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◆第4話 初めての友達ができました。

 それからの私は今まで以上に頑張って言葉を出す練習と、手足を動かす運動を頑張っていた。

 しかし一人で座れるようになるまでは予想よりも時間がかかりそうだった。おかしいなぁ。すぐに出来ると思っていたし、あと少しだとずっと思っているんだけど……あと少しが全然終わらない。もしかして体格的な問題かな? 赤ちゃんって頭が重いから、もう少し大きくならないとだめなのかな。


 しかしその代わりに言葉の練習を多めにしているうちに、ひとつ気が付いたことがある。

 それは喃語しか喋れなくても、うまく発音すれば鼻歌を歌う程度ならできるということだ。


「あーえーうーおーうーあーあー」


 うん、今日はなかなか快調かな。カエルの合唱、なかなか上手に音階が歌えてると思うんだよね。

 そんな私に、軽やかな拍手が送られる。


「あらあら、今日もご機嫌ですね」


 そう私を褒めてくれたのはお母様だ。

 相変わらず無表情だけれど、声は優しい気がする。いや、最初と変わらないかもしれないけれど、私にはそう思えた。お母様は初めて会ったその日から毎日少しだけ、決まってナンシーの洗濯の時間に私のところに来てくれる。

 これだけ私のところにきてくれていても、ナンシーはお母様がここに来てくださることに気づいていない。

 それはお母様の鉄壁のポーカーフェイスがあるからかもしれないけれど、まるで忍者みたい。 ちょっとくらいボロを出してくれたら、お父様にも気づいてもらえる可能性が残っているのに。


 ちなみにお父様も私のところに毎日来てくれている。それは決まって深夜ばかり。昼間お昼寝している私はその時間に起きても問題ない……というより元から朝まで寝続けることができないので問題ないけれど、お父様は早く寝た方がいいと思うの。


 そういえば、この間は凄いのろけを聞いたな。お父様は『長期任務はシエロの姿を見れなくて辛いから行きたくなかった。今はエミリアもいるから余計に行きたくない……』と子供のように言っていた。お父様、お母様はお父様が大変な仕事をされていたことを尊敬していらっしゃったんですよ。


 でも、その話を聞いていたときにどうしてお母様の前でお父様が冷たいのかも判明した。


『でもそんなことをいったら絶対シエロは呆れるよな……。五将家の当主は情けないって元王族に思われるのは辛い。というか、絶対シエロはクールなほうがタイプだと思うし。だから頑張ってるけど……本当は言いたい。全力で主張したい。でも学生時代から頑張ってるからもう少し頑張る』


 私は言いたかった。

 お母様はお父様の優しさに惹かれたのであって、むしろクールを装うとしているお父様に対しては引け目すら感じてらっしゃいます。


 ただし『そこまで全力で言ったらお母様も呆れるかもしれないから程々にしたほうがいのでは』とは女性目線では思ってしまうけれど。私がお父様のお友達なら、そう念のために忠告はする。


 そしてお母様が懸念されていた王女殿下のことも『シエロに好かれようとして、王女殿下に贈り物の相談を何度もしたけど……結局学生時代は渡せなくて、自分の最後の詰めが甘くてすごく情けない』と言っていたので、お父様がお母様の想いを知ると大変なことになる気がした。


 主にお父様の弁明で。


 そんなことを考えているうちに、今日もナンシーの洗濯が終わる時間がやってきたらしい。


「じゃあ、またね」


 そう言ったお母様は私の部屋から退出した。ちなみに今日も抱っこはありませんでした。

 生後五ヶ月、いまだお母様に抱いてはもらえていない。

 これだとお母様とお父様の仲違いが解決されるまで、お母様に抱っこしてもらえることはなさそうだ。お母様に抱っこしてもらえたらどんな心地か知りたいので、やっぱり早くすれ違いを解消して欲しいんだけどな。


 ということで、歌の練習を続けよう。

 でも、残念ながら私の歌のレパートリーはそんなに多くない。

 だからほとんどは童謡なんだけど……つぎはどんな曲を歌おうかな?

 そう思ったときにふと思いついたのは、日本でもおなじみの曲……『ふるさと』だ。

 『うさぎ追いしかの山』の歌詞、けっこう大きくなるまで『うさぎ美味しい』だと誤解して『あの山のうさぎ美味しい』という歌だと勘違いしていたな。


 そんな懐かしいことを思い出しながら、私は歌う。


「うーしゃーいーおーいし、あーおーやーやー」


 うん、なんか惜しいけど、ちょっと近く歌えた気がする! 絶好調かもしれない!

 よし、今のところをもう一回! ……うん、今回もよく歌えてる気がする!


 同じところを何度も練習するのは、一曲まるまる歌うのは私の体力が持たないのだ。

 でも、ウサギ何度も連呼できるのは可愛いからすごいことだと思う。

 ああ、でも何度もウサギって言ってた……いや、言えてないけど、何度もウサギを思い浮かべていると本当のウサギに出会いたくなる。


 でも、この世界にもウサギっているのかな?


 そう思っていると、風が吹き込んでくる窓のほうにカタンと音がした。


 うん? なんの音?


 そう思いながら寝返りを打ってそちらを見ると、一羽のウサギさんがちょこんとそこにいた。


「あうっ!?」


 本当にウサギさんが来た!?

 そう私が思っていると、ウサギさんは部屋の中に入り込んできた。そして私の元へやってきた。

 か、かわいい……!

 あまりの可愛さに私は感動した。

 しかも近くまで来てくれる優しさに歓声も漏れてしまう。だって、可愛いんだもん!


『そんなに褒めてもらうと、照れちゃうの』


 いやいや、照れなくても本当の……と思って、私は固まった。

 え? 空耳……聞こえた?


『そらみみってなぁに? それより、さっきのお歌、もう一回聞かせて!』

「う!?」

『さっきのお歌ね、すごく好きな音なの!』


 私は混乱した。

 だって、今この部屋の中にいるのは私とこのウサギさんだけだよ?


 それなのに声が聞こえる……というより、声が直接脳内に届くというような現象が起きてるとなると……もしかしなくても、このウサギさんが喋っているってことだよね……?


『そうだよ!』


 やっぱり!! でも、嘘でしょ!? だってウサギさんと喋れるなんて、想像していなかった。


『私も人間と話ができるって、初めて! 私の声が聞こえる人、いてくれて嬉しいの!』


 あはははは、ウサギさんも初めてってことは……もしかして、特殊能力だったりするのかな……?


『そんなことより、さっきのお歌! お歌!』


 そ、そうだった。

 せっかく聞きに来てくれたのに、歌わなかったら残念だよね!

 でも、こうしてわざわざ聞きに来てくれた人がいるってなると緊張するよね。お母様の場合は歌を聞きに来ると言うより私を見に来てくれていたということと、そもそも歌っていると思われていないので緊張はしていなかった。

 だから今はとても緊張するけど……歌うしかないよね!


『なんだかさっきと少し違うけど、それもいいね!』


 ウサギを追っかけているという歌であるというのは、たぶん通じてなさそうだ。

 たぶん、私が口にしているのが日本語なんだろうな。明らかに言葉が違っていてもおかしくない環境……というより、みんなが喋っているのが日本語であるはずないもんね。

 ……というか、それ以前にウサギ語までわかっている状況だと、どうして言葉がわかるかなんてとても些細なことなんだけど。

 でも、楽しんでくれるならそれでいいかなと思う。


『あ』


 どうしたの?


『お母様が呼んでる。すぐに帰らなきゃ』


 残念、せっかく可愛いと思っていたのに。


『また来るね!』


 え、来てくれるの?


『だってトモダチのところには遊びに行っていいって、お母様言ってた!』


 トモダチ。

 私の初めての、この世界の友達。

 私はその言葉に感動した。私の友達といえば、まだ今世ではいなかったもの! 前世でもそう言い合える友達はいなかったし!


『じゃあ、今日は帰るね!』


 そう言い残して、私の初めての友達であるウサギさんは……急に巨大化した。

 それこそ大人一人を背負えるくらいのサイズになって、すごい跳躍力ですっ飛んでいった。


「あう……?」


 この世界のウサギは、巨大化なんて芸当をやってのけるのが普通なのだろうか?

 思わず私の口からは間抜けな声が漏れた。

 だからうっかりウサギさんの名前を聞き忘れていたことに気づくまで、そこから約一日がかかってしまった。



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