若者よ、今、コロナ感染すると会社はクビになる?
「ねえ、あなた。
ハルキに注意してください。
昨日も帰りが遅かったのよ」
妻はしかめ面した夫に話しかけた。
「そだな。
大学も卒業して就職が決まってるから、気が緩んでるんだろう。
今日、帰ったら注意しておく」
夫は茶碗を置き、妻を見た。
かすかに首を傾げた。
「味噌汁・・・」
「お代わり?」
妻は手を差し出した。
いや、と言って夫は首を振った。
「今日も遅くなります?」
妻は微笑んだ。
「ああ、年度末だからな。
できるだけ早く帰ってくる」
夫は味噌汁を口にした。
その夜、夫は午後7時に帰宅し、
息子に言って聞かせた。
夜、飲みに行くことをやめるように。
でも、その忠告は遅かった・・・
その翌日だった。
無理して出社したが、
体調不良をうったえ帰宅した。
それが、最後の出社となってしまった。
そう、彼はコロナウイルスに感染したのだった。
感染源は彼の息子だった。
外出自粛を犯し、飲みに行き感染した。
夫は緊急入院し、家族は自宅待機となった。
夫は人工呼吸器により、一命を取りとめ、
2週間後に退院した。
家族の症状は軽く、その後PCR検査で陰性が確認された。
めでたしめでたし、
とはならなかった。
夫は会社を解雇されたのだった。
夫の濃厚接触者として、
社員は自宅待機を余儀なくされ、
会社は消毒されたのだった。
コロナウイルスにより経済活動が縮小している中、
さらに感染者を出したという噂が一気に広がり、
多くの取引を失うことになった。
会社は事業規模を縮小するため、
人員を整理するしかなかった。
当然まっさきに解雇の対象となったのは、
感染をもたらした夫だった。
外出自粛を破った息子が原因のため、
弁解の余地もなかった。
また、ネットで家族の情報がさらされた。
会社を解雇された他の社員が恨みに思い行った。
ネットでの誹謗中傷はすさまじかった。
そのせいで息子はうつになり、
入社できなくなってしまった。
彼らにとどめをさしたのは日本政府だった。
生活支援の対象からはずされた。
でも、当然の結果ともいえる。
外出自粛要請を無視したのが原因であるから。