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◆第24話 可能性を信じて

 だって、精霊と契約できている私ってとても珍しいんだよね?

 それなのに、あっさりとそうすればいいって言われても……難易度、高すぎないかな。


「あの、精霊ってそんなにたくさんいるの? 珍しいんじゃないの?」

「んー。多いか少ないかっていえば、多くないけどこの近くには一人いるよ?」

「本当ですか?」

「うん。だって、ここの王都って安全な場所を選んで作られているって聞いたけど、その安全っていうのは災害が少ない場所ってことなんだって。だけどそれって、近くに精霊がいて安定してるからなんだよ。そのことを人間が知ってるかどうかは私は知らないけど」


 つまりたまたまこのそばにいるのではなくて、精霊の近くにいるから王都があるということなのか。

 いずれにしても私たちにとっては偶然だが、幸運でもある。


「ご協力を求めることは……いえ、お会いすることは可能なのでしょうか」

「いいよ、案内してあげる。でも、そのあとは私にはわかんない。契約するかどうかって、その精霊の気分なの。気に入るかどうか以外に、その時の気分が乗ってるかどうかみたいな」


 気分次第ということは、現に契約を済ませた私も良くわかっている。

 ただ、もしだめでも一度で諦めず何度も行ってもいいわけだし。まずは行ってみなければわかんないよね。


「ローレンス殿下の魅力を売り込んで、力になってもらえるよう頑張りましょう」


 私は気合いを入れて、ローレンス殿下にそうお伝えした。ローレンス殿下は少し驚いていらっしゃったけれど、強く頷いてくださった。


「でも、ディアナはどうやって案内するつもりなの? ローレンス殿下がお城から出るの、目立っちゃうとだめな方だよ」


 それに、私自身も何か企んでいると思われるのはあまりよくない。

 ルイス王子を刺激するようなことがあってはまずいもん。お城の中でのローレンス殿下の動きに制限もでちゃうかもしれないし。

 しかしディアナの自信は満々だ。


「大丈夫。お母様の目を盗んでディアナに会いに行っていた隠密行動がここで役に立つよ。窓があれば、どこにでも抜け出せるしね!」


 そう言ってからディアナはウサギ姿に変化した。

 その姿はいつもより一回り以上大きく、私だけではなくローレンス殿下もちゃんと乗ることができそうだ。ただ、ウサギにしてはすこぶる大きい。大きすぎる。


「これ、逆に目立たない?」

「精霊の力精一杯使って普通の人には認識できなくするから大丈夫だよ。でも、気配を消している間は注意してね。エミリアは私と契約してるから平気だけど、ひょっとしたらローレンスでも私のこと認識できなくなるかも。だから、ローレンスはエミリアから手を離しちゃだめだよ」

「殿下が特別な力を持っていても、認識できなくなる?」

「さっき考えが伝わったのは、私が見えてたからだからね。自分で使えない力は安定しないから、急に気配が感じ取れなくなるかもしれないし」


 状況は何となく理解できた。

 ただ、手を離すなと言われても困難な指定でもある。並んで乗るというほど横幅はないし、と手を繋ぎっぱなしで乗るのも安定しなさそう。


「殿下、ディアナに乗ったあとは私の肩を持っていただけますか?」

「わかった。あとで失礼するね」

「はい。では、乗ります」


 私はそう思ってディアナのほうを見て、さっそく他にも問題があったことに気付いてしまった。。

 ディアナが大きくなりすぎているため、屈んでくれていても乗るのが難しい。

 よじ登ることもできなくはなさそうだけど……と私が考えていると、急に体が浮かんだ。

 まるで高い高いのときのよう……って!!


「うーん、少し届かないか」

「ローレンス殿下!?」

「ディアナ様、少し場所を移動していただけませんか。できればその机の前で」

「わかったー」


 ディアナはローレンス殿下の願い通りに、そして私は抱っこをされたまま窓際の机の前へと移動した。

 この姿になってから大人に抱っこされることは少なくないけれど、子供に抱っこされるのは初めてだ。だから、なんだかとてつもなく恥ずかしいことをしている気持ちにもなる……なんて思っていると、私は机のふちに腰を下ろすような状態で座らされていた。


 え、殿下!!


 こんな立派な机に腰を降ろすのって、令嬢であるかどうか以前にダメなことですよね!?

 だけど、私は次の瞬間にはもっと驚く光景を目にしたので尋ねることなんてできなくなっていた。

 だって……なんとローレンス殿下は土足で机の上に乗ってらっしゃったのだから!

 この礼儀正しく上品な振る舞いをなさっていたローレンス殿下らしからぬ行動に、私はただただ焦ってしまう。高そうな机なのに、足形ついちゃうんじゃないかな……? 大丈夫なのかな……?

 そんなことを考えている間に私は再び抱き上げられ、ディアナの背に乗せられていた。


「ローレンスも早く乗って!」

「はい、失礼いたします」


 それからローレンス殿下はディアナに乗った。座った位置は、予想通り私の後ろだ。


「ごめんね、失礼するね」

「いえ、あの、おかまいなく!」

 口にしてから妙な言葉を口走った気がしてしまったけれど、もう遅い。

 そもそも訂正の必要性もあまりなさそうなことなので、私もあえて言い直すことはしなかった。

 間もなくして、私の肩には遠慮がちにローレンス殿下の手が置かれた。

 そう、確かに遠慮がちなんだけど、どこか少し力が入りすぎている気もしてしまった。

 ローレンス殿下の緊張具合がとても伝わってくる。……そりゃ、緊張しないわけがないよね。

 そのことを考えると私まで緊張しそうになってくる。でも、ここは落ち着かないと。


「ローレンス殿下、ディアナには馬みたいな手綱はありませんが、びっくりするくらい落ちる心配はしなくて大丈夫なんですよ。精霊さんってすごい! って、きっとなります」

「そうなのか?」

「はい。だから……まずは景色を楽しんでください。ローレンス殿下はあまりお外に出られないんでしょう? せっかくの機会、もったいないですから」


 そんな余裕があるのかどうかは分からない。ただ、緊張していることが結果を好転させるということもないはずだ。

 できなければそれはそれで仕方がないことであるとしても、もしも気持ちが解れるならば、それに越したことはない。


「ありがとう。本当に、エミリアは不思議な子だね」

「不思議?」


 御礼を伝えられた直後としてはあまり似合わない言葉に、私は首を傾げた。

 不思議とカテゴライズされるようなことをした覚えはない。お節介だと言われればその通りでしかないと納得するのだが、言われた言葉はそうではない。

 しかしその真意を私が尋ねる前にディアナが「じゃあ出発!」と元気よく告げ、窓から飛び出した。

 そして、私は聞くタイミングを見事逃した。

 だけど、あえて後から尋ね直すほどのことでもないかな、と私は思う。気にはなるが、ひとまず不快そうな声ではないので問題はないのだろう。

 今のローレンス殿下には、リラックスしてもらったり集中してもらったりなど、殿下が望まれる方が大事なはずだ。

 それに、どうしても気になるならその意味はあとでいつでも聞けることだ。……ただ、私も長い間覚えておく自信なんてないのだけれど。だって、それくらい些細なことだし。

 ぴょんぴょんと、まるでウサギらしからぬ跳躍力で王城からあっという間に王都を抜けたディアナは一直線に草原を駆けた。


 やがてたどり着いたのは、木々が茂る森の入り口のようだった。


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