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元勇者 メルク・ウインド―目覚めるもの―

「……」


 目をぱちぱちと瞬かせる。


 先ほど俺の体を包んだ眩いばかりの光は既に小さくなり、少しずつ目を開けることが出来るようになっていた。


「……」


 そして気が付くと不思議なことに闇に覆われていたはずの洞窟全体が淡い光に照らされていた。

 まるで周囲の岩そのものが光を放っているかのようであり、松明など使わずとも道がはっきりと見てわかる。


「はぁー」


 驚きともため息ともわからない声が出てしまう。


 顔を上に向けると先ほど落下してきた大きな穴が開いている。


『これにて覚醒の儀は終了しました』


 ぽかん、と上を見上げていると再び声が聞こえた。


 洞窟に反響しているのか上から聞こえるようでもあり背後から聞こえるようでもあるが、それはやはりこの石から聞こえてきているのだと、俺は半ば確信していた。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ、何なんだよさっきから」


 なので、俺は手に握った石の棒にそう問いを投げる。


 端から見ればどうしたことかと思われるだろうが俺は真剣だった。


「何なんだよこれは、覚醒? どういうことなんだ?」


『性質、技能診断終了。覚醒装置プロメテウスの火による覚醒の儀は終了しました』


「いやだから……」


 しかしその石が俺の問いに明確に答えることはなかった。

 というよりもそういう回答ができないのではないかと思った。


 恐らくこれは既に組み込まれた回答を再生するだけしかできないのだろう。

 てっきり遠隔通信魔法の道具かであり、どこかの誰かと話をしているのかと思っていたのだが違うようだ。


 古びた遺跡の封印物などよく使われている魔法である。

 精度の良い遠隔通信の手段が発達している今めったに見ない技術であり、これがそれなりに古いものであることを感じる。


「えっと、俺はこれからどうすればいいんだ?」


 こういうアイテムには同じ質問をし続けても意味はないのでとりあえず別のことを聞いてみる。


『汝は既に覚醒者。その力を以って全てを奪うもの』


「はぁ……」


 この質問も無意味だったようだ。


「やれやれ」


 どうしたものか、と俺は周囲を見回す。

 しかし、明るくなって気が付いたのだがここは行き止まりとなっており前に進むしかないようだ。


 穴の上の空間と同じように、入ってくるものを迷わせる目的はないようである。


「とりあえずこっちに行くぞ?」


 俺は前方に延々と続く洞窟を指さしながら石に向かってそう尋ねた。


『―――』


 その問いにも石は何も答えない。

 何だか虚しくなってきたが仕方がないので足を進めることにする。


 ちらっ、と背後を振り返る。


 行き止まりとなっているそこはただの岩の壁であった。

 しかし、よく見るとその一部がくり抜かれたようにへこんでいた。


 それは自然の崩壊ではなく、人の手によるものであるような気がした。


 何となく――古びた祭壇のようにも見えたが、偶然かもしれない。


 じっくり見ても良かったのだがどうせその辺の知識はないので今は先に進むことにした。



  *



「お?」


 そうして歩き始めてしばらくしたところで景色が変わった。


 今まで歩いてきた道から一転、解放されたように広々とした空間に出た。

 それも道幅が広がっただけではなく、頭上にも見上げる程の大きな空間が出来ている。


「出口か?」


『―――』


 辺りをきょろきょろと見回す俺に石はやはり何も答えない。

 空間は先ほどまでの道同様に発光しているかのように明るくなっているので視界に困ることはない。


 ぐるりと見回したところ道はここで終わっているようであるが、しかしどこかから外の光が差し込んでいるわけではない。


「行き止まりなのか?」


 誰が答えてくれるわけでもないが、ついそう呟いてしまう。


 しかしここまでは一本道であり進む道の間違えようもない。

 となれば、先ほど落下した穴を上り、元来た入り口からしか戻れないのだろうか。


「まいったなぁ」


 ぽりぽりと頭を掻く。

 恥ずかしながら準備不足でありあの穴を上る装備は持ち合わせていなかった。


 クエストに出た人間があまりにも長い間消息不明の場合、ギルドから救援が送られてくるという規則にはなってはいる。

 しかし救援までの時間はまちまちであり、当然のことながら高レベルクエストで負傷したパーティーなどへの対応が優先されると聞く。


 こんな低レベルの回収クエストなど優先順位で言えば最下位も良いところだ。

 何より穴から上げてもらうなど助けられる方が恥ずかしい。


「どうなってんだ?」


 それは何としても避けたかったのでまずはここで出口を探すことにした。

 とは言え、足元も周囲も硬い岩でしかないのだが、どこかに何かないかと丹念に見回す。


 古城などであれば隠し扉の一つでもありそうなものだが、と一先ず地面に手を付けると


 ォォォォォォ……


 音が聞こえた。


 それは非常に小さな空気の振動だったが確かに俺の耳はそれを捉えた。


 地鳴りか、洞窟を風が通る音かとも思ったが、


 ォォォォオオ……


 振動は徐々に大きく重くなってくるように感じる。


 ォォォオオオオ……


 こんな――勇者もどきの俺でも場数はそれなりに踏んできている。

 そのか細い直感がヒリヒリと告げている。



 何かヤバい



 ォォオオオオオオオオオオ!


「っ!?」


 揺れというレベルを超えた振動が広い空間に響く。

 それは地鳴りや何かではなく――声だと感じた。


 そして反射的に顔を上げ、その“声”の方向に目を向ける。


 するとそこで、


「な……」


 前方の岩の壁が崩壊していた。


 否、否、否!


 壁が崩れたのではない。

 壁が蠢いていたのだ。


 木の葉に擬態していた生物が動くとその姿が浮き上がるように、壁の一部、それ自体が動いていたのだ!


『オオォオオオオオオオオ!!!』

「なんだぁああああああああ!?」


 素っ頓狂な俺の叫びと咆哮がこだまする。


 そして間もなく、岩の壁は見事に両の足で立ち上がった。


 それが見上げる程の超巨大な自動石像(ゴーレム)であると気が付くのに、そう時間はかからなかった。

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