謎のドラゴンライダー
ジェネシス暦2003年6月。
昼間は学校に通い、深夜は配達の仕事する。もう何年も続けてきたそんな生活が、この年の6月を境にゆっくりと変わっていく。
その変化はボクの未来に大きく影響していくが、今のボク、14歳のアリス・ロバーツはまだそれを知らない。
☆ ☆ ☆
その日もいつも通り学校に行き、退屈な授業を受け、昼休みはカンナと共にお昼を食べていた。場所は校舎裏にある木陰のベンチ。静かで、あまり人が来ないのでボクのお気に入りだ。
「それで飛竜の購入資金はどれくらい貯まったの?」
「……えーっと」
カンナがバツの悪そうな表情を浮かべた。
ついさっきまで「この前の休日は飛竜の販売所を回ったの!」と上機嫌で語っていたから、もうすぐ目的の金額なのかと思ったんだけど……どうやら違ったらしい。
「4分の1ぐらい?」
「いや、その……」
「5分の1? それとも6分の1とか?」
「今月はちょっと入用がありましてですね、それでこう一時的に貯金を……」
うん。まったく貯まってないんだね。むしろマイナスになった?
飛竜の販売所にいくヒマがあったら、実家のパン屋を手伝った方がいいよ。
「お金ってコツコツ貯めなきゃ、増えないよ。本当に」
「でもでもッ! 各ドラゴンメーカーの最新カタログはチェックしておかなきゃだし、フェアリングドラゴン特集の雑誌は出るしで、それに今月に限ってアヤハムから限定アイテムが発売されて……」
カンナが散財した理由を吐露する。それを聞きながら、今年中に購入資金を貯めるのは無理かもしれないな、と思った。
「まあ頑張りなよ」
「これからは節約して、しっかり貯金するわ!」
今年に入って何度目かの、親友の「貯金するわ!」だった。
「飛竜を手に入れたら1番にアリスに見せてあげるから!」
「……ありがとう。期待しないで待っておくよ」
カンナにそう応えて、母さんが作ってくれたお肉と野菜を挟んだパンにかぶりつく。
(あ、これ美味い。お肉の味付けが甘辛くてちょうどいい。また作ってもらおう。ああ、母さんが料理上手で本当によかったなあ)
と、お昼ごはんで頭がいっぱいになっていたボクに、親友が聞き慣れない単語を投げかけてきた。
「そうだアリス! 『バンシー』って聞いたことある?」
「叫び霊? 何、今から怖い話するの?」
別に、怖い話が苦手なわけじゃないけど、なんだか唐突な感じがするーーというかカンナの方が怖い話が苦手だよね。たしか。
「怖い話? あー、違う、違う。最近、そう呼ばれている謎のドラゴンライダーがいるのよ」
カンナの声色が明るくなった。同時に生き生きとした表情を浮かべる。
きっと今から話す内容は、ドラゴン好きの彼女が興奮するような話題なのだろう。
「なんでも、あの『閃光のロリータ』が1度、負けて、リベンジのために『バンシー』を探し回っているんだとか!」
「ちょ、ちょっと待って。次々に知らない単語がでてきて意味不明だよ!」
慌てて話を中断させる。
カンナは相手が自分と同じ知識を持っている前提で話す癖があって、こんな風に会話が成立しなくなる時がある。
「『閃光のロリータ』だよ、知らない?」
「なに、その恥ずかしい名前」
特にドラゴン関係の話題となると、その癖が頻発するので、こうして話を中断させてから、しっかり説明してもらわなければ会話についていけなかった。
「『バンシー』や『閃光のロリータ』はドラゴンライダーの通り名ね。実力のある有名なライダーには自然とつくモノなの」
「ふーん。それにしても『閃光のロリータ』は格好つかない通り名ね。インパクトはあるけど」
通り名ってわかりやすくて強そうな名前が付けられると思うんだけど、違うのかな?
「インパクトなら本人にもあるわよ。エリーゼ・スタンホープっていって、年齢は16歳らしいんだけど、容姿が12歳にしか見えない金髪碧眼の美少女なの」
なるほど見た目が幼いからロリータね。それならわかりやすいかも。
「そんな美少女がアズワンに乗ってて、しかもめちゃくちゃ速い!」
「アズワン?」
「アヤハムのフルカウリングドラゴンで、加速性能はもちろんだけど、特に旋回性に優れたスピードドラゴンよ。その上、閃光のロリータのアズワンはさらに特別仕様になっているんだって!」
カンナが鼻息を荒くしながら『閃光のロリータ』さんとめちゃくちゃ速いらしい『アズワン』の話を始める。
速いドラゴンにそのライダー、親友が興奮しそうな要素のてんこ盛りだ。
とはいえ、そんな凄いドラゴンに容姿が12歳の女の子が乗ってる姿はインパクトありそう。ギャップがすごい。
「可愛くてめちゃくちゃ速い! それが閃光のロリータ。カッコいいと思わない?」
いや、それでもその通り名はいかがかと思う。ソレ、本人は認めているの?
「ちなみに閃光のロリータ、本名エリーゼ・スタンホープはウチらと同じコンロ学園の生徒っていうね」
「そうなの? ……あ、16なんだっけ。その人」
国立コンロ学園は広い地域に住んでいる、8歳から18歳までの男女が通っている。
ロリータさんが16歳ならコンロ学園の生徒であっても不思議じゃない。
「でもスタンホープは公爵家だから、ウチらと関わり合いになることは無いでしょうね。すれ違うことはあるかもだけど」
公爵家のお嬢さんなのか。貴族や財閥関係の人間は特別なクラスに編入されて、ボクら一般科の生徒とは校舎も違うんだよね。
コンロ学園には5年以上通っているけど、知り合いにその手の人達はいないし、口をきいたこともほとんどなかった。
ーーあの人達は、すぐそばにいるんだけど別世界の人間って感じかな。
「それで話を戻すけど、今まで負けなしだった閃光のロリータが正体不明のライダーに負けちゃったらしいの。どんな激戦だったのかわからないんだけど、もう一度、飛竜バトルでリベンジするためにそのライダーを探しているんですって! 『バンシー』ってのは、その正体不明のライダーにつけられた通り名ね」
「バトル? 飛竜に乗って殺り合うの? ずいぶんアグレッシブなお嬢様なんだ」
ボクが拳を交互に突き出しながら聞き返すとカンナは「違う、違う」と訂正してきた。
「バトルっていっても直接、殴り合うんじゃなくて、ある地点からある地点までの到達時間を競う試合。スピード勝負のことよ」
「ああ、つまりレースってことか」
ボクが何気なく口にした言葉にカンナは不思議そうな顔をした?
「『レース』? なにソレ、聞いたことない言葉ね」
「え? あー、ごめん。なんでもないよ。続けて」
転生してしばらく経った頃に気づいたんだけど、この世界には『レース』という言葉がない。つまり『スピードを競う試合』が一般的にはほとんど認知されていないのだ。
(そういう世界なんだと思ったけど、やっぱりあるんだね、レース)
とはいえ言葉がないだけで、スピードを競うことは行われているらしい。
「ウチも詳しくは知らないんだけど……昔は『飛竜バトル』って言葉はアリスが考えた通り、ドラゴンライダー同士の決闘のことだったんだけど、流石に危険すぎるからね。だんだんと、どちらが速く飛べるか、っていう勝負にかわったらしいわ」
命がけの決闘からスピードレースへ自然と変化していったのか。まあ、スピードドラゴンなんて速さを求めた飛竜があるんだから当然なのかも。
この場合、細かくレギュレーションが決まっているわけじゃないみたいだから、前の世界でいうところの公道レースに近い雰囲気だね。
「純粋なスピード勝負で争うのが、数年前から主流になっているって話。それに直接、飛竜やライダーに攻撃を加えるのがタブーになってきているわ」
それでもレース中の事故はあるだろうけど、血生臭い殺し合いよりも見ている方は安心感があるでしょうね。スピード勝負だから勝敗もわかりやすいし。
「今は、ライダー達の間で飛竜バトルが熱いのよ」
「ふーん、それで『ロリータ』さんが『バンシー』を飛竜バトルだっけ? それでリベンジするために探しているって話なんだね」
「そうなの! 若手最速のライダー対正体不明のライダー、ワクワクするでしょ? ワクワクするよね?」
カンナの瞳がおもちゃを手に入れた子供みたいにキラキラしている。
それに話をしながら、だんだんボクに近づいてくるから、鼻息が顔にかかりそうだよ。
そんな風にハアハアされると昼ごはんが食べづらい。
「カンナ、近い。ちょっと離れて」
興奮している彼女を押しやって、なんとか落ち着かせる。
「ごめん、ごめん。話すのに夢中になりすぎた」
とはいえ彼女に悪びれた様子はなく、その表情は笑顔だ。カンナにとって、これはよっぽど楽しい話題なんだろうね。
ボクからしてみれば、公爵令嬢なんかに追いかけ回されているバンシーがかわいそうに思うけどーーまあ、ボクには関係ない話だから、どうでもいいんだけどね。
「それでね。実は最近、飛竜バトルをしているライダーと知り合いになって、こういうライダー界隈の情報を色々と教えてもらっているの」
なるほど。今までは本や雑誌からの情報ばかりだったのに、急に『閃光のロリータ』だの『バンシー』だの、マニアックな話をするようになったのは現役ライダーと知り合いになったからか。
「その人、ウチが通っているドラゴン用品店の店員さんなんだけど、飛竜関係の話に詳しくて飛ぶのも速いらしいの!」
「あー、そしてカンナの彼氏なんだね」
ボクの言葉に親友が爆笑する。
「なにそれ、ルーシーさんは女の人だよ」
「そうなの、残念」
これは、カンナにそういう相手ができた、という流れだと思ったんだけど、どうやら違うらしい。本人もどうして、ボクがそう思ったのか理解していないようだ。
この分だと、しばらくは今のままが続きそうだな。
(頑張れ、カンナ! 何もできないけど応援しているぞ!)
ボクの生暖かい眼差しに彼女が怪訝な表情を浮かべる。
「その顔はどういう意味なの? ……まあ、いいわ。アリスにも紹介してあげるから、今度、一緒にルーシーさんのお店にいこうよ」
ボクにルーシーさんを自慢したくてしょうがないみたいだけど、正直、興味ないし、わざわざ会いにいくのが面倒くさい。
「無理に紹介してくれなくてもいいよ。それに仕事中に押しかけるのも悪いし……」
「大丈夫、ルーシーさんって気さくな人だから!」
しまった! カンナに遠回しに拒否しても意味がないんだった。
「それにアリスもドラゴン好きでしょ?」
彼女が瞳をキラキラさせながらにじり寄ってくる。
(うわー、コレ。行くっていうまで離してくれないパターンだよ)
結局、数日後にボクとカンナでルーシーさんが働いているドラゴン用品店にいく約束を取り付けられてしまった。
☆ ☆ ☆
その日の放課後。
授業を終えたボクは、カンナと一緒に校舎を後にした。
クラスメイトの中には放課後は部活に精を出す人もいたが、ボクもカンナも部活に入っていない。カンナは実家の手伝いがあったし、ボクも深夜の仕事があるので遅くまで学園に残ることができないからだ。
校舎を出ると真っ直ぐ停留所へむかった。
学園の敷地が広いため、停留所までも距離がある。その途中、カンナの話を聞きながら歩くのが登下校の際の日課みたいになっていた。
「配達用のドランで飛んでいると他の飛竜にどんどん追い抜かされちゃうのよね」
カンナの話題は飛竜かパン屋の仕事に対するグチぐらいだ。年頃の女の子っぽい話をされたことはほとんどない。
まあ、ボクだって女子トークなんてできないし、むしろ親友からそんな話題を振られても困るから、これが2人にとっての最善の状態なのかもしれない。
良いか悪いかは別として、だいたい聞き役のボクは楽なので助かっていた。
「最近は、あの子の加速力のなさが悩みの種なのよね」
「この前、『小型飛竜の完成形』とかいってなかった?」
「いい子よ、いい子なんだけど……やっぱり遅いのよ」
「速すぎても危ないと思うけどね」
こんな風に、登下校の間はカンナのたあいのない話を聞くのが入学当初から続いている。
はじめはよく喋るヤツだなと思っていたけど、いつまでも話し続ける彼女に、今ではうんざりを通り越して尊敬すらしている。
止めたって喋るのをやめないんだからたいしたもんだよ。
その後もだらだらと歩きながら喋って、停留所まで半分の距離にさしかかった時だった。
上級生の校舎がある方から、かなり目立つ集団がやってきた。
「あれは、例のキラキラ男子」
「キラキラ? あー、ルーカス先輩のこと?」
「そう、ソレ」
集団の中心にいるのが色白の金髪イケメン、ルーカス・ウッド先輩。爽やかスマイルもあいまって、周囲がキラキラ輝いているように見える。まるで王子様だ。
そんなルーカス先輩の周りをフツメン男子と瞳をハートマークにした女子が取り囲んでいる。絵にかいたような取り巻き集団だ。
よく見ると彼等の制服にも豪華な意匠があるので、取り巻き達も財閥の御曹司や貴族の御令嬢なのだろう。
「さすがウッド財閥の御曹司。この学園でも一、二を争う優良物件だからすごい人気ね。女子も男子もルーカス先輩に取り入ろうと必死って感じだわ。めちゃくちゃ競争率、高そう」
「そんなにすごいの? ウッド財閥って?」
「ほとんどの百貨店とか高級飲食店はだいたいウッド財閥が経営しているはずよ。他にも建築業とか製造業にも関わっているし、四大ドラゴンメーカーのアヤハムとも業務提携していたわね。当然、政界にも強い影響力を持っているって話」
うん、お昼に話題になったロリータさんと同じ、関わらない方がいい人種だ! 本人の人間性うんぬんに関係なく、彼が置かれている状況がもう、うかつに近づいてはいけないヤツじゃん。
「それにしても詳しいんだね、カンナ」
ボクが感心していると、カンナは照れくさそうに頬を掻いた。
「実はウッド系列の飲食店にウチのパンを卸しててさ……」
あらら、密かに憧れているとかじゃなくて、単純にパン屋の顧客なんだね。それなら手伝いをしているカンナの耳にも、自然と色々な話が入ってくるんだろう。
「おかげでウチもだいぶ潤ってるみたい。お父ちゃんなんか、毎日のように『ウッド財閥サマサマ』だってーー」
急にカンナが言葉を詰まらせた。
このお喋りな親友の会話を止めるなんてよっぽどだ。見ると目をパチパチさせながら前方を見つめていた。
「?」
ボクも視線を前にむけるとーー目の前にキラキラ男子、ルーカス・ウッドが立っていた。
「突然、話しかけてごめんね。君に聞きたいことがあるんだ」
ルーカス先輩は急いでやってきたらしく、少し息が上がっている。なんだか余裕がなくて、今までの王子様みたいな雰囲気ではなかった。
よっぽど急いできたのか、取り巻き達を振り切ってきてしまったのだろう。その背後では、慌てた様子でこちらにむかってくる集団が見えた。
なんだ、この状況?
「もしかして、君の名前は『アリス』じゃないのかい?」
「そう、ですけど?」
「やっぱりそうか。ひと目見て君だとわかったよ!」
ルーカス先輩が満面の笑みを浮かべる。先ほどまでの爽やかスマイルではなく、子供みたいな無邪気な笑みだ。
「久しぶりだね。ここの生徒だったなんて気づかなかったよ」
どうやら相手には面識があるみたいだけど、ボクはさっぱり記憶になかった。
相手の言動から察するに、悪い印象を持たれていないみたいだけど……え? マジで覚えてない。こんな人といつ会ったんだろう?
「あれから君を探したんだけど見つからなくてね。もう諦めかけていたんだけど、まさかこんなに近くにいたなんて!」
公爵令嬢に捜索されているバンシーのように、ボクも財閥の御曹司に捜索されていたのか。ぜんぜん嬉しくないけど。
それに喜んでいるところ申し訳ないけど、ボクは相手のことを覚えていないし、どう対応すればいいのかもわからなかった。
黙ったままのボクからそれが伝わったのか、彼の表情が曇っていく。
「もしかして、僕のこと覚えていないのかい?」
「はい、まったく」
「……そ、そうか」
うわッ! びっくりすぐらいテンション下がっちゃったよ。
財閥の御曹司だっていうから『鉄壁の営業スマイル』で完全武装しているイメージだったんだけど、実際は子供みたいに笑ったり、こっちが申し訳なくなるほどションボリしたり、結構、感情表現の豊かなヤツだな。
悪いヤツじゃなさそうな分、申し訳ない気分になった。
「……なんだか、すみません」
「いや、いいんだ。君と会ったのは一度きりだし、ずいぶん前だからね……でも、こうして再会できた!」
あ、しょんぼりイケメンがキラキラ男子に戻った。
本当にコロコロ表情がかわるなあ。実は面白いヤツなのかもしれない。
「見たところ、一般科の生徒みたいだけど、何年生? どこの校舎なの?」
「えーっと……」
正直、対応に困る。ぶっちゃけ関わりたくなかった。
悪いヤツじゃないんだろうけど、財閥の御曹司だなんて、近くにいるだけで厄介事が降りかかってきそうじゃん?
なにより、すでにルーカス先輩の背後にいる取り巻き令嬢達が、物凄い顔でこっちを睨みつけてきてるんだよね。
まったく、ボクがなにをしたってのさ。
どう応えるのが正解なのかと迷っていると、取り巻き連中のひとり、フツメン男子がボクとルーカス先輩の間に割って入ってきた。
「ル、ルーカス君。取り込み中に悪いんだけど今日は急いでいるんだったよね? 今夜は食事会があって、その準備に忙しいんだって聞いたよ」
ナイスだフツメン! その行動が隣の怖い顔した令嬢の指示だったとしても、ボクは君を称賛するぞ。
よし、遠慮なくこの流れに乗ろう。
「お忙しいなら、そちらを優先してください」
ルーカス先輩がボクとフツメンを交互に見る。おいおい、そんな風にオヤツを取り上げられた男の子みたいな顔しちゃダメだろ、御曹司。
「……わかった。それじゃ、君の苗字と学年だけ教えてくれないかい? 今日はそれで退散するよ」
まあ、それで解放されるなら安いもんだ。
「一般科6年生のアリス・ロバーツです」
「僕は特別二科のルーカス・ウッドだ……今度ゆっくり話そう」
ルーカス先輩はそういって踵をかえした。
本当に急ぎの用があったらしく、足早にいってしまう。
(ボクとしては『今度』とやらは来なくていいんだけど)
彼と関われば、間違いなく厄介事が降りかかるだろう。
これは偏見でもなんでもなくて、すでに取り巻き令嬢の数人がボクの前に立ちはだかっていた。
「どこの馬の骨だかしらないけど、ルーカス様に声をかけてもらったぐらいでいい気にならないでよね!」
いかにも性格キツそうな令嬢が、見下したような視線でボクを睨みつける。
「変な気をおこしたら承知しないわよ。アナタとルーカス様では住む世界が違うの。わかったわね!」
絵にかいたような彼女の言動にーーボクは感動してしまった。
(逆に清々しいというか、全力で『取り巻き令嬢』してる姿に感心させられるよ。美人で性格悪そうな容姿も完全に狙ってやっているとしか思えない! でも、これが彼女のナチュラルなんだよね。すごいよ! こんな人、はじめて見た)
「忠告したわよ!」
そういうと周りの令嬢達を引き連れて去っていく。最後までブレない、見事な取り巻き令嬢ぶりだった。
無事に厄介事もいなくなったので、そろそろ停留所にいこうと思ったけどーーボクにはもうひとつ面倒くさいのが残っていた。
「アリス!」
思考停止していたカンナが再起動したらしい。
驚愕の表情を浮かべながら、一気にまくしたてる。
「なに? どういうことなの? ルーカス先輩と知り合いだったの? 昔、会ってたみたいだけどどこで? なんで? どういう関係? ……あとさっきの女、ムカつく!」
「あー、うん。ボクもそう思ってるよ」
それから「なにも覚えていない」と説明するのに長い時間と労力を費やしてしまう。ある意味、あの取り巻き令嬢よりもカンナの方が厄介だった。
これ以上は関わりたくないけど、ルーカス先輩といつ出会ったのかは少し気になったので、それから思い出そうと努めたんだけどダメだった。
次回はカンナとドラゴン用品店に行く話
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