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◆第22話 再登城

 翌日、私はお父様にお手紙を書いていただいた。

 ローレンス王子にはいつ訪ねても構わないと言われているけど、言葉通り本当に突然行ってしまったら驚かれてしまうことだろう。けれど、だからといって私自身がお手紙を書くのもまずい。

 五歳の令嬢が親に内緒で王子様に手紙を書くなどといった行動を取ってしまうと、親の教育はどういう状況なのだとバッシングされかねない。私はリブラ家に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。

 だからお父様に書いていただいた。

 内容としてはお茶会で親切にしていただいたことへのお礼と、領地の特産品の献上ということだった。


 するとその日のうちにローレンス殿下からの返事が私のもとに届いた。


 そこには大したことはしていないので気にしないで欲しいという旨と、けれどその気持ちはありがたく頂戴する……つまり献上品を受け取るという内容が綴られていた。そして私には印を渡しているので、出入りは自由にしてもらってかまわないとの旨が書かれていた。そして、お父様は忙しいだろうから私一人でも気にしないし、ほかに連れてきたい人物がいるのであれば連れてきても構わないとの旨が追記されている。


 印っていうのは、あの飾り玉のことだね。


 しかしその言葉を見た瞬間、お父様が叫んでいた。


「ちょ、エミリア! 殿下から印をいただいたのかい!?」

「印、というのはわかりません。けれど、殿下といつでもお会いできるようにって、綺麗な玉飾りはいただきました」


 そしてそれをお父様に見せると、お父様は愕然としていた。


「……あの、大変なものでしょうか?」


 たしかに王族からの贈り物だ。安いものではないだろう。

 けれど用途が終わったらお返しすることも考えているし、そもそも素直で真面目そうな少年からの贈り物に『いらない』なんて言う度胸がエミリアにはない。


「もう男がエミリアに贈り物を贈るなんて……エミリア、まだお嫁に行くのは早いからね。せめて十代前半は我が家で過ごそう」

「お父様、話が飛躍し過ぎです」


 愛情たっぷりに育てられているのは分かるけれど、互いに子供過ぎる。親同士の話し合い等ででたことならともかく、ローレンス殿下が私に求婚などするわけないではないか。

 そう思いながら私がお父様を見ると、お父様もため息をついた。


「だって、印だし……」

「どういう意味なのですか? これは、面会許可の目印ではないのでしょうか?」

「本来の意味は側近になってほしい、という願いを込められた贈り物だよ。ただ、異性に贈る場合は求婚のケースもある」


 それを聞いた私は驚いた。

 求婚のケースはないと思うので今回考えないとしても、側近になってほしいとローレンス殿下が思っておられるとは考えていなかったからだ。

 いや、でも今回については側近になってほしいという願いが込められていることもないだろうと思う。単に入場券代わりになるものがほかになかっただけだと思う。


「殿下は聡い方です。今の状況で私にそのようなことをお求めになるとは思えません」

「まあ、無駄に敵を作ることになりかねないもんね」

「はい。それに、この玉飾りはとても綺麗です。私も女の子です。変な子たちに絡まれていた私をキラキラしたもので喜ばせようと思ってくださったのかもしれないです」

「……ローレンス殿下、申し訳ございません。我が娘をそのように励ましてくださったのに、私は濁った考えを抱いてしまい……父親失格です」


 お父様、感情の動きが早すぎます。ここにはいないローレンス殿下に謝罪なさるのはよしとしても、大げさだよ。


 ただ、大げさすぎて演技っぽさもある気もするけど……いや、お父様だ。よくわからない。でも、とりあえずお父様も納得してもらえる理由だったら、たぶん私の予想も外れていないよね。


「殿下はエミリア一人で訪ねても問題ないと仰っているのか」

「お父様はどうなさいますか」

「行ったほうがいいかとも思う。ただ、私が行けばマチルダ継妃たち一派に警戒される可能性はある。それなら子供のエミリア一人でいくほうが、本当にただのお礼だって思わせることもできるんだけど……心配だし」

「大丈夫です、一人じゃないです。殿下はウサギさんがお好きとのことなので、ディアナも連れて行きます。あ、ディアナは普通のウサギさんを装ってくれる予定なんです」


 むしろ、もともとディアナに一緒に来てもらわないとお話が進められない。

 そんな私の言葉にお父様は唸り、そして観念したようだった。


「精霊様がご一緒くださるなら、大丈夫か。危ないと思ったら精霊様にすぐに連れて帰ってきてもらいなさい」

「はい」


 でも、お城の中だよ。

 言葉での攻撃はあっても、襲撃はないので大丈夫だよ。

 それでも心配してもらえているのだから、文句なんてなにもない。

 なにより、この計画を許容してもらっていることに感謝の念は尽きないのだから。


**


 そして、再度の登城の日。


 私はお父様にお城まで送っていただき、門番に取り次ぎを依頼した。

 取り次ぎなら私でもできる……と思ったけれど、書類を書くカウンターのような場所まで背が届かなかったので、ついてきていただけて助かった。


 ローレンス殿下から頂いたフリーパスの飾り玉は、今回は使わないことになった。


 もちろん使うのが一番早いのだけれど、正規の手続きでお父様が面会を申し込んでくださったので今回は必要なくなったのだ。あとはローレンス殿下と特別な関係にあると思われるものを公にしたくないお父様の意向もある。


 お父様としては、私がローレンス殿下の力になること自体には反対なさっていないけれど、リブラ家としては継承争いとは一定の距離を置いている。それなのに外野から『リブラ家はローレンス殿下に力を貸した』と思われるようなことは避けたいのだと思う。だって、ローレンス殿下に何らかの変化が起きるとは限らないし、継妃からの攻撃を受けるのだって煩わしいだろう。それがよくわかるので、私も今日は飾り玉は人目につかないよう、服の下に隠している。


 そんなことを考えながら私は大きなバスケットを抱えてお父様が書類を書いてくださっているのを待った。

 持参したバスケットの中にはコンパクトサイズになったディアナと缶入りの茶葉が入っている。この茶葉は高級だけど軽いから、私が献上するには重さ的にもちょうどいい。

 お父様は書き終えた紙を門番さんに渡した。すると門番さんはそれを見て目を瞬かせる。


「あの、謁見なさるのはお嬢様だけで間違いございませんか?」

「ああ。先日助けていただいたので、改めて娘が御礼を申し上げたいと参上したという次第だ」

「かしこまりました。とても律儀なお嬢様なのですね。では、どうぞ」


 それから門番さんが案内役の方を呼んでくれたので、私は慌てた。


「あの、私の持ち物の確認はしないのですか?」


 持っていないけれど、もしも私が毒物を持ち込もうとしていたらどうするの!

 そう私は焦ったけれど、門番さんは想定外のことを言われたとばかりに目を見開いていた。


「え? あの……って、ああ。確かに王城内に危険物が紛れ込む危険性はありますね。しかし、必要ありませんよ。リブラ家の方にそのような心配はございませんし、そもそもローレンス殿下がお住まいの区画への持ち込みについて、検査は致しておりませんから。ルイス殿下の場合だと、点検させていただかないといけませんけどね」


 え、ちょっと待って。

 いろいろ突っ込み所が満載じゃない……?

 

 ルイス殿下とローレンス殿下の扱いの違いそのものに対するつっこみもあるけれど、聞いてもいないのに言うのってどうなのかな……?


 ローレンス殿下が軽んじられているからなのか、それともマチルダ継妃様の息がかかっているのか……いや、両方だろうか? 門番に悪気は見られないから、城の空気自体がこのようなものなのかもしれない。怒りや呆れというよりは、このような環境下でも自分の意志を持ち腐らないローレンス殿下の凄さを改めて感じた。



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