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9.町に到着。

 空が真っ赤に染まって端っこの方に夜の気配がする時間。


 俺達はようやく町に到着した。

「暗くなっちゃったし、買い物は明日にしよっか。」

 とのユーニさんの言葉に、車は本日の宿へ向かう。

 窓の外、白い壁が夕日を反射して真っ赤に染まっていた。

 写真で見たことがあるような、外国の田舎町といった町並み。

(未来というより、此処だけみたら異世界っぽいなぁ)

 どことなく中世っぽい雰囲気の残る石畳に、そんな事を思う。とはいってもまばらに歩いてる人たちは中世のような服でも近未来的なサイバーっぽい服でもなく、普通にシャツとスラックスやワンピースといった服装なので、なんだか遠い未来にきたとも思い難い。

 起きてから今まで見たもので一番未来っぽかったのが自分の寝かされていた機械とはどういうことなのか。

「うーん、想像してたより、未来ってだいぶ現実的なんだなぁ」

「あはは、それはそうかもねぇ」

 俺の盛大なひとり言に、けらけらと笑いながらユーニさんが返事をする。ワープ装置も透明のチューブみたいな道路も空を飛ぶ車も無いみたいだし、どうやら思う事は人類みんな一緒らしい。それを言ったら「空を飛ぶ車ってそれ飛行機じゃん」と言われてしまった。まあ確かにその通りだ。あれ、その通りか?

 そんな事を話していたら、ナナさんに「着いたよ」と言われて俺達はあっさり本日の宿に到着した。

 周りとお揃いの白い壁に赤茶色の屋根と黒い窓縁の、一際大きな建物だ。まさに外国のホテルといった感じ。

 一階は駐車場、二階がフロント兼食堂兼売店で、三階以降が客室とのことだった。

 いやー、駐車場は裏手かなとか思ってたらそのまま突っ込んでいくもんだから、ナナさんご乱心かと思ってびっくりしたね。正面の黒くて大きいどう見ても両開きの筈の扉が、自動ドアでスライドしていったことにも驚いたけど。本気で悲鳴をあげた俺にユーニさん爆笑してたし。

 旅人の車って積荷もだけど存在そのものが貴重品だから、防犯装置はついてるけど路上とか誰でも近寄れるところにはあんまり駐車ってしないんだってさ。へぇー。「宿だからといって絶対に安全とは言い難いから、大事なものは持っていったほうが良い」とのナナさんの言葉に、俺は慌ててティガーの入った箱をぎゅっと抱えた。「そっちなんだね」とユーニさんに言われてから金塊の存在を思い出したけど、ティガーの方が替えが利かないし兄貴達が遺してくれた形見みたいなもんだから、やっぱり大事かな。そういうとユーニさんにぽんぽんと頭を撫でられた。

 子ども扱いはやめて欲しいけど、誉められたみたいでちょっと嬉しい。







「トラジ、こっちへ」

 ユーニさんがチェックインしている間にナナさんに呼ばれて、売店の方へ連れていかれる。

 売店にいるスタッフ(おっぱいの大きい金髪美女)と短いやり取りをした彼は何かを受け取ると俺のところに戻ってきて、そのまま俺に手渡してきた。透明な袋に入ったそれは、通気性の良さそうな生地のズボンとシャツと下着のセットだった。ちょっとジャージっぽい?

「明日街に出るのに、その格好ではさすがにね。部屋でシャワーを浴びたら着替えると良い。」

 さすがナナさん、気の利く男だなぁ。

 お礼を言って、フロントの方に居る二人のところへ戻ろうとする。あっ。

「お金……」

「構わないよ」

 何から何まで頼りっぱなしで、申し訳なくなってくる。でも今のお金なんて持ってないし、兄貴の残してくれたインゴットをそのまま渡すのもなんか違う気がするし。うーん……。

 俺にできる事ってなんだろうと内心悩みつつ、二人の所へ。ユーニさんがカード式のルームキーを手渡してくれる。

「おや、個室かい?」

「うん。たまには良いかと思って」

 たまには一人でのんびりしたいよねぇ。というユーニさんに、フェリーチェがねー。と顔を見合わせて笑っている。確かに、起きてからずっと3人と一緒だったから、そろそろ一人で考える時間も欲しいかもしれない。もしかして気を遣ってくれたのかな。

「じゃあ荷物を置いてシャワー浴びたら、1時間後くらいに食堂に集合ね」

 フロント脇にある階段を上がりながら、ユーニさんからいくつか注意事項を受ける。

  水道の水は直接飲まないこと(シャワーに使うのはOK)

  非常口が何処にあるのか確認しておくこと

  部屋を出るときは貴重品を持って出ること

 などなど、おおよそ海外旅行の注意点みたいだな。まあそうか。言ってみればここ海外だもんな。

 三階にあがってみると、真っ直ぐな廊下の左側が大通りに面する窓で、右手側に客室のドアが並んでいた。

「じゃあ、また後でね」

 と、ユーニさんとフェリーチェがそれぞれさっさと割り振られた客室に入っていく。

 俺も続こう、と一歩踏み出したときに、ナナさんがぽんっと俺の肩を叩いた。

「僕は階段手前の301だから、何かあったら来ると良いよ」

「あ、ありがとうございます」

 俺は306で、一番突き当たりの部屋だ。ひらりと手を振って部屋に入るナナさんの後姿を見送って、俺も自分の部屋に向かう。ユーニさんに言われたとおり非常口を探すと、303と304の間にあった。細い廊下の先にある鉄製の扉を開けてみると外に繋がっていて、錆の浮いた狭い螺旋階段が下まで続いている。……非常事態にしか使わないとは言っても、此処通るのは高所恐怖症には厳しいんじゃ……? びゅう、と強めの風が吹いて手すりが軋み、恐怖を感じた俺は扉を閉めた。どうか使う機会が訪れませんように。

 ちなみに部屋は思ってたより広くて、外観通りの白い壁に黒い梁の通った清潔感のあるお洒落な部屋だった。大きなベッドには白いシーツと掛け布団。壁には何処かのお城っぽい絵が飾られている。なんだ俺の知ってる時代の客室と全然変わんないじゃん! と思ってたら、机の上のタブレットから「ようこそ!」という女性の機械音声が話しかけてきてめちゃくちゃびびった。ホテル用の来客対応AIらしい。

 よく見たらあちこちにタッチパネルやちょっと使い方が分からなさそうな機械が置いてあって、レトロ可愛い空間に溶け込んでいる近未来感にドキドキしちゃったね。

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