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断たれた刃

「た、隊長!!」


 ぼんやりと目を見合わせた後、一瞬遅れ数名の兵士たちが慌てたように地面に突っ伏した男のもとへと駆け寄ってきた。


 ゆっくりと寝転がった男を仰向けに起こすと寝息のような小さな呼吸音が聞こえる。


 やはり意識を失っただけであり、命に別状はないようである。


 しかし兵士たちが声をかけ、揺り動かしても反応の一つもないところからその昏睡はかなり深いものであることがわかる。


「き、貴様ぁっ! 何をした!?」


 指揮官を襲った賊に対し兵士たちは怒りを込めた眼で俺を睨みつけてくる。


「ま、待ってくれ、俺は別に何も……」


 その視線に俺は奪った剣を地面に放り、攻撃の意志がないことを示そうと試みる。


 どう見ても俺が何かしたようにしか見えない――俺自身も自分が何かをしたと思っているのだが――が、しかしこちらからしても取っ組み合いをしていたら突然倒れたとしか思えず、そう弁明をしてしまう。


「そうだよ、そいつが勝手に倒れただけだろ!」


 困惑する俺の背後からかけられるヘルマの言葉は俺をかばってのものだろう。


 そんな反って相手の気を逆撫でているような気がしないでもないその言葉に、


「ふざけるなっ!!」


 兵士たちが納得するはずもなく、怒りも露わにそう叫ぶと一斉に剣を抜いて構えた。


「お、おい! 俺たちは別に戦おうってつもりはないんだって!」


 ずらり、と並んだ刃に一歩後ずさり距離を取る。


 ――スキルを使えば剣を奪えることは既にわかってはいるが、しかし複数人を同時に相手にしたことはない。


 あるいは一つ奪っている間に他の剣にくし刺しにされている可能性もあり、ここで無暗に戦うのは得策とは思えない。


 そもそも戦う意志がない、というのは本音なのだから。


「黙れっ盗賊風情が!」


 しかし俺の言葉など彼らからすれば醜い命乞いにしか聞こえないのだろう。


 情けも容赦も見せる気配もなく、兵士たちは剣を振りかぶりながら同時に俺目掛けて斬りかかってくる。


「っ!」


 決裂した交渉に歯噛みをするが元よりそれができる状況にすらなっていなかったのだとも感じる。


 しかしこうなっては仕方がない。


 このまま大人しく切り伏せられるのならば、己の中の力を信じ迫りくる刃を全て奪うしかない!


 そう決意を固め、俺の身体に触れそうな剣から順番に捌いてやろうと手を伸ばした、


 その瞬間――


  パキンッ


 軽く小気味の良い音が平原に響いた。


 俺の肉体が切り裂かれた音でもなければ、俺の手がその刃を掴んだ音でもない。


 それは今まさに敵を切り伏せんとして振るわれた剣のその切っ先が真っ二つに断ち切れ空に舞った音だった。


「なっ……」


 絶句の声を漏らしたのは俺か兵士かはたしてどちらであったか。


 突如として先端を失った剣を兵士は目を剥いて見つめる。


 そのすぐ傍らにその切断された部分がぽとり、と落ちてきた。


 「ど、どうした!?」


 剣が折れ、呆然と立ち尽くす男に周囲の兵士がそう声をかけたとき、


  カンッ

  カカンッ!


 その手に握る剣が次々と割れたかのように断たれ、キラキラとその欠片が宙に飛ぶ。


「な、なんだ!?」


「剣が突然っ……」


 ずらりと並んだ兵士たちの武器は瞬く間に全て破壊されていた。


 一体何が起きたのかはわからないが、何かが起こっていることは確かであり、正体不明の現象に瞬間的な狂騒が兵士たちを包み込む。

 

 そしてそれは実のところ俺も同じであり、どこかから狙われているのか、と背後のヘルマに気を配りながら辺りをちらりと見る。


 しかし平原には俺たち以外には影の一つもない。


「くそっ! 伏兵か!?」


「っ! て、撤退!撤退だぁ!」


 互いに背中を合わせ、円陣を組みながら周囲を警戒していた兵士たちであったが、そのうちの一人がたまらずそう叫ぶ。


 そしてそれを合図としたように兵士たちは俺たちを視界から外し、折れた剣を構えながらじりじりと森へと後退をしていく。


 倒れた指揮官らしき男は気を失ったまま数名のものに抱えられながら運ばれていった。


「な、なぁ……」


「しっ」


 きょろきょろと辺りを見回すヘルマに俺は動かないように手で示す。


 兵士たちはゆっくりと暗い森へと消えていき、徐々に姿が見えなくなる。


 本当は話したいことがあったのだが、向こうから下がってくれるというのであればわざわざこちらから追う必要はない。


 それよりもむしろ今は新たに出現した姿なき攻撃に警戒をしなければならない。


 とは言え、一体何を――


 ふと足元を見ると先ほど破壊された剣の切っ先が落ちているのが見えた。


 滑らかに断たれた断面は鏡のように日の光を反射している。


 その切断面をつい先ほどどこかで見たような気がした。


 それは確かあの森へと踏み入ったとき――


「さて、これで人払いは済みましたでしょうか」


 そう思考を巡らせていたとき、背後から声をかけられた。


「!」


 びくっ、と跳ねるように振り返るヘルマに続いて視線を向ける。


 平原はどこまでも広がっており、そこには隠れる場所もない。


 そんな見晴らしの良い視界の中に、


「ふぅ、姿隠しは久しぶりに使いました」


 金の髪をなびかせながら女が1人立っていた。


 この数時間の間に様々なことがあったが思えばすべてはこの女と出会ったところから騒動は始まったような気もする。


「しかし貴方は奇妙なスキルをお持ちのようですね」


 城壁の前で俺たちを突如として襲ってきた女、アルーナ・ゴルドシルドが再び目の前に現れそう語り掛けてきた。

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