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◆第11話 五歳になりました。

 五歳になった私は、プレゼントに囲まれて起床した。


「お父様とお母様……今年も随分張り切ってくださってるなぁ……」


 大小さまざまな箱がおいてあるけれど、よくこれを設置される中でも私は寝続けられたなと思ってしまう。


 ただ、それもある程度仕方がないことだとは思っている。

 たぶんこれ、お父様の特技だし。

 実はお父様は限りなく気配を薄くする特技をもっていらっしゃる。そして、それはお仕事で必要とするものらしい。

 私が赤ちゃんの時も部屋の前までは実は気配を消して来ていたというのは最近知った。

 部屋の中まで気配を消してこなかったのは、敏感な赤子の前に急に現れ驚かせてはいけないという配慮からだったそうだ。


 いや、足音が聞こえてても慣れない人が来たら普通に赤ちゃんはびっくりすると思うけどね!! お父様の気遣いはちょっとだけズレている。


 そしてこの箱自体に驚かないのは、去年も一昨年もその前も、誕生日は毎年箱だらけだったからだ。いや、数自体は今の方が断然多いけど! レベルアップしちゃってるけど!!

 どの箱から開けようかなぁと私が迷っていると、ゆっくりとドアが開いた。


「あら、間に合わなかったかしら……? おはよう、エミリア。お誕生日、おめでとう」

「おはようございます、お母様!」


 お母様の表情のなさはあの頃から何も変わっていない。でも、雰囲気は違うと思う。

 あ、あと今のお母様は身重だ。

 なんと、あとしばらくしたら私に弟か妹ができるらしい。

 赤ちゃんだよ、赤ちゃんが産まれるんだよ!

 私がお姉ちゃんになるなんて、すごく楽しみで、ちょっとだけ緊張してしまう。


「今日はこのドレスを着ましょうね」


 そう言って広げられたのは真新しい水色のドレスだった。

 さっそくそれに着替えると、今度はお母様が髪を結ってくださった。

 元お姫様なのだから、自分の髪を自分で結うことはなかったと思う。だから私のために練習してくれたのだと思うとくすぐったい。


「さあ、できたわ。朝食に行きましょう」

「お母様、プレゼント、開けるのあとですか?」

「いまでも良いけれど……時間がかかるわね」


 もっともなことを言われ、私はお母様と共に食堂に向かった。

 気にはなるけど、お腹もなっているのだ。

 そして食堂前の使用人にドアを開けてもらうと同時にたくさんの花びらが舞う。


「お誕生日おめでとう、エミリア」

「お父様!」


 飛びついた私をお父様は抱き上げてくれた。

 背も伸びて体重も増えたけど、まだまだお父様はびくともしない。何歳までこれしてくれるのかな? って思うのは、まだまだ早いかな?

 お父様は私を席におろしてくれてから、自分も席に着く。お母様もほぼ同じタイミングで座っていた。

 朝ご飯にはトロトロのスクランブルエッグに香ばしいベーコン、ほくほくのマッシュポテト、それから焼きたてのパンに緑の葉物野菜と赤くとがったトマトがある。

 美味しそうなのに、お父様はジャムを塗りながら突然ため息をついた。


「あー……せっかくのエミリアの誕生日なのに仕事に行かなければいけないなど信じられない」


 う、なんだか今日誕生日なのが申し訳ない。

 しかしお母様は淡々としている。


「旦那様、お仕事はお仕事です。先方もリブラ家の領地までやって来られるのですから、諦めてくださいませ」


 ごもっともです、お母様!

 さすが元王族、公務の優先度は何より高い……と思ったけど、リブラ家自体もいい家柄だったよね? ていうことは、やっぱり性格かな……?

 お母様の言葉にお父様は口を尖らせた。


「わかってる、わかってるが……なにも今日呼び出さずともいいだろう。私はふた月は呼び出されないように手配したはずなんだ。前の遠征を引き受ける代わりに出した条件だったのに」


 それでもお父様は文句を言いつつも呼び出しに応じるつもりだからこそ不平を言っているのだろう。そんな中で私が言えることは……。


「お父様、お仕事がんばってね。お帰り、お待ちしてますね」


 これくらいだ。

 行きたくないっていうのに頑張れと言うのは気が引ける部分がある。ただ、お父様に限ってはこれを言った方がいい。


「エミリアに言われたら頑張るしかないな。さっさと終わらせて帰ってくるから、いい子にしておくと約束してくれ」

「はい、約束です」

「約束だからな」

「旦那様。エミリアの食事が進みませんから、そのあたりにしてくださいませ」


 最近、お母様はお父様に遠慮もなくなってきたみたい。うん、いい傾向。だってこの家でお父様に突っ込みを入れることができる人なんてお母様しかいないんだもの。

 朝食後、お父様をお見送りしてから私はお母様と共に自室に戻った。

 そして始めるのはプレゼントの開封作業だ。


「ご本が入ってる! こっちは……わぁ、お絵かきのお道具!」


 箱から出てくるプレゼントに私ははしゃいだ。


「お絵かき……お母様とお父様を描くの!」

「楽しみにしているわね」

「はい!」


 前世は描きたいという思いがあってもあまり上手じゃないことや気恥ずかしさで描けなかったけれど、この姿ならどんな絵でも大丈夫なはずだ。

 お絵かきをしたいと言ったことなんてなかったし思いつきもしてなかったけれど、このプレゼントはありがたい。

 他にも筆記用具やノートも束で入っていて私はうっとりしてしまった。さっきの本も勉強の本だったし、ありがたいことこの上ない。

 いますぐ勉強しなくてもよい年齢だということは私にも一応わかっている。けれど、勉強をしないということ自体にも私は落ち着かなかったりする。だって今後もいらないならともかく、今後絶対必要になることがあるんだよ? それなら少しでも早く勉強をしておきたい。

 ほんの初歩的な計算などは忘れないけど、少し応用していくような問題となれば勉強しないとすぐに忘れてしまう。それに、この世界は明らかに前世と違う世界線なのだ。前世では見たことも聞いたこともない常識に出会うこともあるだろうし。

 ほかにも洋服や帽子にお人形と、たくさんのものが入っている。

 おお、この花のブローチもかわいい! この間お父様とお母様にって摘んできた花とそっくりだ!

 すべてを広げて、定位置を決めて片づけていったら、もはやお昼前になっていた。

 もちろんそれは量もあるけど、私がゆっくり広げたり中身を見たりとかしていたから時間がかかってしまってるんだけど!


 昼食を取った後はお昼寝の時間となる。


 もっとも、私がお昼寝をする事は稀なんだけどね!


 私は一人になったお部屋で、窓を開けて友人の到着を待った。

 ウサギさんウサギさん、準備は完了したよ。

 ウサギさんが精霊であることを私は両親が仲直りした日に知ったけど、それからも変わらずウサギさんはウサギさんだった。精霊というより小動物そのものだと思う。

 そして両親は私に精霊さんが良くしていると思っているけど、あのときはたまたまで普段から頻繁に会っているとは思っていない。

 というのも、そもそも精霊は本来人前にそうそう姿を現すわけではないらしいのだ。だから本当はお花をもらっているとか、ウサギライダーをさせてもらっているだけでも驚くべきことだと聞いた。


 内緒なので私がウサギライダーを日常的にやって屋敷を抜けだしているなんてとても言えはしないけど、お話を聞いた雰囲気だとそもそも言っても信じてもらえないような気もしている。

 そんなことを考えつつしばらく待っていると、窓からウサギさんが飛び込んできた。


『この日を待ちに待ってたよ! お誕生日おめでとう!』

「ありがと。今日はとうとう名前を贈る日だね!」


 実はこれまでの間、ウサギさんには名前をまだプレゼントはしていなかった。

 理由は『いい名前を考えてくれても、しっかりとした発音で間違いなく言ってもらわなきゃ困る』というウサギさんの要望が原因だ。

 何歳からしっかり発音ができるようになるのか私にはよくわからなかったけど、ウサギさんが五歳の誕生日を指定したのでこれまで延期されていた。

 だから今日は誕生日であるとともに、いよいよ私が友達に名前を贈る……人生初の名付けの日でもあるのだ。


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