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◆第29話 招待が届きました

 しかし、ローレンス殿下が調査にどれほどの時間をかけられるのか、私はまったく聞いていなかった。だから当然、いつお父様がローレンス殿下に呼び出されるのかも聞いていない。もちろん教えてもらったからといって私に何かすることが発生するというものではないけれど、やっぱり気にはなってしまうよね。

 一応、お父様もあれ以降ローレンス殿下とお会いなさっていた様子がないことは分かっている。代わりに……という訳ではないと思うけれど、王都にいる間にしかできない仕事をものすごく一生懸命こなしていらっしゃる。

 待っているのはやはり性に合わない、けれど勝手な手出しはしないほうがいいのはわかる。

 でも、実はできることが何か本当はあったりしないかな?

 しかしそうして私が悩み始めた頃、大きな足音が近づいてくるのが聞こえる。荒々しいと言うわけではなく、純粋に急いでいる足音だ。そして、間違いなくお父様の足音だと思う。


 そして、それは間違いではなかった。


「……どうしたんだい? ずいぶん楽しそうじゃないか」

「予想が当たったので、嬉しかったのです」

「予想……?」

「ええ。それよりお父様、いかがなさいましたか?」


 用なく急ぐようなことはしないはずだろう。

 そう思いながら尋ねると、お父様はひとつ咳ばらいをなさった。


「ついに狩りを見に来てくれという内容の連絡がきてしまってね。まだ時間がかかるなら一度自領に帰るというつもりだったんだけど……できないなら、もう今日はエミリアと遊ぼうかと思って」

「では、明日はお城へ向かわれるのですね。でも、お父様。ローレンス殿下とお約束なさったのに、お帰りになるおつもりだったのですか?」


 いや、さすがに約束破るようなお父様ではない……と思うけれど、今の話し方を聞いている限り、そのようにもーーいや、そのようにしか聞こえなかった。

 しかしお父様は何も問題がないかのように堂々となさっている。


「ああ。見てくれと言われているけど、待っていてくれとは言われてないし期日も聞いていない未来の約束だった。必要があれば呼びに来ただろう?」

「……お父様、大人げないです」

「いや、そんな冷めた目で見ないでくれ。一応考えもあってのことだ」

「お父様が嘘を仰るとは思いませんけれど……」

「私とローレンス殿下は確かに『狩りの様子を見る』と約束をした。だからしないとは言っていない。だから領地に帰っていたら呼びに来れば見に行くよ」

「屁理屈です」

「でも、事実。無期限で私を待たせるほど、殿下に力はない。城内では味方はまだいないんだ。察してくれというのでは、この先困ることになるよ」

「つまり……練習ということでしょうか?」

「そう」


 しかしその割にはお父様は本気で悔しがっていたように思うんだけど……気のせいではなかったよね?


「でも、そのお父様の予想よりローレンス殿下のほうが早く準備なさってすごいですね」

「……あー。約束したから仕方ないけど、面倒だ」

「お父様はなぜ、いやなのですか? お約束なさったときはそんな風じゃなかったのに」

「そんなことよりもこのままだと本当に後見になるからというのが理由だよ」

「後見?」


 意外な言葉に私は目を瞬かせてしまった。


「ローレンス殿下には魔術という難点をクリアしたとしても、後ろ盾がない。だから資金面や指南役での援助がない。これがローレンス殿下の最大の欠点になる」

「あの……ローレンス殿下のお母様……故王妃様のご実家からの支援は難しいのでしょうか? 王国史では、お名前しか記載されていないのでわからないのですが……」


 実際故正妃様の名前が出てこなくとも、歴史の流れは学ぶことは現時点ではできている。だからいずれ深く学ぶときに教わるのかもしれないが、仮に魔術が使えないがために支援できなかったというのであれば、今後は支援を受けられる可能性があるかもしれない。

 しかし父様は首を横に振った


「ローレンス殿下の母君は元々平民の出だ」

「え?」


 この国では貴族ですら平民との結婚は祝福されるものではない。

 それが王族となればなおのことだろう。

 どうも恋愛をするタイプに見えない陛下がそれを強行するタイプには私には見えなかった。

 しかし、それでも実際にあったことなのだろうが……。


「ローレンス殿下の母君は、聖女と呼ばれていた。特異ともいえる回復術を扱えるということで、平民かつ孤児でありながら学院へ招かれ、そこで陛下と出会われた。もっとも、貴族がこぞって養女にしたがったところを陛下が掻っ攫ったというわけなのだが」

「それは……とても優れた力をお持ちだったのですね」

「ああ。だが……当初より後ろ盾はなかったし、今も同じだ。一応ローレンス殿下自身はすごくまじめでよき方だ。私も頼まれるなら一蹴することはためらう。ただ……」

「ただ?」

「あの陛下のご子息というのが最大の欠点だ。ただの貴族の子息なら、支援にためらいはないんだけど。なんだか転がされてる気がして気に食わない」

「やはりお父様は陛下が相当お嫌いですね……?」

「嫌いだよ。為政者としてではなく、個人的にだけど。特に性格が嫌い。だからこのまま後見になり、陛下を喜ばすことになるのはすごくイヤだ」


 それでも国民に害が及ばないようにお考えになっているのだから、どちらかといえば公人ではなく個人的な感性からきらっているようにも見える。

 私が首を傾げているとお父様はしかめっ面を元に戻した。


「私の父は王家に近くなりすぎ、殺された。三つのときだから、ほとんど覚えていないけどね。母はそれより前に亡くなっていたから、私は亡くなった祖父に育てられたんだ」


 お父様が若いのにおじい様がなくなっていらっしゃるのは事故か病気かと思っていたけれど、そのようなことがあったとは想像だにしていなかった。

 そして名誉にもなり得ることをあえて教えられていなかったというのは、おそらくお父様はそれを名誉だとお考えではないからだろう。


「陛下に協力して、父や母を殺した相手は潰したよ。その結果、陛下に表だって対立する者はいなくなった。あとは私の手伝いがなくてもなんとかなる。だから私は帝国対策として開発した魔石を置きみやげに、極力距離をおくことを了承させた。私は、これ以上家族を失いたくないからね」


 陛下へ正面から不満をぶつけるのも、その想いがあってゆえだと言われれば納得できた。

 約束をしているのに、何をいまさらということなのだろう。


「……お父様は私が殿下に肩入れするのはいやですか?」


 お父様のお考えと私のしていることは正反対だ。

 実際今までも本気とまでは見えなかったものの、反対していらっしゃった。

 あれはどこまで本気だったのだろうと私が真剣に尋ねれば、お父様は苦笑なさった。


「個人的には好ましいとは思っていない。ただ、国としてはよいほうに動くとも思うし、友人を見捨てられないということは、私にもわかる」


 お父様のお言葉に私は目を丸くした。

 友人。意識はしていなかったけれど、確かにもう友達だと思う。


「まだお前は幼い。大きくなって、決意が変わらないなら好きにしてもいいよ」

「わかりました」

「まぁ、今回約束したのは私だからね。あの自信満々な少年の意向を蹴れなかったのが私の敗因だし、まだ成功するとは限らないし。無駄足になったら、そのまま市場にでも行く予定にしようか」


 少し意地悪な意見を言いつつ、それでもお父様はローレンス殿下ならうまくやると思っていらっしゃるように感じられた。

 ただ、後見になったとしてもローレンス殿下にはなかなか厳しく接しなさりそうだと思ってしまった。



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