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◆第16話 王都での謁見

 謁見の三日前、私とお父様は王都内にあるリブラ家の屋敷へと発った。

 その道は馬車に乗ったんだけど……乗ったのはただの馬車じゃなくて、なんと馬には羽が生えていた。


 でもこの馬は特別な精霊ではなく羽馬という普通の生物らしい。可愛いしとても長寿だし早い移動ができるけれど繁殖力が低いうえ、飼うにはなかなかのお金がかかるらしくて、普通は羽のない馬が主流だ。我が家にもいるのは四頭のみと聞いている。っていっても、四頭もいるっていうこと自体が普通じゃないみたいなんだけど。


 しかし普通よりずっと早く到着すると聞けたのはありがたかった。前世で乗り物に乗った回数は少ないけれど、数少ないそれでも酔いがひどかったから、馬車が少し心配だったんだよね。


 けれど、リブラ家の王都の屋敷に行くこと自体は少し楽しみでもあった。あることは知っていたけれど、訪ねるのは今回が初めてなんだもの。


 そしてわずか一日、夕刻頃に到着した屋敷で私は歓声を上げた。


(建物自体は領内よりこじんまりとしてるけど、街の様子から見たら大き過ぎるお屋敷ね)


 リブラの領内に比べて王都の人口密度は高く土地に余裕もあまりない。つまり、相当地価も高いはずだ。

 そんな状況でこのような大きな家を持てば固定資産税がかかるのだろうかと私は内心恐々としてしまった。あいにくまだ税制の教養は受けていないので、その制度がここで適用されているかどうかなど知る由もないのだが。

 こちらの屋敷にも広い庭があり、木々もたくさん植わっている。通り抜ける風も心地よく、天気が良ければいちにち日向ぼっこをしていても気持ちよさそうだ。


「移動で疲れてるから、今日はゆっくり休むとしよう。会談が終わったら、街に遊びに行こうか」


 そうお父様に言われてしまえば、ゆっくり休む以外の選択肢はない。

 今回の旅にはディアナとルーナはやってきていない。

 それは、私とディアナの契約を公にしないためだ。ルーナさんも契約のことが公になると人間の間で私への対応が変わるだろうことを予想していた。

 そして王都へ自分も行くと主張するディアナにルーナさんは言った。


『お主、人型に変化してもそのウサギの耳が残るようなら、人前には出れんだろう』

『う……』

『よい機会じゃ。エミリアがおらん間に練習するぞ。お主は家に帰るといつもごろごろとしおって練習せんからな』

『わー、エミリアの前で言わないで!!』


 ……そんなことがあったので、今回はお留守番だ。

 私としてはうさ耳少女は可愛いから、私の前ではウサギ耳のままでいてくれてもいいのになーって思うんだけどね。

 でも、確かにまだ精霊さんのことを言うのは早い。それは周囲にさんざん特別な力だと言われていることもあるけど、私自身がどれくらい凄い力なのか、本当の意味でわかってないからだ。

 本当に使わなきゃいけないときが来たらそんなこと言ってられないけど、今は別になくても大丈夫だし、それならどういう力なのかはっきりわかってから使いたい。

 私はそう思っている。

 それにディアナが本当に人に化けることができたなら、一緒に街中へお出かけできるようになるから、それもそれでいいかなー……なんて思っているうちに、あっという間に謁見の日がやってきた。


※※※


 国王の住むお城はやはり巨大だった。

 前世でもテーマパークのお城しか見たことがなかった私には圧倒的だった。

 本物は凄い。歴史が感じられるのは言うまでもなく、重厚な雰囲気が漂っている。いや、リブラ家のお屋敷も充分凄いんだけど!


「お父様、お城、凄いですね」

「ああ。エミリアもこういうふうな所に住みたいのか?」

「うーん、住むのはいりません。おうちでも広すぎるくらい。でも、お城をお絵かきしてみたいかもしれないです」


 ディアナに説明するためにも何がどうだったとか簡単にメモしたいけど、さすがに時間があってもここで書く自信はない。

 でも、このお城となると私の画力でかけるかなぁ。絵は好きなんだけど説明できるほどのものが描けるか……って、別に絵じゃなくてもいいかな?


「屋敷からも見えるから、見ながら描けるよ……って、どうした?」

「あ、いいえ。ただ、ちょっと、いろいろ考えてて」


 できる限り見たままを伝える方法を考えはじめてしまったけれど、今は謁見前だ。あんまり考えすぎるのもよくないよね。


「そうか。じゃあ、また後で相談しよう」

「はい」

「でもよかったよ、あんまりエミリアが緊張していないみたいで。国王はなかなか性格がよろしくない。適当にあしらっておくといいよ」

「えっと……?」


 いま、さらっとお父様は失礼なことを仰ったけど……あれ?

 お父様が謁見を嫌がっていたのは忘れていないけれど、城内で堂々とそのようなことをいうのは想定外だった。


 あの、大丈夫……?


「まぁ、内緒だけれどね」


 私の気持ちが伝わったかどうかはさておき、お父様は冗談めかしに言われたけど……国王様はいったいどのような人なんだろう。面倒くさい人でなければいいんだけれど……お父様以外からは性格についての言及もなかったし、単に反りが合わないだけかな?


 そうこう思っているうちに、私たちは謁見の間の前までやってきていた。


 私はお父様のほうへ視線だけ動かした。

 すると、そこにはいつもの表情とはまったく異なるお父様の顔があった。

 今のお父様はものすごく真面目で、気難しそうで、それ故に威厳があり厳格そうだという雰囲気だ。お母様相手に惚気る様子なんて想像できない……というより、むしろかつてお母様に良い格好を見せようとしてすれ違ってた原因の姿に近い。


「では、行くよ」

「はい」


 そして、扉は門番によって開かれる。

 扉から玉座の位置まではそれなりにある中、私はお父様の後をついていく。

 お父様は玉座の前の階段下で止まり膝をついたので、私もそれに倣った。

 部屋の中にはほかに人はいなかった。


「面をあげよ。ご苦労であったな、アーサー」

「ええ、本当に」


 ……本心だとは思うけれど、お父様、それ、その顔でも正直に仰るのですか。

 けれどいつもと違う表情を見た後で、なおかつ硬い声であったことからか、不思議と至極当然のことをいっているようにも聞こえた。

 私はそっと国王陛下のお姿を窺った。

 国王陛下はお父様より少し年上に見えるけれど、若い。

 そして国王陛下はお父様の言葉を気にする様子を見せていなかった。


「リブラの姫よ、名をなんと言ったか?」

「エミリアと申します。お目にかかれたこと、光栄に存じます」


 事前に習った通りの角度で礼をとり、しっかりとご挨拶申し上げると、陛下は「ほう」と仰った。

 ほう、って何ですか! ほうって!


「お前はいくつになる?」

「先日五歳になりました」

「王都へ来るのは初めてか?」

「はい」

「王都で興味を持ったものは何かあるか?」


 その質問に私は一瞬戸惑った。こんなにやり取りする予定はなく、お言葉をひとついただくくらいだと聞いていたけれど、尋ねられたら答えないわけにはいかない。でも、難しいな。


「どうした?」

「初めて見るものが多すぎて……すべて申し上げてよいものか考えておりました」

「ああ、そういうことか。問い方に問題があったな。言い方を変えよう。何が一番気になった?」

「一番は……市場です。車窓からちらりと見ただけですが、多様な服装をみる限り、見たことがない品がたくさん売られていると思いますので」


 よし、無難に答えられた。思わず『お父様と買い物に行くお約束しているんです』と言い掛けたけど、さすがにそこまで言っちゃうと私的すぎるよね。

 私の返事に国王陛下は頷かれた。

 あれ? 頷くところあった……?


「アーサー、お前の娘はえらく肝が据わっている上、年不相応に流暢だ。ずいぶん利口そうではないか」


 え、それはお世辞にしては大袈裟だし、もし本心なら買いかぶりにもほどがある。

 難しいことをいったつもりはないけれど、そもそも私も本来の五歳児の会話を知らない。

 ……もしかして、やりすぎた? でも、余計な期待をかけられても困るんだけど!

 しかし焦る私とは対照的にお父様に焦りはなかった。


「私の娘は賢いのです」

「いや、それは見ればわかる。だが――残念だよ」


 え、残念……? 普通、たとえ五歳児にしてはという前置きがあったとしても……賢いと言われれば残念がられる要素はないよね?


「まぁ、よかろう。明日は茶会は楽しんでくれ。領地に帰るまでに私からも土産をやろう。なに、会談というほどの時間はとらんが、登城せよ」

「茶会の参加もほぼ強制的にお決めになったうえ、もう一回来いとは……さすが陛下ですね」

「そのように遠慮なく言うのも、さすがリブラ公といったところか。だが、説明していないのか? 娘が不思議そうな顔をしているぞ?」


 いえ、私が不思議に思っているのは楽しそうな陛下のご様子なんですけどね。


「明日の茶会の感想を楽しみにしている。時間を取らせたな」


 ……これで謁見は終わり、かな? でも、こんな短時間の謁見のためだけに呼ばれたのかな?

 本当に私のことを見たかったというのであれば、その可能性もなくはないのだが……。

 もしかしてこの面談がついでで、本命がお茶会だったりするのかな?


 そんな可能性を思いついた私はあわててその思考を打ち消そうとしたけれど、なぜか頭から離れない。……いやな予感がする。

 よくわからないが、もしもそうだとすれば……とんでもなく面倒なお茶会が待っていそうだと思わざるを得なかった。



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