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14.一つだけ残念なこと。

 服を一通り買ってもらった後、出店でちょっとした買い食いをしたりしながら俺用の食器や旅の道具、消耗品なんかを買って貰う。残念ながら未来とはいえ現実には○次元のポケットやアイテムボックスなんて便利な道具は実装されていないので、荷物は俺とナナさんが手分けしてリュック(これも俺用のは新しく買ってもらった)に詰めている。ナナさんすいません。

 大体のアイテムは軽量化を重ねたりコンパクトになるように設計されたりしているみたいだけど、それでも人一人分の生活用品となると結構な量になる。「食器類なんかは既に持ってるやつと重ねたりできるから、片付けたらもっと嵩張らなくなるよ」とはユーニさんの言葉だ。本当だろうか。

 ちなみに現状の俺のベスト・オブ・コンパクト賞はエアベッドと毛布だ。

 エアベッドはテントの中で寝るときに使う一人用の簡易ベッドで巻物みたいな形状とサイズなのに、1プッシュで空気が入れられて15センチくらいの高さがあるマットレスになる。

 毛布は簡易ベッドより一回りくらい大きい袋に入っていて、これもなんというか出してみるとこんな袋にどうやって入ってたの?みたいな、思っているより2回りは大きいサイズの毛布が出てくる。両端がきちんと被さるように折って(巻いて?)留めれば、簡易の寝袋としても使えるようになっているらしい。生地は薄目だけど目が詰まってて充分あったかそうで、しかもめちゃくちゃ柔らかくて触り心地が良い。ずっと触ってたいくらいだ。あと皺にならない素材なので、片付けるときは綺麗に折り畳む必要なんて無くて、入っていた袋に適当にぎゅうぎゅう詰めれば良いらしい。なにそれ便利。

 こうして俺自身の使うものは順調に買い揃えてもらえたのだが、順調にいかないものが、一つ。




「……此処も駄目だね。」

 あからさまに眉間に皺を寄せて難しい顔をしたナナさんが、ふぅと溜息を一つ吐いた。

 これでこの街にある3軒全てが全滅というわけだ。


 何を探しているかというと、ティガーの新しいボディだ。


 思っていたより扱っている店舗の数が多かったので期待したんだけど、ナナさん曰くあまり良いものが見付からなかったらしい。

 ティガーはこの時代でも全然稼動しているレベルのAI(なんなら今泊まってる宿のAIより全然高性能らしい)で俺が持っている本体も問題無いんだけれど、タイプとしては旧式になるので最新鋭の機材では駄目で、かといってこの街においてある旧式対応のものは古すぎたり動力装置に問題があったりして、なかなかこれといったものが無いらしい。そうだよな、俺が事故に遭った後とはいえ数百年前の機械には違いないもんな。

 むしろこの場合は、数百年前のAIでもまだまだ現役で使える事を喜ぶべきなんだろう。

 難しい顔をしたナナさんが「いっそさっきの機体をベースにしてあとはジャンク屋を巡って僕が組むか……?」なんてブツブツと呟いている。ナナさんそんな事もできるのか。何ができないんだこの人。

「ジャンク屋に欲しい部品があるとは限らないし、ここで妥協しなくて良いんじゃない?ティガーとトラジくんには申し訳ないけどさ。折角ならちゃんとした機体で起こしてあげようよ。」

 ユーニさんに言われて、ナナさんもそれはそうだねと納得したみたいだ。確かにティガーは早めに起動してあげたいと思うけど、それ以上に折角ならきちんとした準備をしてやりたい。

 ――それに、

 昨日から思ってた事を、二人に言ってみることにした。

 ……もしかしたら、怒られるかな。

「えっと、色んなものを買ってもらった後でちょっと申し訳ないんですけど、俺……ティガーの体になる機械は、やっぱり、俺が自分で、買ってやりたいなって。」

 元はといえば兄貴達が遺してくれたもので俺が稼いだとかじゃないけど、それでも、俺の持ってるもので、買ってやりたいという気持ちがある。

 ユーニさん達が俺に必要な色んなものを買ってくれたみたいに、俺もティガーに必要なものを贈ってやりたい。

 俺の言葉に、ユーニさんは否定するでも怒るでもなく、なくにっこりと笑う。

 ――あ、やっぱり。

 一瞬でも怒られるかも、なんて思った俺の方が間違ってたみたいだ。

「じゃあ、やはりこの街では良くないね。」

 贈るに相応しい、ちゃんとしたものを用意してあげないとね。

 俺の意思を汲んでくれた二人に、ああやっぱり俺は、こんな子どものわがままみたいな意見でも受け止めてくれる、良い大人に巡りあえたんだなと思った。




 ユーニさんの耳に気付いたのは、偶然横顔を見ているときに風が吹いたからだった。

「ユーニさん、それ、なんですか?」

 長めの髪がふわっと風で揺れて、ユーニさんの普段隠れている耳に嵌っていた器具が見えた。

 ワイヤレスの耳掛け式イヤホンみたいなそれが気になって聞いてみると、ユーニさんは「ああ、これ?」と片側だけ外して見せてくれた。手にとって見ても、印象は同じだ。ただイヤホンよりもっと耳にフィットして目立たない形になっている気がする。

 あ、あとユーニさんピアスもしてる。ちょっと意外な発見だ。

「翻訳機だよー。」

「翻訳機?」

 ナノマシンの言語補助があるのに?と首を傾げた俺に、ユーニさんは頷きながら続ける。

「おれ、ナノマシンアレルギーなんだよねぇ。体質的に受け付けなくて。」

「えっ」

 アレルギーとかあるんだ。まじか。

 万能だと思ってた未来の最強道具の弱点を知ってしまい、俺はびっくりした。

「これは音声タイプなんだけど、ななちゃんのしてるゴーグルみたいなやつで字幕再生してくれるやつもあるよ。」

「へぇー。」

「言語補助って一番って言っていいくらいメジャーだから大体の人がもってるんだけど、性能には結構差があるから、翻訳機を併用して使ってる人もわりといるねー。」

 少数派部族とか一部地方の言語や方言だとナノマシンじゃカバーしてないこともあるんだ、と言われてなるほどなと思った。外国じゃ部族ごとに言葉が違うとか聞くもんなぁ。さすがに全部は無理だったりするのか。

 ユーニさん曰く翻訳機はネットワークを通じて《中央》のデータベースにアクセスできるので、中央が今まで収集・認識している言語すべてに対応できるそうだ。なにそれすっごい。

「この辺りだとみんな主要言語のどれかだろうから必要ないけど、《中央》から離れたところに行くようになったら持ってた方が良いかもね。」

「なるほど、覚えときますね。」

 色々勉強になるなぁ。

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