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◆第0話 目覚めたら生まれ変わっていたようです

 ずっと、赤ちゃんの泣き声が聞こえている。

 たぶん、今、私は夢を見ているみたい。


 夢だと気付ける夢はたまにあるけど、まさしく今のこれがその体験だ。

 早く目覚めたいのに、起きることができないのもまどろっこしい。

 寝る前は早起きをして、読んでいた本の続きを読もうと思っていたのに……いつになったらこの夢は終わるのかな。


 でも……終わらないなら、もう少し寝てもいいのかな?


 起きてもベッドの上から動けるわけじゃないし、本はいつまでも待ってくれている――などと思っていた私は、ふた月ほど『転生』という非常事態に巻き込まれたことにまったく気付いていなかった。


 そう、まさかの転生ですよ。

 生まれ変わっていたのですよ。


 気付いたのは、つい先ほどのことだった。


「今日でお生まれになってからふた月目ですよ、お嬢様」


 泣き声以外の久しぶりに聞いた言葉に、私は『そんなこといっても、生後二ヶ月の赤ちゃんには通じないよ~』と一人心の中で突っ込みを入れ、そこでようやく気が付いた。


 いま、ずいぶん近くで『お嬢様』と言われた気がする。


「あら、エミリアお嬢様、お目覚めですか?」


 ぼんやりとした視界の中で、どうやら声を発した人物は私に向かって穏やかに語り掛けてくれているらしかった。


 え、ちょっと待って!?


 よくわからないけれど、とりあえず起き上がろうと私は思った。

 眠気? そんなの、どこかに行っちゃったよ!

 でも、起きあがろうにも明らかに筋力が足りず起き上がれなかった。

 私の手足、短くない!?


「あらあら、今、抱っこしてさしあげますね」


 そうして女性に抱き上げられた私は確信した。

 この抱き上げ可能な体格……確実に赤ん坊である。

 それにエミリアという名前は外国の人名、だよね……? 少なくとも、私の名前としては聞き覚えがないよ! 絶対日本人の名前じゃないし!


 そして、そこまで声に出ない突っ込みを入れた私は気が付いた。


 もしも今、私が眠りから覚めているなら……どうやら、私は転生してしまったらしい。

 そして私は何度も二度寝をしていたつもりだったけれど、おそらく産まれてからずっと食事や入浴の世話をされ、さらにはベッドで好きなだけ寝ていたらしい。


 いや、うそでしょ。

 どういうことよ!


 というか、転生って……そもそも世界が違うなら、前世の記憶があっても本来言葉なんて理解できないよね!? いったい何が起こってるの!? そういうお話は確かに好きだったけど、私が体験するなんて思ってなかったよ!?


 しかし驚愕する私がだせた発音は「あうあうあー」という、意味がないものだった。


 喉のせいなのか、顎のせいなのか。いずれにしても、まだ発音のための身体ができていない。


「あらあら、お話してくださるのですか?」

「あうあ」

「ありがとうございます、お嬢様」


 違う。穏やかに語り掛けていただけるのは嬉しいけれど、断じて違う。

 でも、今からどうこうできる話ではない。なにせ喋れないのだ。

 それに……私は、やはり赤子だ。


「あらあら、今からお食事の時間なのに、もうおねむの時間でございますか?」


 そう、本能がどうも最優先されるらしい。いろいろ辺りを見回したり考えたりしたかったけれど、とにかく眠い。


 うん、いずれにしても私は産まれてしまったのだ。


 いろいろ考えても、その事実を変えることはきっとないと思う。うん、それならこの生を全力で生きなければ無礼な気がする。


 前世の私は病弱で、ほとんどベッドの上から動けなかった。

 たくさん本を読むことはできたけれど、いろいろな体験はできていない。金銭的には裕福な家で有難くはあったけれど、交流した回数も数えるほどで家族に関する楽しい思い出はない。


 ならば、それはこの人生で悔いのないように楽しまなければいけないと思う。たくさん、たくさん楽しまなければいけないと思う。

 そう思ったところで、私は再び眠りについた。


 しかししばらく経つと食事だからと先ほどの女性に起こされて、泣いてしまった。

 ごめんなさい。でも、身体が勝手に泣いちゃうの……!

 大きくなったら恩返しはきっとするから、今だけは許してください……!



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