さんかくの者の話
さんかくの者は、珍しく静かな声で話し始めた。
「あたしはね、競いあってここまできたんだよ。」
「競ったって、誰と?」
年少であるいびつな者は、純粋な疑問をぶつける。
「相手なんてことは、問題じゃないのさ。大事なのは、競うってことだよ。大変な数の中で、誰より先に到達できるかどうかが問題なのさ。」
さんかくの者は、回答しないまま続ける。
「もっと大きな問題もあった。あたしが舞台に立った時には、もうだいぶ出遅れてたんだよ。要するに、あたしは、とてもちっぽけな存在だったのさ。」
「小さかったの?」
不思議そうに尋ねるいびつな者に、今度はまるい者が答えた。
「誰もが、はじめは小さな存在なのだ。いや、小さな者こそが、大きくなれるとも言える。方法は色々とあるのだろうがね。」
さんかくの者も同意する。
「そうかもしれないね。あたしは、吹き飛ばされるほど小さな存在だったからこそ、成長を望んだんだ。欲求ってやつさ。先に行けるように、どうなればいいかを考え続けてる。今だってね。」
「僕もそうするよ。」
いびつな者がそう言いかけた時、さんかくの者がそれを遮る。
「最後までお聞きよ。どうするべきかなんて、分かったもんじゃないのさ。本当に大切なことは、自分で選ぶってこと。あたしの真似なんかするもんじゃないよ。真似なんかしたって、誰が責任をとってくれると思う?誰もそんなことしてくれやしないよ。」
まるい者も賛同する。
「選択を他者に委ねるのは、とても愚かなことだ。選択して他者に委ねるのは、また別の問題だがね。」
「ふうん。そういうものなんだね。」
「そうさ。そういうものなのさ。」
そう言って、さんかくの者は続ける。
「どっちにしろ、あたしが始めた時には、力を持ったやつらが何人かいた。お前も聞いたことくらいあるだろう。支配者、統合者、選択者の三人だよ。それはもう、大変な者たちさ。」
いびつな者が上を向いていたので、まるい者が声をかける。
彼が上を向くのは、考えを巡らせているからだからだ。
「方法は様々なのだよ。己の力ですべてを支配しようとする者、己の中にすべてを統合しようとする者、己を含めてすべての選択を自由にしようとする者がいた。結果的には、彼女がそれらを打ち倒したのだが。」
「えっ、さんかくの者は、どうやったの?」
「それは、私ではなく、彼女に聞くといい。」
いびつな者は、目を輝かせている。
さんかくの者は、仕方ないという仕草だったが、まんざらでもなく言った。
「それをこれから話してやろうというのさ。」