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12.夢の話と朝ごはん。

 夢を見ていた、気がする。


「流行ってるわよねぇ、異世界転生もの」

 俺の読んでいたラノベを取り上げながら、莉子が陽翔に向かって言った。おい返せよ。

「確かにめちゃくちゃ見かけるよなぁ。俺は結構好きだけど」

「そう? なんだかどれも似たり寄ったりなんじゃ?」

「んー。そうかもしれないけど。やっぱ俺ツエーってやりたいとか、ハーレム作りたいとか大金持ちになりたいとか、みんな思うもんなんじゃん?」

「そういうもんかしら」

「そういうもんでしょ。俺だって異世界いったらチートスキルで俺ツエーってしてドラゴンとか魔王とか倒して女の子にモテたい」

「前半はともかくあんた今でも結構モテてるでしょ」

「えー?」

 いつもの学校の、いつもの屋上。

 2年生になってクラスが見事バラバラになった俺達は毎日昼休みになると此処に集まっていた。見た目よりも大食らいの莉子が、綺麗に三角の形をしたおにぎりを頬張っている。甘党中の甘党を自称する陽翔は、ピンクと白のパッケージが可愛いいちごオレを飲みながら笑っている。

 いつもの屋上の、いつもの風景。

「なあ寅冶は?」

 二人が此方を見ている。

「寅冶は、もし異世界転生したら何がしたい?」


 俺は……――




「おはよう、トラジ!」




 デジャブ。


 目を開けると天使と見まごう美少女が俺の顔を覗き込んでいた。だが俺はもう彼女が天使では無い事も、此処が天国でも無い事も学習済みだ。

 ちなみに昨日の朝も彼女に起こしてもらったので、この光景も3度目になる。

「……おはよう」

「トラジ、朝ごはん行こう!」

 半分寝ぼけたままの頭で、ぼんやりと挨拶を返す。朝から元気だねフェリーチェさん。

 ふかふかのベッドは心地よくて起き上がるのが億劫なくらいだが、朝ごはんと言われたら起きざるを得ない。昨日あんなに食べたはずなのに、いつから俺は食いしん坊キャラになったんだろう。「あんた前からそうでしょ」という莉子の声が聞こえた気がする。莉子、あれ。

 そういえばさっきまで見ていた夢に莉子と陽翔がいた気がする。内容はもう覚えてなくて、思い出そうとしたけど残っていた眠気と一緒にするりと消えていってしまった。まあいいか。

 とりあえず顔を洗おう……と完全にベッドから出たところで、ふとある事に気付く。

「あれ、フェリーチェ。なんで俺の部屋に?」

「トラジ、鍵掛け忘れてた」

「…………」

 まじか。

 此処のホテルは何故かオートロックじゃなくて、部屋に入った後もう一度ドアにカードキーを差し込んで鍵を掛ける形式だった。

 昨日あの後、明日は朝食を摂った後買い物に行くから今日と同じように食堂に集合と言われて解散して、部屋に戻ってとりあえず歯を磨いてベッドに転がって……そこからの記憶が全く無い。慌ててポケットに手を突っ込んだら、本来ドアに差し込んでいなければならない筈のカードキーが出てきた。

 ……なんてこった。

「危ないから、めっ」

「……ハイ。ゴメンナサイ。」

 上目遣いで叱ってくる美少女に、俺はできるだけ誠意を込めて謝ろうとはしたのだが、あまりの視覚的可愛さに内心もだえていたのできちんとできていたのかはわからない。

 なんだこれは実は俺は未来じゃなくてラブコメの世界に転移したんじゃないだろうな。半年後には学園ものも控えているらしいし。

 朝から美少女が起こしてくれる日常に、俺は軽く眩暈をおぼえた。







「トラジくん、リーチェ、おはよ~」

「おはよう!」

「おはようございます」

「おはよう」

 食堂にいくと昨日と同じ席に、大人二人が既に座っていた。

 昨日と同じようにこちらに気付いたユーニさんがひらひらと手をあげている。流石に朝なので、二人の前には酒ではなくマグカップが置かれていた。

「トラジ、良く眠れたかい?」

「はい。フェリーチェに起こされるまでぐっすりでした。」

「それは何より~」

 ユーニさんはまだちょっと眠たそうで、いつもよりなんだか語尾が伸びてふにゃふにゃとしている。昨日の朝はそんなそぶりもなくぱっちり起きていた気がするんだけど、実は朝に弱いんだろうか。

「ユーニさん、なんかまだ眠そうですね」

「ん~、久しぶりのきちんとした屋根の下とベッドって寝すぎちゃうよねぇ」

 そう言いながら、ぽやぽやとマグカップを両手で持って啜っている。中身はミルクたっぷりのコーヒーらしく、ちょっと背中を丸めて飲む姿はなんだかちょっとふわふわの猫を連想させる。「あ~二人も何か飲むよね~?」とメニューのタブレットに手を伸ばしながら聞かれたけど、なんかそのまま落っことしそうで恐いな……。そう思ってたら、ナナさんがユーニさんの手からメニューをひょいと取り上げた。さすが気のつく男。

「フェリーチェとトラジは何が良いんだい?」

「リーチェ、オレンジジュースがいい!」

「あ、俺はあるならミルクがいいです」

 以前は毎朝牛乳を飲んでたから、やっぱり朝は牛乳が飲みたくなる。ついでにモーニングセットを4つ頼んでくれたナナさんはユーニさんと違って朝には強いようで、完全にいつもの格好(ただし流石に銃は抜き)でブラックコーヒーを片手にメニューとは別のタブレットを覗き込んでいる。

 俺も寝起きは結構良い方だし、フェリーチェも多分いや絶対朝から元気なタイプだろう。

 すぐに運ばれてきた朝食はワンプレートになっていて、丸いパンとバターとチーズにトマトメインのサラダ。あと薄く切られた、柔らかそうな大きいハムとピクルスが乗っていた。うーん、理想的な朝食って感じだ。

 昨日の朝食べた総合栄養食は美味しかったけど、この圧倒的見た目には勝てない気がする。食事は目でも楽しむってやつかな。

 フェリーチェが丸いパンを横から半分に切って全部乗せサンドにしてかぶりついていたので、俺も倣って同じようにして食べてみた。パンがちょっと硬めで噛み応えがすごいけど、逆に噛めば噛むほど美味しい。

ナナさんも同じメニューを食べていたけど、ユーニさんはまだ覚醒しきれてないみたいでハムとチーズを俺とフェリーチェに半分ずつくれて、追加でポタージュを頼んでパンを浸しながらもそもそと食べている。これよっぽど疲れてるんじゃ?

「もうちょっと寝たほうが良いんじゃないですか?」

「んん~……だいじょーぶ。もうちょっとしたらさめるから……」

「今日は特別酷いね」

「ん~……」

 ナナさんに言わせると、ユーニさんのこれは宿に泊まると割とよくあるらしい。それならいいんだけど。

やっぱり旅の途中って気が張ってるものなのかなあ。前日は車中泊だったし、毎晩あれならぐっすりは眠れなさそうだ。そう思ってたら、昨日は俺の格好がアレだったのもあって車の中で寝たけど、普段は車に備え付けのタープテントを設置してちゃんと横になって寝るらしい。つまりそれ俺のせいで寝付けてないのでは。落ち込みかけたけど、「天気の悪い日とか危険な場所だと車の中で寝るし、昨日はトラジくんの格好もだけど、そもそも森が深くてテント立てれる場所も無かったから~」とふにゃふにゃ眠そうなユーニさんに言われた。

「今日はちゃんとしたやつ、色々買おうねぇ~」

 いつもより五割り増しくらいのゆるふわな笑顔のユーニさんは、そのままポタージュの入ったカップをひっくり返しかけて予測していたっぽいナナさんにしっかり支えられていた。

 ……大丈夫かな。

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