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◆第9話 お話をいたしましょう。

7月1日、投稿を入れ違いにしてしまっていたため割り込み投稿で修正しています。

申し訳ありません……!

ーーーー

 お母様の部屋にきている自覚がお父様にあったのかはわからない。ただ、お父様も言葉に詰まる。


「旦那様、いかがいたしましたか」


 お母様の再度の問いかけにもすぐには答えない。ただ、ずっと黙っておくことはできないとも思ったのだろう。


「見ての通り……エミリアが……屋敷を動き回っていたものだからな……」


 窓から不法侵入の如く跳び入ったことをお父様はあえて言わないようだった。もしかしたらお母様が今以上に驚かないように配慮してくださった……のかな?

 でも、お父様の表情を見る限りそうとも言い切れない雰囲気はある。

 なんというか、動揺して言葉に詰まっているような。だからお母様が動揺されていることにも気付けていない……?


「どこに行くのかと思い追っていたが、エミリアはそなたと一緒にいたかったのだな」


 お父様は自分を邪魔者だと誤解している。

 ち、ちがうのよお父様! お母様と一緒にいたかったんじゃなくて三人でいたかったんですよ!

 でも、気付いてない面ではお母様も同じだった。


「……どうか、この子を見捨てないでくださいませ」


 静かに紡がれたお母様のお言葉に私は驚いた。

 え、聞き違い……じゃ、ないのね? でも、今のどこに見捨てる要素が!?

 でも、そこで私ははっと気付いた。

 お母様はお父様に遠慮して人前で私に会わないように気を使ってる。私が会ってはいけない人だと思っているのだ。

 だから会っては行けない人に会いに行くような私にお父様が怒ってると誤解している……?

 たしかにさっきのお父様の声はがっかりしていたけど、それは『可愛がってたつもりなのに娘がなつかない』って思ったからだと思うよ!

 ただ、その言葉に驚いたのはお父様も同じだった。


「見捨てる……? 何を言っている」

「この娘は私の部屋を知らないため、私に会いに来た訳ではございません。この娘が旦那様にお手間をお掛けしたのは愚行ですが、幼子の行動です、今一度ご猶予を」


 やっぱりお母様も勘違いをしている!!

 そしてお父様はお母様の言葉に混乱している。うん、そりゃ混乱するよね。お父様からは話がまったく見えないものね。


「私はこの程度のことで娘を見捨てるなどしない」

「ありがとうございます」

「礼など言われるまでもない、当たり前のことだ。だが……むしろそなたは私がこの子を手放した方が都合がよいのではないか?」

「……それはどういう意味でございましょうか」 


 今度はお父様の言葉にお母様は驚いた……と、思う。表情は微塵も動いてないが、声が固くなった。

 それでもお父様は言葉を続けた。


「この子を連れて、本当は国に帰りたいのではないか」


 お父様、言い方がぁああ!

 いや、お父様としては気遣った結果の言葉なんだと思うけど! 思うけど!

 勘違いしたお母様には逆効果にしかならないよ、それ!


「……旦那様がそう望まれるのでしたら」


 ほら、お母様勘違いしちゃったよ……!


「望むと思うのか?」


 お父様、むっとしないで! 誤解の結果だから!

 ううん、悲しみを堪えようとして強がった結果がそんな表情になってるのかもしれないけど、責めてるように見えちゃうから!

 お母様が気付いてくださればいいんだけどーー。


「わかりません」


 ほら、やっぱり伝わらない! それにお母様、火に油を注いでます!

 でもこんな調子だから、私はおろおろしながら二人を見た。

 たしかに引き合わせようとしたのは私だよ? でも、ちょっと待ってよ。私、顔を合わせただけでこんなに険悪に見える譲り合いになるなんて思ってなかったよ!! 最低でもこの間の素っ気無い玄関での対応だと思っていたのに、言い合いに聞こえる今の方がよっぽど酷い! 絶対お父様も悲しんでるし、お母様も覚悟を決めた雰囲気で悲壮だよ……!

 だめだ、この空気。

 私がこの状況を生んだなら、責任をもって破壊しなければいけない……!


「だう、だぁ! ばああ!」


 仲直りをさせるつもりで離縁させたなんていう結果には絶対できない。

 そんな強い思いで主張した私の声に両親の肩は揺れた。

 原因である私の存在を忘れていたというところだろうか?

 それとも、まさかツッコミが入るとは思っていなかったのだろうか?

 いずれにしても争いが一時停止してくれたのならありがたい。

 両親の視線を受けた私はウサギさんから降りて、まだ距離がある両親の間に座った。そして両手を伸ばして互いに近づくようにジェスチャーで要求した。

 ほら、物理的に距離が遠いからよけいに相手の感情がわかりづらいんだよ。

 一旦落ち着いてから寄ってみようよ。

 そして、できれば私を抱っこしてくれたら嬉しいな。それだと再度ヒートアップしても止めやすいし、そもそも視界に娘が入ればヒートアップもしにくいかもだし。

 でも、私の誘いもむなしくお父様もお母様も動かない。

 微動だにしない。

 ちょっと、待って! ちょっと待って……?!

 娘は悲しくて泣けてくるよ!!

 でも涙を堪えながらよくよく見ると、動かないのではなく動けないように見えた。

 それから無言の時間が流れ、先に口を開いたのはお母様だった。


「……私にその子を抱く権利はありません」

「何を言う。この子はそなたの子だ」


 お母様の言葉にお父様は間髪入れず反論した。

 しかしお母様は首を横に振る。


「ですが、リブラ家の娘です。リブラ家にご迷惑をお掛けした私に、その子を抱く資格などないのです」


 ああ……お母様は人目がないところでも私を抱き上げないよう徹底してたもんね。でもね、お父様はそんなことを知らないんだよ。勘違いしちゃうよ。


「私の子は、抱きたくないというのか」

「そのような意味ではございません!」

「では、どういうことだと言うんだ。王女であれば、他国の王室への輿入れもあっただろう。その道を奪い去ったのは私だ。恨まれてもしかたがない。そなたの理屈で考えれば、エミリアを抱く資格がないのは私のほうだ」


 お父様の言葉に、私は『通じた……!』と心の中で思った。

 お母様にとっては衝撃の告白だと思う。

 でも、これでお母様に本音が通じたなら、きっと後はうまくいく……!


「……なにを仰っているのですか。旦那様の選択肢を奪ったのは、私です」

「何の話だ」

「惚けないでください。他国の王家からの婚約の打診に、断るという選択肢はありませんでしたでしょう」

「断るものか! 私はなんとかあなたと繋がりが持てるよう奔走したくらいだ! あなたが冷静で大人びた雰囲気をしているから、それに合わせようと……なんとか威厳がでるよう今まで努めてきたくらいなのに、どうして断るという選択肢が出てくるんだ!?」


 あ、素のお父様に戻ってきたかも。

 表情もいつもの喜怒哀楽が激しい時の、必死の表情になってしまっている。

 お母様は表情を変えないまま、瞬きを繰り返している。


「し、信じられません」

「ああ、もう! 慣れない生活でもいつも一生懸命だったあなたに惚れるなというほうが無理だろう! 真面目で高潔、そんな方が目の前にきたら誰だって気にせずにはいられないはずだ!」


 お父様、どうもやけになってらっしゃいますね。可愛いです。

 ただ、それに対してお母様も黙ってはいない。


「それなら私も主張させてくださいませ。慣れぬ勉強を懇切丁寧に無償で教えてくださる方を想わないわけがないでしょう。威厳がでるようというのなら、旦那様は最初から威厳あるお方です。私が関係せずとも威厳はあります」

「だから、それはあなたに格好をつけようとしていたんだ」

「格好をつけたことで私が惚れたとおっしゃるのですか? では、格好がつけられなかった私は旦那様に惚れられる理由がございません」

「そういう話をしているんじゃない! だから、もう……とにかく私はあなたを想っているんだ」

「旦那様が私を……? いいえ、そのようなことはありません。あったとしても私の方が旦那様を想っております」

「な……! 私の方が先に決まっているだろう!」


 あ、れ……? どうしてだろう。

 目論見は成功し両親の誤解は解けているはずなのに、今はどう考えても惚気合戦をやっているようにしか見えない。おかしいな。

 仲がいいことはすばらしいと思うのに、どうにもこうにもここにいていいのかわからなくなってきた。

 ふとお母様のお付きの方と目があった。

 彼女は呆気に取られたと言った雰囲気で、完全に席を外すタイミングを失ってしまっていた。


『ねえねえ、エミリア。これって解決したの?』


 両親を眺める私にウサギさんの声が聞こえてきた。

 一応、解決していないことはないと思う。誤解は解けたみたいだし。

 ただ、どちらがより思いが強いかということを争うという新たな問題は生まれているけど……これは私じゃたぶんとめられないかな。

 だって、学生時代からの互いの思いの強さをどちらかが譲るとも思えない。

 毎日毎日惚気を聞いていた私にはわかる。

 でも、たぶんお互いにここまで堂々と告白するつもりなんて本当はなかったんじゃないかな。だから正気になった時にひどく恥ずかしくなりそうだけど……でも、それ自体は大きな問題にはならないだろうから、ま、いいか。

 問題があるとすれば、両者の言い争いをどう一時中断させるかということだ。

 解決できるとは思わないけど、中断しないと声に気づいた使用人たちもやってきかねない。そうすれば恥ずかしい思いをするのは両親だ。


「だう。だうだう」


 その私の声に両親は再び弾かれたように言い争うことをやめた。

 鶴の一声ならぬ赤子の一声である。

 お父様はこまったように私の方を見て、それから抱き上げてくれた。


「あなたが嫌がると思って深夜にしか抱いたことはなかったが……昼間に子を抱くというのもよいものだな」


 そう言いながらお父様はお母様に私を渡した。

 お母様の腕は細く、私を抱いたら折れてしまうのではないかと一瞬危惧したけれど、思いの外抱かれ心地はしっかりとしていた。

 これが待ちに待ったお母様の抱っこの感覚なのかと思うと、少し不思議な気分だ。


「……どうやら、まだまだお話しせねばならないことがあるようですね」


 そう言ったお母様の声には安らぎが含まれているような気がした。


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