いつか分からない時間、どこか判明しない場所で、何の話なのか分からないことを、誰かも知らない者たちが、真剣に話し合う物語
さっぱりとした広い部屋で、三人が話に夢中になっている。
部屋は明る過ぎるくらいだったし、広いくせに家具も何もなかったが、誰も気にする様子はない。
とても大切な話だから。
ずっと喋り続けているのは、さんかくの者だった。
さんかくの者は言う。
「まあ、あんたの言うことは分かるよ。理解できる。でもね、今より良い状況になった方が、みんな幸せになれるのさ。」
もう一人が答える。
「確かにそうかもしれないが、そうではないかもしれないよ。」
まるい者は、いつも慎重だが間違うこともない。
二人は、長いこと話し合ってきた。それこそ気の遠くなる時間。
話に熱中していたので、いつの間にか三人になっているのにも気がつかなかったほどだ。
「若いお前には分かりゃしないだろうが、立ち止まるってことは、終わるってことなのさ。ひとつ勉強になっただろう。」
さんかくの者は、言葉は乱暴だが、年少の者には優しい態度で接している。自分より小さな者には優しく、というのが彼女の誇りらしい。
「今より良くなって、それより良くして、そうやってずっと続けたら、完璧になるのかな。」
年少の者は上を向いて考えを巡らせている。
彼は、いびつな者と呼ばれていて、二人の話を真剣に聞いてきた。上を向いて考え込むのが彼の癖のようだ。
「君、それは違う。完璧というのは、初めから完璧なのだ。今より良くなるということは、不完全である証拠で、不完全なものは完全にはなれないものだよ。残念ながら、今まではそうだった。」
まるい者は、いつも落ち着いた声で説明する。不思議と説得力のある声だ。
「まあまあ、そんな希望のないことを言うもんじゃないよ。長生きなんてするもんじゃないね。あんたみたいになっちまう。だけど、お前、いいところに目をつけたよ。問題はそこさ。より良くし続けてきたのに、全然だめってことが問題なのさ。」
さんかくの者は、残念そうに言ったが、優しい声で続けた。
「そんな顔しなさんな。お前は見込みがあるよ。まるい旦那だって、そう思ってる。色んなことを話してやろう。お前が今より良くなるためにね。」
いびつな者は、不思議そうに頷いていたが、新しい話が聞けると分かると、目を輝かせた。
「わあ、楽しみだな。」
「楽しくなるかどうかは分からない。大事なことは、自分が引き寄せること。楽しくあろうとすることだ。」
落ち着いた声が部屋に響く。
「あんた、押しつけるもんじゃないよ。それこそルール違反ってもんさ。この子には、自分で選ぶ権利がある。その資格もね。より良くなるための自由があるのさ。」
「さんかくの君の方こそ、押しつけは厳禁だよ。完璧な存在というのは、自重を知っている。他者より秀でていようが、ひけらかすことは、結局、自分を貶めることにつながるものだよ。」
「珍しく今日はお喋りだね。自重ねえ。まあ、いいさ。あたしが自重を知ったってことは、知る前より良くなったってことだろう。どんどん良くなっていくよ。底なしにね。それでもだめだってんだから、嫌になっちまうよ。」
話がなかなか始まらないので、いびつな者は二人を急かす。
「はやく色んな話をしておくれよ。僕は、どんなことでも知りたいんだ。」
「がっつくもんじゃないよ。けど、求められるのは悪くないね。あたしから話をしてやるよ。あたし自身の話さ。」
さんかくの者は、話して欲しいなら仕方がない、という態度で、嬉しそうに話し始めた。