撃は耐えられないし、仮に破られなくても相手の筋力や圧力が強すぎて骨は確実に砕かれるし、腕や足なんかは噛まれたらそのまま引きちぎられて持っていかれるらしい。

 聞いただけで恐ろし過ぎる……まじかよ……。

 野生動物って充分過ぎるくらいモンスターじゃん……現実恐い……嘘だろ……。

 でも、武器かぁ……持つかといわれると、うーん……。ちょっと高校生には荷が重い気がする。

 武器という響きはやっぱり格好良いし、憧れはあるんだけどな。

「ちなみにユーニさんも持ってるんですか?」

「一応ねー。おれのはシースナイフと、小型の銃だね」

 シースナイフは簡単に言うと鞘付きのナイフのことらしい。折り畳み式じゃない分頑丈で、ユーニさんのは細長くて刃渡りがやや大きい目の造りで、普通に包丁とか鉈とかの代わりにも使えて便利らしい。そういえば腰から下げてたやつ、あれか。

 銃は恐いけど、ナイフなら色々使えて便利かもなぁ。ちょっとファンタジーの片手剣みたいでかっこいいし。

 ……おっと駄目だまた病気が。

 でも武術も何もしたことが無い俺では、ナイフごときじゃ猛獣なんかに立ち向かえない気がするな……。莉子みたいに剣道でもしてたら別だったのかな。

「銃に限らず色んなの持ってる人がいるよー。ボウガンとか、斧とか槍とか、棍棒とか……あと変わってるのだと日本刀とか、スコップとか」

「……スコップ??」

 スコップってあれ?あの土彫るやつ??

「うん、スコップ。別名超汎用型近接最強武器」

 何その別名。めちゃくちゃ強そうじゃんスコップ。どういうことなの。

 曰く、穴を掘るっていうのはそもそも初歩的な罠の一つで、落とし穴だけじゃなく身を隠したりすることもできる。そしてスコップはその性質上持つ部分は握りやすい太さをしている上に、ある程度のリーチがあり頭が重いので振り下ろしやすく鋭利なので、力の無い者でも打撃力を得ることができる。近くの砂利や石なんかをすくいあげて投石することも可能だし、さらに風呂や薪などの生活品を作り出す事が出来、何なら肉も切れるしフライパンにもなるという、最強の汎用性を秘めた武器だというのだ。

 ええ、まじか……スコップすごい……。

「まああくまで『めちゃくちゃ万能で武器としてもそこそこ使える』ってだけで、武器を装備した玄人と勝負したら普通に負けるけどね」

「大抵の旅人は車に積んでるし、前時代では軍隊の装備品にも含まれていたというしね。あくまで近接での汎用性の話だよ」

「便利だろうけど、実際に使う機会があるかって言われたらそこまでサバイバルする事も無いよねぇ」

 なるほどなー。別にファンタジーの冒険者みたいにモンスターと常に戦うわけじゃなくて、あくまで護身用の武器って話だから、そう考えるとナイフよりリーチもあるし一つの正解なのかも。

 何より頭の使い方次第でなんでもできるって、ちょっとかっこいいよな。

 まあこの世界普通に車に電化製品とか積んでて森の中でもレンチンでご飯が食べられる訳だから、ユーニさんの言うように身一つでどうこうしないといけない機会はあまりなさそうだけど。

「トラジくんは何か武術とか、運動とかやってた?」

「中学ではバスケしてましたけど、他は全然ですね」

 うーん、こんなことになるなら何かしておけばよかっただろうか。

 ……いや誰がトラックに轢かれて起きたら320年後の世界だなんて予測できるんだよ。それを見越して行動してる奴がいたら間違いなくただのゲーム脳か厨ニ病だ。どちらにしろまともじゃない。

「武器って言っても、近接武器の場合はあくまで護身用だから、倒したりするんじゃなくて追い払うとか自分が逃げるため、って考えてね」

 倒そうとしてもよっぽど強い人じゃないと普通は倒せないよ。とユーニさんに言われて、俺は頷いた。そうだよな。

 とりあえず熊を追い払うと考えて、素手より長いものの方が当然良くて、振り回せて、そこそこの攻撃力があって……うん、さっき聞いたばっかりだからかな。スコップがめちゃくちゃ魅力的に感じてくる。そういえばスコップでクマぶん殴って追い払った人のニュースとか見た気がする。

 ――超汎用型近接最強武器スコップ。まじでアリなのかもしれん。

「……そういえば、フェリーチェの武器って?」

 隣でホットドッグを頬張っていたフェリーチェが、急に話を振られてなぁに? と首を傾げた。何しても可愛いなこの天使。

 こくん、と口に入っていた残りを飲み込んで、ポーチを開けて中身を取り出す。

「えっと、リーチェはね、今持ってきてないけど、ナイフと、スリングショットと、あとこれ!」

「……折り畳み傘?」

「うん!」

 フェリーチェがポーチから出してきたのは俺でも見た事がある、コンパクトタイプの折り畳み傘だった。可愛らしい淡い水色の傘で、彼女の小ぶりなポーチにもすっぽり収まる。

 ――で、え。これ武器なの??

「あー、うん。スコップとまあ似たようなものだよね」

 ユーニさんが笑いながら教えてくれる。

 傘っていうのは護身用ならば案外アリな選択肢らしい。

 日差しや雨・風を避けれるのはもちろん、雨宿りできる場所を確保した上でならば逆さまにして置いておくことで逆に雨水を貯めることもできる。持ち手を伸ばせば結構なリーチになる上に、傘を開かず使用すればスコップ同様に先に重心があるので振り回したりしやすく、また急に傘を開けば相手の虚を突いて目くらましにもなる。

 特に彼女の傘は護身用の特別仕様なので、持ち手のスイッチ一つで伸ばした長さが固定され、突き武器としても使用可能になるそうだ。えっ折り畳み傘強くない?しかもスコップより日常での使用頻度高そうだし。

「リーチェのは先端に錘が入ってるから、人間相手だと普通に骨にヒビくらいは入るよ」

 なにそれめっちゃ恐い。ちょっと強すぎないか。

 新たに知ったもう一つの汎用武器の凶暴性に俺は震えた。

 ちなみに俺はスリングショットが何か分からなかったんだけど、要はパチンコのことらしい。

 とはいっても、俺の知ってる玩具みたいなパチンコとは違って、彼女の持ってるのはゴムの反発も強く威力があって、小型~中型の獲物くらいなら割と普通に狩れるそうだ。

 投擲に使うものは何でも良くて、専用の弾とか矢もあるけど、その辺の石ころとかでも良いらしい。

 フェリーチェは汎用性の高い武器をメインに扱うタイプなんだな。

 ファンタジーだとシーフとかローグとか、そういう攻撃力は低めだけど素早くてトリッキーなジョブかな。うーん、似合う気がする。

「リーチェはななちゃんに体術も習ってるしね。前に、たまたま鉢合わせた強盗ぶん投げてたよね」

 ……は?

「あれは見事な一本背負いだったね。警備隊も感心していた」

 強盗を?

 この小さくて華奢な身体で?まじで?

「あと結構前だけど、グリズリーも倒してたし」

 待って待って、グリズリーって熊の親玉みたいなやつじゃん。

「ああ、近隣の町で人喰い熊として恐れられた奴だったね」

 しかも人喰い熊ってそれ完全に駄目なやつじゃん! もはやモンスターじゃん!

 待って何が攻撃力低いだよ俺の馬鹿! 普通に武道家もびっくりなゴリッゴリの戦闘派じゃねーか!!

 完全に固まって、全くもってそうは見えない隣の美少女を凝視する俺を見上げて、フェリーチェはにっこりと無邪気な笑顔を浮かべた。

「だから、トラジはリーチェが守ってあげるね!」

 笑顔でそう言ってくれる天使はめちゃくちゃ可愛いけど、余りにも内容の凶悪さに、おれは開いた口が塞がらなかった。


 ――いやもう、絶対今度から「逆だろ」って思うのはやめよう。


書き溜めていたのはここまでになりますので、明日からは週1回は更新を目標に不定期更新になるかと思います。たぶん。

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