◆第17話 そして、帰路。
そして、お城からの帰り道の馬車の中。
お父様は盛大なため息をつかれた。
「お父様、お疲れですか?」
「……疲れというより、エミリアを茶会に行かせるのがより嫌になった」
「そういえば、感想を求められていましたね」
王家が主宰するものであれば一応その感想を述べる必要はあるだろう。
けれど、そもそも――。
「お土産をいただくのでしたら、今日お時間をいただく理由はあったのでしょうか。大したお話はありませんでしたし、陛下もお忙しい中お時間をとられたのは手間だったでしょう」
そう。感想を聞きたいなら事前にそう告げられていれば、謁見の時には言えたはずだ。
お父様は肩を竦められた。
「やっぱり、エミリアは気付くよね?」
「やはり、とは」
「陛下はエミリアを見たかった。そのうえで茶会がどうその目に映るかききたかったんだよ」
「なぜそのようなことを?」
こんな小娘一人の意見を気にするような立場ではないだろう。
そう思いながら私が首を傾げると、お父様は苦笑した。
「さすがにエミリアでもまだ理解し難いと思うけど……今の国の情勢はなかなか難しいんだ」
「難しい、ですか?」
「権力のバランスだね。人前では言えないんだけど、前の王様はとにかく頭が悪くて、いまの性格の悪い王様はそれを立て直そうとしてるんだけど、なかなか大変で」
とりあえず今の王様に関することは省いておこう。そのうえで頭が悪い前王様って……つまり、政治が腐敗してたってことなのかな? その上で立て直そうとしている今の陛下をお父様が嫌っているのは……もしかして、そのしわ寄せを食っているからだろうか?
「もともとは中央と距離を置いていたリブラ家としては巻き込まれるのは御免なんだけどね。たぶん、エミリアにも何か手伝ってほしいことがあるから今のうちから見ておいてほしい、感想を聞きたいって思ってるんだよ。それで駒にできるか判断したいんだと思う。失礼な話だよね」
「私が陛下のお手伝いですか?」
私、まだ五歳なんだけど。
しかもそんなに顔を合わせる回数を重ねない間に五歳児に手伝えという無茶ぶりを国王がするなんて思えないのだけれど……。
「たぶん、当初は数年後に引き込めるかを見たかっただけだと思う。後は私の浮かれ具合から、どういう娘か気になっていたという理由も考えられる。けれど、思いのほかしっかりした受け答えだったから……後日もう一度会って、判断したいと思ったんだろう」
いえ、さすがにそこまで深いところまでは考えていらっしゃらない……と思いたい。だって、まだ本当に幼子だ。
「でも陛下の期待なんてどうでもいいからね。変に頑張る必要はないから」
そもそも頑張ったところで役立てるとも思わない。
「それよりも、他の子にいじめられないよう気を付けるんだよ。悪意を感じたらすぐに帰ってきたらいいからね」
「お父様、さすがに心配しすぎです」
人目がある場所でそんなことをしてはいくら子供であっても令嬢としてはイメージダウンだ。そんなことはしないように躾けられているとも思う。
しかしお父様の様子は一向に明るくならない。
「エミリアは可愛いんだ。いくら心配してもしすぎることなんてない」
「でも、お茶会ですよ?」
「お茶会だって魔物は住んでる。特に女性の戦場にもなりやすい。なんならシエロに魔術以外も聞いておきなさい。武力を使わない戦いもあるんだ」
……女の戦いというのはやっぱりここにもあるんだね。
まぁ、早い遅いはあってもいずれ通る道だろうし……まずは体験学習という雰囲気でいきますか!