Fflam _ 火起こしをしよう _
辺りも大分暗くなってきた頃。
大きな葉を植物の蔦で繋ぎ合わせ、簡易的な服のようにして被った二人は、適当な寝床の代わりになるような、雨風の凌げる洞窟、もしくは樹洞を探して森の奥へと進んでいた。
その際に恭行はなるべく乾いて乾燥した木の枝をせっせと拾いながら進み、典は未だにぶつくさ文句を言いながら一応申し分程度にではあるものの、火種になりそうな枯れ葉や枯れ草を少しだけ拾っていた。
「チガウ………コンナノチガウ……」
「うるさい、カタコトでぶつぶつ言ってないで焚き火用の枝集めも手伝ってよ」
「あー!! なんでここでそういう事を言ってくるのはヒロインじゃないんだ!!」
「文句言いたいのはこっちなんだけど?」
恭行がイライラしだしているのも無理はないだろう。先程から少しでも放っておくと典はほとんど文句しか言っていないのだ。そんな人間が側にいてはどれだけ無神経な人間でもだんだんと気分が悪くなるだろう。
「ってかさっきの感じからして頭は悪くないんでしょ? 文句ばっか言ってないでちゃんと今なにしたらいいかとか、そういうの考えてくれない?」
「何コイツ人が落ち込んでるのにめちゃくちゃ冷たい。ヒロインじゃなくてもせめて優しい奴が良かった……」
まだ文句を言うのか、いい加減にしろ。と恭行は思うが、溜息混じりに典の口が開いたことでそれをぐっと飲み込む。
「はぁー、なんか、とりあえず雨風凌げる場所、水源と、もしあればだが何かの死体見つけると良いんじゃねえの。皮剥いで洗えば毛布代わりになるだろどうせこのまま楽しいサバイバルだよひとまず寝床と食料の確保が優先だよ畜生ヤケクソだよ、ナイフの代わりならその辺の石ころと岩とぶつけて鋭いヤツ作ればいいだろこれで満足かチクショウ」
「…………じゃあ、寝床はそっちに見える洞窟。水は後で。とりあえず今日は寝るってことでどう?」
「どうせそれしかないだろ、どう考えても」
もはや典はヤケクソ気味にやさぐれている。恭行はようやっと文句が垂れ流しになっていたのが止まり、水漏れしていた蛇口が閉まったような感覚を覚えた。
と、ここで薄暗くなってきていた為わかりにくいが、少し先に洞窟らしき洞穴が見えた。
「つーか火起こしできんの?」
「わかんない。でもキャンプとかで使う火起こしの枝とかはわかるからとにかく集めてた」
「やり方は知らないってか。じゃあさっきのあまりの蔦と……錐と弓はないから簡単に作る。洞窟内なら石ころくらいあるだろうし……それと何使ってたっけなぁ? んー……あ、あそこ鳥の巣あるな、使えるからアレとっといてくれ」
典はうーん……と唸りながら、今まで読んだラノベや見てきたアニメの中から、火起こしのやり方や使う道具の知識を引っ張り出し、同時に恭行に鳥の巣を取らせたりしつつ悶々と真面目な顔で考え込んでいる。
「よ……っと、とれた。よくわかんないけどそれで火はつくの?」
「着く。俺は体力ないしできねえけど、お前は多分そっち方面有り余ってるだろ? さっきから歩くの早いし裸足で歩き慣れてるしなんの抵抗もなく木に登って鳥の巣採ってるし……野生児かよ」
「田舎育ちだからそりゃね。次は? ……って冷た!? 洞窟って裸足で入るとこんなに冷たいんだ」
野生児、と一言で恭行を表せる単語に自分で言っておきながら自分で謎の納得をしている典と、少し前まで木に登って鳥の巣を取っていたというのに、あっという間に追い越して数歩ほど先を歩き、見つけた洞窟の床へ足の裏を当ててその冷たさに驚いていたが、振り返って次の指示を仰ぐ恭行。
典がそれに答えるように、ひとまず荷物を洞窟内に投げ入れながら、弓を作るために曲げても折れない枝が必要だ、と言いつつ近くにある木の枝を一つ折る……事ができず、見兼ねた恭行が近くに来て代わりに折ったことは、あまり言及しない方が良いだろう。
「俺……こんな非力じゃないはずなのに、なんでだ」
「逆に聞くけど、どうしてこれくらい折れないの、運動不足?」
「うるせえ長年の引き籠もりのせいだよ実は隠しているだけで今かなり息が上がりかけてますチクショウ!!」
恭行から受け取った枝を曲げながら、両先端に蔦を結び簡易的な弓を作った典がまたヤケクソ気味に叫んでいる。その傍らでは恭行が典の指示で石と石をぶつけて作った打製石器を使い、錐となる木の枝の先端を鋭く、反対側の先端は丸く緩やかになるよう削っている。
そうして、体力がないためすでに疲れ果てたと言っても過言ではない典が指示を、恭行が溜息を吐きながら代わりにほとんどの作業をすること数分。もはや夜の帳が完全に下り、月明かりで薄暗くなった辺りにはどこか不気味な気配すら漂い始めた頃、ようやく火起こしのための道具が揃って、錐と弓で火が着けられた。
「……………………文明って凄かったんだな、火があるこの感動やべえよ」
「ライターとかチャッカマンが恋しい……」
松明のようにした太めの木の棒と簡易ナイフ、錐と弓を持った典と、それに続いて薪代わりの枝を大量に大きい葉で包んで持った恭行が洞窟の奥へと進んでいくと、しばらく進んで最奥に突き当たった。
薪を包んでいた葉をバラして中身を隅に置き、葉の一枚を自分の側へ、もう一枚は典の方へ渡しながら恭行が腰を下ろした。典は受け取った葉を後方へ置いてから一度持っていた松明を恭行に渡し、薪を並列~放射状になるように並べて行く。
「そろそろ手が熱くなってきたんだけど」
「もうすぐだから、ちょっと待て……っと、これでいいか」
『並列型』と呼ばれる、炎の調整がしやすく更に長時間暖をとることにも向いているカタチに薪を並べ終わり、典が恭行からもうかなり短くなった松明を受け取ると、その並列型の焚き火に火を移す。松明はそのままそこへ置いていた。そのうち燃え尽きて焚き火に完全に火が移るだろう。
「どうせもう体力は限界でしょ、先寝たら? 火の加減だけならしたことある。眠くなったら起こすから寝なよ」
「あーすまん頼む、引き籠もりにはハードすぎるぜ畜生……じゃあ、お先に失礼」
おやすみ、と一言だけ残して先程受け取った葉で身体を包んで寝転がれば、数分もしないうちに典の意識は深い眠りの中へと沈んでいった。
彼らが行った火起こしの方法はユミギリ式というらしいです。