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◆第13話 精霊様、変身する。

 その後ルーナさんはエレガントな黒兎の姿になり、窓を飛び越え消えていった。

 美人さんはウサギ姿になっても美人だった。


「……ねえ、ディアナ。ディアナも人の姿になれるの?」

「なれるはずだよ。幼体だと無理だけど、成体になったらできるって聞いてるもん」

「じゃあ、見せてみて!」


 美人さんが美人なウサギなら、ディアナも超絶可愛い姿になるはずだ。

 そう私は思ったけれど、ディアナの返答はどうにも渋い。


「だめ?」

「だめっていうか……恥ずかしい」

「恥ずかしいの?」

「どんな姿になるかわかんないし。変身も失敗しちゃうかもしれないし」


 なるほど、それも一理ある。

 でも、それは私が納得する理由にはならない。


「初めて見るなら、鏡があるほうがいいよね! ここにあるよ!」

「えっと、あるのは知ってるけど……」

「きっとすっごく可愛いよ。たって、ルーナさんが凄く美人だし!」

「そ、そうかな……? 私もお母様に似てるかな……?」

「うんうん。だから、ほらほら早く」

「えー、そうかなぁ。そんなに、見たい?」


 あれ、ダメかと思ったけど、これってもう一押ししたらいけるんじゃないかな……?


「ものすごく見たい!!」

「仕方ないなぁ。じゃあ、変身してみるよ」


 やったぁ、押し勝った!

 私の目の前でポンっという音と煙に包まれたディアナは、子供の姿に変化した。

 あれ?

 成体っていってるから大人の姿だと予想していたんだけど……でも、可愛い!

 ウサギの姿と同じオレンジ色の髪はふわふわのショートカットで、目はくりっとしている。そして人間の耳はなく、ウサギ耳が残っていた。


「ど、どうかな」

「かわいい! ふわふわ! ディアナも見てみて!」


 そしてディアナは鏡を見て悲鳴を上げた。


「み、耳が残ってる! 人間みたいな耳がない……!」

「それが可愛いんだよー! 可愛い、すっごく」

「そ、そう……かな?」

「うん! 私もそんな耳、つけてみたい」


 そう言うとディアナは最初もじもじしたものの、自信を持ったらしく、腰に手を当ててフフンと鼻を鳴らしていた。

 そんな所もまた可愛い。


「でも、てっきりディアナもルーナさんみたいに大人になるのかと思ったよ。成体って大人のことじゃないんだね」

「成体は、こうして力が一定以上強くなって変身能力を獲得できた精霊のことだよ。変身以外にも、種族の力が使えるようになるの。姿は年齢に換算されるんだけど……私、まだ三十歳だもん!」

「へぇ……!」


 得意げなディアナに私は驚いた。ディアナ、けっこう年上だった……!

 ただ、精霊だから人間と年齢の感覚は違うんだろう。だってルーナさんでさえ三十歳には見えなかったし。ディアナは外見年齢が私くらいだから……単純計算をしたら、もしかしなくてもルーナさんって百歳を超えてたりする……?

 あと、成体になることについては変身できることよりも力が使えるようになることがメインなんじゃないかなと細かな突っ込みもあるけど、たぶんあまり気にしちゃだめだよね。


「ところで、ディアナの種族の……神兎の力ってどういうのなの?」

「えっとね、身体能力の強化と夜に強くなるのと、氷や雪の力が使えるよ!」


 身体能力というのは、大きくなったり小さくなったりするところからなんとなく納得できる。野原に連れて行って貰ってたので雪や氷っていうのは少し意外だったけれど、雪ウサギもいるし。ディアナやルーナさんとは色がちょっと違うけどね。


「必要になったらいつでも呼んでね。私が自分で精霊の力を使う分には、エミリアの魔力は高くなくても大丈夫だよ!」

「ルーナさんが言ってた、私が使う条件っていうのは?」

「それは私の力をエミリアが自分で使うときにいるものだよ。契約者が精霊の力を使うと、契約者自身の魔術の力がぐんとあがるんだよ。難しい術も使えるようになるの」

「底上げできるってこと?」

「うん、そう!」


 なるほど。

 確かにお願いして使ってもらうのも手かもしれないけど、自分が使いたいように使うなら私の魔力を上げて自分で使う方がいいよね。


「でもね、この力が欲しいために精霊と無理に契約しようとしたり、捕まえたりしたいって思う人間もいるの。そんな人間にとってまだ力の弱い幼体の精霊はすごく都合がいい獲物になるかもしれないの。そんな中で偶然でも名付けをしちゃって、それが契約に繋がってしまうって話が広く伝わってしまったら大変だから、言っちゃだめだってずっと言われていたの」

「だからルーナさんは怒ってたのね」


 なんとなく私から契約をしたものと思われて怒っていたのはわかっていたけれど、そんな悪い人もいるなら警戒しても仕方がなかったと思う。だって、ルーナさんにとってディアナは可愛い子供なんだもん。


「ごめんね。でもエミリアなら絶対大丈夫だって思ってたし、人間って精霊との契約をご褒美みたいに思ってるみたいだったから、喜んでくれると思って驚かせたかったの」

「大丈夫だったから気にしてないよ。次に何か大きなことをするときは教えてほしいけど。それより、早く魔術の練習をしよう?」


 私はそんなことを知らなかったけれど、むしろディアナが喜ばせようとしてくれていたなら、今回は問題ない。それよりも魔術の修行が優先だ。

 でも、ディアナは首を横に振った。


「でも、修行は今日はしないの」

「どうして?」

「私がエミリアの魔力を吸い上げすぎてるの。だから、始めるのも十日くらい後じゃないと倒れちゃうかも」


 それは困る。


「だから、それまではゆっくりするといいの」

「わかった」


 でも、魔術っていうのも楽しみだから修行が先延ばしになっちゃったのは少し残念でもあるかな。


「あとね、たぶんエミリアのお父様やお母様も魔術が使えるはずなの。私もエミリアが使えるように頑張って教えたいけど、人間のことはわかんないから、エミリアからも聞いてみて?」

「うん、わかった……って、ディアナ? なに、にやにやしてるの?」


 真面目な話をしているはずなのににやけ始めたディアナに私は首を傾げた。

 するとディアナは満面の笑みで返事をくれた。


「それは私が『ディアナ』になったからだよ」

「それはどういう……?」


 いまいちわかりにくい返答に首を傾げると、ディアナは満面の笑みを私に向けてくれた。


「だって、これで『ディアナ』の誕生日は今日になったんだよ。エミリアと同じだよ。ありがと、エミリア」


 そうして喜んでもらえたら、私としてもとても嬉しい。

 成体になりたかったのも本当だろうけど、本当にそれだけじゃないって、疑う余地もないって視覚的にわかるもの。

 それからしばらくしてディアナはウサギ姿で帰って行った。帰ってからはうさ耳を消す特訓をすると言っていたものの、私としては残してくれていても嬉しいとは思う。

 ただ、本人が消したいのであれば応援はする。がんばれ、ディアナ。



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