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この世界のドラゴンは乗物らしい

初投稿になります。よろしくお願いします。

 満天の星空を1体の飛竜が駆けていく。

 月明かりに照らし出された飛竜は、美しい流線形のシルエットをしていた。

 その背に小さな人影が乗っている。飛竜はかなりの速度で飛んでいたが、その人物が振り落とされるような素振りはない。ずいぶんと手慣れた様子だった。


 ふいに飛竜が甲高い咆哮をあげ、グンッと加速する。


 それでも背中の人物に慌てた様子はない。

 尋常ではないスピードが出ているのだが、驚くほど自然に騎乗している。


「……」


 小さな人影が頭上の星空を見上げる。

 きらめく星空に、なぜか懐かしさを感じて不思議に思った。


(ああ、そうか、この星空は……)


 この星空はーー転生する前、ボクが死ぬ瞬間に見た最後の光景によく似ているんだ。



   ☆ ☆ ☆



 ボクは眼下に広がる夜景を見つめながら「満天の星空のようだ」と思った。

 これが時速100キロ以上でガードレールを乗り越え、バイクと一緒に谷底へ落ちている最中じゃなかったら、どれほど良かっただろう。

 でも現実は残酷で、真っ逆さまに落下中だ。谷底まであと数秒ぐらいだろう。のんびり夜景を眺めている時間はなさそうだ。


 あ、先に弁明しておきたいんだけど、運転がヘタクソだったので事故ったんじゃないよ? これでも地元では『公道最速の男』で通っている有名な走り屋なんだ。正直、バイクの運転には自信がある!


 で、そんな『公道最速(笑)』さんが、どうして峠の谷底に落下しているのか、なんだけど……端的にいえば人間関係のもつれが原因だ。ボクって一種のコミュ障なんだと思う。なんかもう、めちゃくちゃもつれた。


 簡単に説明すると、ボクにはバイクを走らせる才能があって、走り屋同士の勝負に勝って勝って勝ちまくった。多少のハンデやバイクの性能差なんて、勝敗を左右する要因にはならなかった。だから、ちょっぴり……いや、かなり調子に乗っていた。


 ボクは多くの走り屋のメンツとプライドを潰し、それに対するフォローもいっさいしてこなかった。悪気はなかったけど、人の気持ちを考えられない馬鹿野郎にはそれ相応の末路が待っている。


 レース中に罠を仕掛けられたのだ。


 ブラインドコーナーの先に無灯火の乗用車、それをかわすと路面にオイルがぶち撒けられていた。その先は谷側のガードレール。殺意マシマシ。こりゃあ、本気で殺すつもりだよ。


 そんなわけでボクは死にかけている。


 でも不思議と怒りや憎しみのような感情はなくて、一緒に谷底へと落下する相棒に対して「コイツも廃車か、ごめん、悪いことしたよ」と申し訳ない気持ちになっただけだった。


 ーー以上、走馬灯おわり!


 そして次の瞬間、強い衝撃と共にボクの意識は途切れた。



   ☆ ☆ ☆



 目覚めると見慣れない天井が視界に入った。

 一瞬、病院かと思ったがどうも様子がおかしい。上手く説明できないが、日本っぽくない。まるで小洒落た喫茶店のような部屋だった。


(それとやけに天井が高い……いや、この部屋が大きいのかな?)


 ボクは自分の置かれた状況を把握しようとあたりを見回す。

 すると誰かが部屋に入ってきた気配を感じた。


「××× ×× ××××?」


 女性の声。だが全く理解できない言語だった。


「××! ××× ×××!」


 声の主が慌てた様子でボクを覗き込む。

 その顔は彫りの深い整った顔立ちをしていて、髪は軽くウェーブのかかった赤茶色をしていた。


(日本人じゃない……ってかデカ!)


 ボクを見下ろす女性は5メートルはありそうだった。それでも天井に頭をぶつけないのは、それだけ部屋の天井が高い造りになっているから……あれ? これは。


「××× ×× ×××」


 女性がボクの体を抱え上げる。

 そして優しく微笑みかけてきた。


(むしろ……ボクが小さいんだ)


 ようやく自分が赤子になっていることに気づいた。


 はじめは夢かと思ったけど、しばらく待っても目を覚まさない。

 色々な考えが頭をよぎったが、この状況をうまく説明できなかった。


(とりあえず、ここは何処なんだ?)


 ボクが周囲に視線をむける。

 すると女性がなにやら語りかけてきた。


「××× ×××」


 でも何を言っているのかわからない。英語でもなさそうだった。

 それでも、優しく語りかけてくる彼女の声にボクは安心感を抱いていた。


「××× ××」


 女性がボクを抱えたまま、部屋のドアへと移動する。そのまま部屋を出るようだ。

 どこにいくのかわからなかったが、この部屋にとどまっていても何もわからない。いっそ別の場所に移動してくれるのなら、何か手がかりをつかめるかもしれないのでちょうど良い。


(まずはここが何処なのかを知りたいんだけど)


 必死に首を動かし、周囲を見渡す。


 どうやら病院のような公共の施設ではないらしい。

 使い古された家具や補修の跡がある床、壁側に積まれた籠はずいぶんと年季が入っている。見慣れない形状をした物ばかりだったが生活感があった。これは個人の家だ。


(外国の田舎みたいな雰囲気だけど?)


 石造りの壁にタイルを敷き詰めた床はいかにも外国風だけど、所々に見慣れない機械が置いてある。見ただけでは何に使うのか見当もつかない品物だった。


「××× ×××」


 女性がボクを抱えたまま、家の外へと出ていく。

 小さな家庭菜園と大きめの納屋のような建物、そして地肌がむき出しになったひらけた場所がある。どうやら、この家の庭らしい。


 さらに視線を上げると……。


(そっか……ここはボクが生きていた世界とは別の世界なんだ)


 空に無数の島が浮遊していた。

 島の大きさは様々で、数キロメートルはありそうなモノから島というよりも岩と表現した方がよさそうなモノまである。いくつかの浮島には、建物らしき構造物も見えた。


 こんな光景は地球上に存在しない。


 ほとんどバイクにしか興味なかったボクだったけど『異世界』だとか『転生』といった言葉ぐらいは聞いたことがある。


 コレは、つまりソレなんだ。


(そして、この人が母親なんだろう)


 女性へと視線をむける。

 ボクの視線に気づいて、彼女が優しい笑みを浮かべた。その声や眼差しに安堵する。

 ほとんど直感だけど、この人がボクの母親で間違いないだろう。


 それから少しの間、母親に抱えられながら家庭菜園を見てまわった。

 ボクとしてはむこうにある納屋が気になったけど、彼女はそちらへ行く気はないらしい。


(まあ、いいか……言葉も喋れないし、身振りで伝える自信もないし)


 その時、甲高い咆哮が空に響いた。

 それを聞いて母親が振り返る。


「×××!」


 彼女は空に視線をむけると、そちらを指差してボクに何かを伝えようとする。しきりに同じ単語を口にしているが、その意味はわからない。

 ただ、その声の調子から母親が嬉しそうなのはわかった。


(あ、何かが飛んでる)


 遠くの空に小さな影を見つけた。

 かなりの速さでこちらにむかって来ているようだ。

 その正体がわかるまでに、それほど時間はかからなかった。


(えぇ! コレって、まさか)


 ボクと母親のもとへと飛んできたのは、白と赤の外殻を持つ、流線形のシルエットをしたドラゴンだった。


 ドラゴンはボク達の上を1度だけ旋回すると、大きな翼を広げて降下してきた。

 庭のひらけた場所へとゆっくりと着地する。

 ボクはその姿に釘付けになっていた。ドラゴンなんてマンガやアニメでしか見たことがない。それが目の前に現れたのだ。驚きのあまり、背中に男性が騎乗していることにすら気づかなかったぐらいだ。


「×××」

「×× ××××」


 母親と男性が親しげに言葉をかわす。

 そこでようやく彼の存在に気づいたが、ドラゴンに気を取られて何者なのかを考える余裕すらなかった。


 その時のボクはーー


(この世界のドラゴンは乗物なのか!)


 と、よくわからないことに関心していたのだった。



 その後、飛竜に乗ってきた人物が父親だったのを知ってかなり驚いたが、それよりも自分が転生したのが『アリス』という名前の女の子だったことを知り、卒倒しかけた。

もう少しプロローグが続きます。

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