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とっても楽し(くな)い異世界サバイバル!  作者: 古楯むつき
序章 _ わすれもの
7/39

Perygl _ 危険な香りのする方へ _

 

 まだ確実に数百m以上離れているというのに、その大木はかなり大きく、ずっしりとしているのがわかる。近付いて見てみると、その迫力(はくりょく)は更に増した。


 その樹齢(じゅれい)は優に万単位を超えているであろう大樹は、中心から裂け、その半分が大地を割る亀裂の上に橋のように、もう半分は反対側、森の中へと倒れていた。


「キレーーに裂けて真っ二つかよ、こりゃ人為的なモンだぞ」


「じんいてき……? 人がやったって事?」


「そういうこった。アレじゃねえの? 渡るのに不便だから裂いてみた的な。異世界ならサクッとそういう偉業くらいやっちまうヤツがいてもおかしくない。だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだからほぼ確定だろ?」


 そう、その大木はただほぼ中心から裂けているわけではなく、その根本が拗じられ、わざと樹皮側、つまり木の外側を上にして橋のように倒されていたのだ。反対側が無造作に倒されているのは、必要がないからただそのまま放置している、というように見えた。


「さっきは遠くてよくわかんなかったけど、近くで見てみたら確かに人が……人じゃなくても誰かがやったみたいに見えるね」


「けど、橋側は平気なのに比べて反対は結構な勢いで腐敗してるように見えるし、かなり前なんじゃないか? もうボロボロだ、シロアリとか住んでそう」


「何かしらコーティングしてるようにも見えないんだけどなあ、なんで橋だけ無事なんだろ」


 疑問は尽きず、謎は増えていくばかり。ここで、これ以上考えるのは無駄と判断した典が、恭行にとりあえず渡るぞと言って先に橋の方へと向かった。


「マジ丈夫なんだけど、何これ、気持ち悪いくらいしっかりしてねえかコレ」


「ここに来て改めて地球じゃないとこにいるって感じした……」


 多少跳ねてみたり、蹴ってみたりしても軋むことはない、大変丈夫な橋。ここまで来ると本当に人が何かしらしたのだ、と確信すら湧いてくる。

 しばらく歩いて、対岸につく頃。ちょうど光源が真上に位置している事を確認し、元の世界で言う正午に差し掛かったことがわかる。


「もうほぼ正午じゃん、それっぽいとこってあとどんくらいでつくんだよ、もう結構キツイ……」


「ほんと体力ないね? もう少しだよ」


 うへぇ、と間抜けな声を漏らしながら疲れた様子の典と、対照的にまだまだ余裕のある恭行。典のペースが落ち始めたので、仕方なく恭行が合わせて少し遅めに歩くことになった。


「状況的にこれからも一緒にいなきゃなんないんだから、そのうち体力つけてよ?」


善処(ぜんしょ)はする……昔は外で遊ぶ事もあったんだけどなあ」


「でも今、っていうかここに来る前は全然だったんでしょ?」


「まぁな。昔はそれこそ公園の木とか登ってたんだが、馬鹿やって落ちてから地味に高所恐怖(こうしょきょうふ)(しょう)っぽい感じあるし、そっからはもうほぼゲームにどっぷりってなモンだわ」


「ふーん……俺も最初は絵本とか読んでばっかだったな、図鑑見てたら本物見たくなって、それから外出るようになった」


 実を言うと、幼少期、幼い頃はむしろ二人とも現在とは真逆だったのだ。典は近所の公園で元気に駆け回るやんちゃ少年で、恭行は絵本に夢中でほとんど家の中にいた本の虫。それが二人が言ったように、ひょんな事から、齢14の頃には全くの真逆になってしまっているのだった。


 しばらく歩いていると、水の流れる音が聞こえるようになってきた。今度こそきちんとした水源がある事を祈るように、二人の足が少しだけ早まる。


 と、途中で恭行がピタリと足を止め、ある一点に視線を釘付けにされてしまった。


「……? どうした、何が…………爪痕」


「爪とぎでもしてたみたい……多分その一回だけじゃない、何度もここに来て何度もやってる。足痕だって多い」


 先程の橋のように裂かれた大樹よりは幾周りか小さいものの、こちらもかなり大きな木だ。樹齢二千年はくだらないだろう。


 そんな大きな木の幹に、何度も何度も何度も繰り返して爪を研いだような、鋭い痕がいくつも残っていたのだ。周囲にある足痕もかなり大きく、ずっしりと沈みこんでいることから、この爪痕を残したモノは巨大な身体を持つことが推測できる。


「そんなに新しくはなさ気だけど……もしかしたらこの先の水辺にいるかも」


「これ普通に10mとか越えてんだろ、それっぽいの見たらすぐ引き返すぞ」


「うん、足痕のかたちはイノシシっぽいけど、この大きさになると流石にどうにもできないしね」


 恭行が猟友会に混ざって森に出かけた時、教わった事を思い出しても、それはあくまで元の世界での話だ。現代日本の小さなイノシシを相手にしていたからこそ成り立っていた方法では、異世界の巨大すぎるイノシシなんてどうにもできないだろう。


 爪痕の残る木を後にした二人は、どこか緊張感の漂う面持ちで一歩ずつ確かめるように歩いていく。


 だんだんと水の音が近くなってくると、流れている音の他にも、何者かが水辺でバシャバシャと動いているような音も聞こえてきた。それがわかると、二人は一瞬顔を見合わせてごくりと生唾を飲み込んだ。


「隠れて見てみるしかないよな」


「そうだね、木の影から見てみよう」


 ふー……と息を吐いて、ゆっくりと動く。枝を踏んだりして音が出てしまわないように足元に注意しつつ、頭上の葉にも余計にぶつかってガサガサと音を立ててしまわないように。

 緊張からか二人とも脈が上がってきているようで、額から冷や汗も滲んでいる。


 忍び足にそろりそろりとゆっくり近付いた木の影から見えたのは、全長十五mはありそうな巨大なイノシシだった。

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