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◆第18話 初参戦のお茶会

 翌日、私は再びお父様と城に向かった。


 とはいえ、一緒にいられるのは入り口までで、あとは女官に案内してもらうことになった。 

 子供オンリーのお茶会とはいえ、お城に到着後すぐお父様とバイバイになるとは……あまり五歳児に優しくない。でも、それはほかの子供も最初は同じというわけで。いきなり放り込まれるなんて貴族の子女も大変だと思ってしまう。


 そんなことを考えているとすぐに会場である中庭に到着した。


 そこではすでに到着していた子供たちや給仕がいたほか、高そうなドレスを身に纏った大人の女性が一人いた。身分も明らかに高そうだ。間違いなくこの会の実際の主催者だろう。


 そうなれば、彼女の名前は継妃であるマチルダ様であるはずだ。


 この国で『継妃』というのは一番目のお妃様が亡くなったあとに迎えられたお妃様のことだ。つまり国王陛下にとっては再婚相手となる。ちなみに国王陛下は前妃と継妃との間にそれぞれ一人ずつ男児をもうけていらっしゃる。


 私は将来権力争いとかあったら国民としては嫌だなって思うんだけど……国の状況がややこしいというのは、やっぱりそのあたりも入っているのかな?


 しかしいずれにしても今は主催者への挨拶が先だ。私は継妃様への挨拶に向かった。


「初めまして。お招きありがとうございます、マチルダ様。私、エミリア・リブラと申します」

「よく来てくれましたね、リブラの姫君」


 マチルダ様は私をじっと見て、そして扇を口元に当てながら小さく笑った。


「五歳とお聞きしていましたが、五歳とはこのような幼子だったのですね。王子も五歳の頃はあなたと変わらないはずだったのに、私、すっかり忘れておりましたわ」

「さようでございますか」

「ええ。王子もこの場にいますから、後でお話しされてもよいと思いますよ。学べることもあるでしょう」

「ありがとうございます」

「王都ははじめてでしょう? 田舎とは異なり洗練されていますから、そのあたりも学ばれるといいですよ」


 あれ……? なんだろう、この、微妙な感覚。どこか、見下されているような……?


 気にしすぎかもしれないけれど、あまり仲良くしたいタイプではないなと直感では感じてしまった。継妃様のご子息は第二王子のほうだけれど、似たような雰囲気なら会うのは嫌だと思う。


 でも、継妃様に会うように勧められているので、無視するのも躊躇われる。


 仕方ない。

 これはお仕事だと思って腹をくくろう。


 しかし、私は第二王子の顔を知らない。だから誰が王子様なのかはわからない……なんて一瞬思ったけれど、王子様自体の居所自体はすぐに発見してしまった。


 なぜなら男児が多数の女児を侍らせていたからだ。もちろん侍らすのが王子であるとは限らないといえばそうなのだが、この王家主宰のお茶会で自らのハーレムを築こうとするような男などそうそういないはずである。


 ただ、第一王子か第二王子かまではわからない。人垣の先に見えるのは頭頂部付近のみだ。それ以上確認する手段を私は持たない。だって、人垣の中心にいる相手となると挨拶するのは困難だし。

 背丈が低い自分が割り込もうものなら押しつぶされる自信がある。もう少し様子を見るべきかと思案していると、その取り巻きの女児の一人がこちらを振り返った。


 そして私を見て鼻で笑う。

 え、ちょっと……失礼じゃない?


 そんなことを思っていると、その女児が声を上げた。


「ルイス殿下、ずいぶん小さな方がお見えのようですよ」

「小さい?」


 女児に言われて顔を覗かせた男児の名がルイスであるなら、こちらは第二王子のようだ。そして第一王子はここの人垣にはいない。

 そして人垣といえるほどの人が集まっていたのはここだけなので、第一王子はここまで目立つ雰囲気の者ではないのだろうなとぼんやりと思っているうちに、目の前にはルイス殿下がやって来た。


 ルイス殿下の見目は継妃様同様綺麗であるけど、雰囲気は刺々しい。

「名乗ることを許す」

「エミリア・リブラと申します」

「リブラ? ……想像以上のチビだな」


 親子揃って小さい小さい言わなくてもいいでしょうに!

 いや、たしかにこの中ではダントツで小さいけれど!!

 なぜか面倒くさそうな表情までされているけれど、私だって来たくて来たわけじゃない!


「まあいい。優秀になれば配下として使ってやらんこともない。存分に励め」


 信じられないことに、この言葉を発しているルイス殿下は私より三つ年上の八歳児だ。まだまだ偉そうに言うような年齢ではないと思うのだが……いや、歳を重ねても偉そうなことを言えば嫌がられるだろう。現に私は『仮に優秀になってもあなたには仕えません』と思っているところだ。

 唖然としている私の前でルイス殿下は踵を返し、一旦割れていた人垣は再び埋まる。すぐに私からルイス殿下は見えなくなった。

 かわりに人垣の最後尾にいる女児二名が私の方を振り返った。


「ルイス殿下が名前をご存知なんて……あなた、何者?」


 どうやら彼女はリブラ家というものを知らないらしい。もっとも、エミリアもよくわかっていないのだが。

 しかし名前自体は女児も聞いていた様子であるし、エミリアはそれ以上でもそれ以下でもない。

 だから答えあぐねていると、もう一人の女児が鼻で笑った。


「確かに名前はご存知だったけれど、さほど興味を示されてもいませんでしたわ」


 それは人垣の一番外側にいるあなたたちも同じではないかと言いたいのをエミリアはぐっと呑み込んだ。

 相手は子供だ。自分の見た目はもっと幼いが、同じ土俵に乗る必要はない。

 それでも幼児の体に引っ張られてか、感情の制御が大変なので喉まで出掛かってはいるのだが。


「あなたが殿下に見惚れたところで、殿下は迷惑されるだけだわ」


 いや、惚れません。

 そこまで私の趣味は悪くない。


「そうよ、あなたなんて次の王の妃の座なんてふさわしくないんだから、こちらには近づかないで」


 王の妃?


 そんな言葉をかけられた私はもはや瞬きをするしかない。本人といい取り巻きといい、まるでルイスがすでに王位を獲得することを確約されているかのような振る舞いだ。


 王位継承権が必ずしも出生順とは限らない国ではあるが、立太子されているわけでもない第二王子が、なぜそこまで権力を持っているように振る舞うのだろう……? 王妃様がご逝去されたとはいえ、第一王子だっているだろうに。いや、第一王子もルイスと同じくらい思考もしくは行動に問題がある可能性もあるのだが……。


 でも、そのことよりも皆小学校の低学年に該当しそうな見目の頃から、権力にあやかろうとしている様の方が驚きだ。


「ねぇ、なんとか言ったらどうなの?」


 しかし怒らせる回答以外私には思いつかず、どうやり過ごすか考えていた。

 ルイスにもこのやりとりが聞こえていてもおかしくないが、様子を見る限り彼が助け船を出してくれる可能性は皆無だ。周囲には取り巻き以外の子女もいるが、巻き込まれたくはないからだろう、静観している。主催者のはずである継妃様も様子を眺めているのみだ。

 彼女のことは監督者役なのかと思ったけれど、本当にいるだけなのかな。

 ひとまず現状は自分で切り抜ける以外どうにもならないようなので、私はうんと子供らしい声を発声した。


「私、意地悪を言う方は嫌いです」

「「な」」


 女児二人は声を揃え、顔を真っ赤にさせた。

 何か文句があるなら言ってください。私は正面から戦いますよ。

 そんな雰囲気を発するつもりで、私は相手をじっと見た。どこかに行けとでも言われたら立ち去りやすいのだが、何も言われなければそれはそれで困るような……?

 そう私が思っていたとき、肩にポンと手が乗った。そのときまで気配がまるでなかったので私は驚きで飛び跳ねそうになった。


「確かに、小さな子を相手に度が過ぎていたね」


 私の肩に手を置いたのは、彼女らと同じ年代に見える男児だった。顔立ちは随分綺麗だ。

 彼は言葉を続けた。


「罵倒はあなたを、そして周囲の品位も落とすことを理解したほうがいい」


 相手の令嬢が王子の取り巻きとはいえ、王子には相手にされていない者だから強く出ることができるのかもしれない。だが、その言い方は王子の方にも配慮があるように見えた。

 王子も継妃も、そして周囲のほかの取り巻きもその女児二人を援護する様子はない。というよりも、王子に至ってはほかの取り巻きと喋り続けている様だ。

 より顔を真っ赤にさせる女児をよそに、私の肩に手を置いた紳士な少年は柔らかく笑いかけてくれた。


「あちらへ行こうか。喉も渇いているでしょう?」


 この場を離れるには最適の申し出だ。

 私はありがたくその申し出を受けるため、笑顔で返事をした。

 そして少年とともにその場から離れようとしたとき、潜められた、しかし確実に私の耳に届く声がした。


「優等生面の無能のくせに」

「そんな方には子守がお似合いよ」

「はは、その通りだな」


 その声は少年にも聞こえていただろう。

 ただ、少年にはその声を気にする素振りは見られなかった。



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