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とっても楽し(くな)い異世界サバイバル!  作者: 古楯むつき
第一章 _ 筋肉村
32/40

Astudio _ 衣食住は揃っているけれど _

 

 筋肉達の宴から約五ヶ月が経った。

 その間、何度ハリネズミから出ていこうとしても、何故か脱走した子犬でも捕まえるように首根っこを摘まれて連れ戻されてしまうため、安全なハリネズミの中で暮らしつつ、典は言葉や文字を覚えることに専念、恭行は思いの外広く、文明レベルもそこまで低くはなかった集落の中を散策しながら村人筋肉達から様々なことを教わったりしていた。


 五ヶ月経ってようやく、難しい言葉は言えずとも、簡単な意思疎通は円滑にできるようになった。

 まだまだ元の場で言う小学生レベルではあるものの、普通に生活の中に溶け込むこともできるようになっている。


 最初こそ、珍しい細くて小さな人間に興味津々な筋肉達の目が若干恐ろしかったが、今ではちょっと軟弱な人間という微妙な立ち位置についたため力の調整が難しい、細かくあまり筋力は関係ない作業を手伝っていたりなどしている。


 二人は簡素な獣の皮であるものの、前の葉を繋いだだけのボロよりはマシな服もどきをもらったため、今はそれを着用している。見た目だけで言えば縄文人のように見えないことはない。



「はーーーーーまじ女の子足んない」


「女の子なら一応いると思うけど……どうせ違う方考えてるんでしょ」


「当然だろ、あれは女だが女の()じゃねえ」



 適当に座って粘土板に繰り返し同じ形の文字を書いて反復練習しながらぼやいた典に、見た目が細っこいからなのか強制的に休憩の時間にされて暇になった恭行が声をかけた。

 ついでにそのまま近くに腰を下ろして座り込みながら続けて、



「ていうかそもそも引き篭もりクソニートだったお前の身近に家族以外の女の子いたの?」



 ちなみに、小学生レベルでも一応は言葉を話せる典と違い、まだ恭行はほぼ聞き取りしかできないため、言語は日本語だった。


 覚えに差が出ているのは、ちゃんと話して細かく意思疎通がしたいから、と勉学に勤しんでいるか、身振り手振りで伝わるからいいか、と気楽に構えているかの違いからだろう。



「それが居たんだなぁ、居たんですよネトゲの可愛いオトモダチ!!! あとニート言うな」


「現実じゃないじゃん」


「良いんだよアイツ女っ気あんまねえしむしろ怖いけどちゃんと女だし!!!!」


「なんでわかんの?? もしかしたら男かもしれn「ボイチャあるんで一目瞭然ですう!!!!!」


「いちもくりょーぜん」


「一発でわかる」


「ほんと喋りにくいな……なんか、感覚的にはもしかしたらここの人たちよりわかりにくいこと言ってるかも」


「流石にそりゃないだろ」


「ってかネトゲじゃ結局身近じゃなくない?」



 ぴしり。

 空気にヒビが入ったような雰囲気が漂い、典がなんとも言い難い表情をしながら無言で目を明後日の方向に逸らした。



「あと女っ気ないし怖いってなに」


「いっ、いやぁ?? ちょっと殺意高すぎてビビっただけだし怖いとまで言っ「いってた」……いやだって普通のファンタジーロールプレイングであんな荒れるかよ!!!!!」


「ふぁんたじーろーるぷれ、なに???」


「ほら主人公歩き回らせて村人から話聞いて色々解決してくなんちゃらクエストとかあるじゃんそういうの」


「うん」


「アレってどっちかというと作業じゃん??」



 なんだか見たことがあるような敵キャラの魔物の絵を地面に指で描きながら典が言う。



「あー、確かに村人に話聞いて適当にレベルあげてたらなんとかなるね」


「そうなんだよ、そうなんだよ……けどアイツはな」


「妙にカッコつけて深刻そうな顔しないでよ」


「うるさい。それはそうとアイツはマジでその辺おかしいんだよ」


「だからなにが??」


「ゾンビ撃ちまくるゲームとかやってる奴ってお前どういうイメージ?」


「あー…………なんかこう、怖がりながら遊んでるか、なんかこう『オラァ!! ッッしヘッショ来たわついでに俺の時代来た!!!』とか言ってるイメージ」



 少し考えてから恭行が言ったのは、二週間ほど前に集落の子供からのお下がりでもらった簡素な作りのパチンコを使って調子に乗っていた典の様子だった。



「なあそれ俺だよな??? 紛れもなく俺じゃん、俺の時代とかそれ言ったの俺じゃん明らかにちょっと前のめちゃくちゃに調子乗ってた俺じゃんなんでそこチョイスしたヘッショとか言いながらも木の実撃ってたから関係なくてちょっと虚しかったときのやつじゃん」


「そうだね、でもどうせゲームでもそんな感じでしょ」


「ハイそうですよ仰られる通り!!」


「そのあと調子乗ってかたい木の実つかいまくってたよね、そのせいで若干夜ご飯の具材足らなくなったやつ」


「それについては言及してはいけないお約束」


「それこそ逆に話題にして笑いをとるのがお約束じゃないの」


「お前ついに言葉だけでなくそういうお約束方向の知識まで覚えたのかいつの間に」


「そりゃ年中引き篭もりクズニート不登校野郎と心身共にしてたらね」


「ニート言うなたまには行ってたと何度言えば、っつか心身共にするとか言えたのかお前」



 あらやだびっくり。

 ぱちぱちと何度か瞬きをしながらわざとらしくあとから付け足して言ってみた典がまた恭行に冷たい目で見られているが、ただの冷たい目なら慣れたのか全く動じていない。


 コイツ本当に飽きないな、と顔に書いてある恭行が溜息を吐きながら、



「これは元から知ってました」


「なん、だと……」


「言う機会ないじゃん、だから出なかっただけで知ってたんだよ」


「今だろ今、今言った」


「それ以外なくない?」


「ないわなあ確かに…………っとそうだ」



 典がふと、思い出したように地面に落描きしていた手を止めた。



「そろそろかなーーり前にあの鍵ジジイが言ってた港町(みなとまち)に行ってもいい頃だと思うんだがどうよ」



 そろそろ言葉も一応は通じるようになったし、と付け加えながら尋ねるように恭行を見る。



「ごめん完全(かんっぜん)に忘れてた、ちょっと過保護にあつかわれてるけど普通に暮らせてるし……」


「ウンそうだな一応は普通に暮らしてるなだがしかしまだ足らないんだよ目的を忘れてるなお前」


「なに?」


「俺がまず何を求めて死んだか思い出せ」



 予想はついていたがやっぱりそれか、と漏れそうになる溜息をなんとか止めながら、



「わざわざ安定した生活捨ててまで?」


「……まあ、そうなるな。なにより俺ここまでよく耐えたと思うんです。もうこれ蛇とか幼虫とか脚多い気色悪い虫とか溢れた見るだけでも鳥肌モンな場所で暮らしてるような感じだからなこれ、脳内妄想だけで(精神的な意味で)生きながらえるにはそろそろ限界を感じる」



 蛇、と聞いて脚がないものは軒並み苦手な恭行が一瞬顔を歪めたが、典は今回に限り言葉を止めなかったどころか選ぶ様子もない。



「衣食住揃っててもそれだけじゃたりない?」


「足りないな、少なくとも目の保養が全くないこの状況はわりとキツいらしい。意外と滅入ってる事に一昨日くらいにようやく気付いたっつか自覚したところ。もう何ヶ月かは行けると思ってたんだがな、それだけ耐えればあと1ヶ月勉強して、あとは体力作りすれば一人で港町に行けるはずだから」



 ここ一ヶ月ほど体調を崩しがちだったのを単純に体力不足だと思っていたのだが、ちょっとした小さな腹痛を繰り返すだけでなく、疲労感や倦怠感、立ち眩みに目眩に下痢に嘔吐に食欲の低下に不眠にエトセトラ。

 ストレスによる悪影響を網羅する勢いでの不調に、ここまで来ると流石におかしい、と感じたため、持ち得る知識の範囲で自分なりに素人診断してみたところ、結構酷かったとのこと。



「で?」



 何を言わんとしているかはわかっているが一応と行った様子で聞くと、若干気まずそうに後述。



「現状、一人では野垂れ死ぬ未来しか見えないのでよければ着いてきてください」


「いつ出るの、用意するものとかあるよね、てっとり早く抜け出すなら夜だけどどうする?」


「…………お前もうちょっと考えるとかないのかいいのかそんな即決して」


「一人で行っても途中で見つかって連れ戻されるか、そうじゃなくても死なれるしどっちにしろなんかなあ、って。なんちゃらが悪いってやつ?」


「寝覚めが悪い」


「それそれ」



 いつも通りわからない言葉を聞きながら呑気に立ち上がってストレッチでもするように身体を伸ばしている恭行を見て、馬鹿らしくなってきた典が力が抜けて倒れ込むのようにそのまま地面へと大の字で寝転んだ。



「真面目に普通にここで溶け込んでるお前巻き込むのもばつが悪いかと思ってた俺の悩みを返せよお前本当さあ、そんなお人好しだっけ?」


「お人好し、ってわけじゃないけど。ただ、流石にほとんど1年一緒にそれもただの1年じゃなくて、どっちか欠けたらほぼ両方死ぬような感じだったやつに、ちょっとほっといて一人にしただけで死なれるのは嫌なだけ」



 何の気なし。本当にそれだけだとでも言うように言ってのけながら、そろそろ休憩時間も終わりなのか、恭行は(きびす)を返してさっさと歩き始めてしまった。


 一方取り残された典はというと。



「なんだあいつやっぱお人好しじゃねえか。は??? お人好しだな????????」



 思いの外、恭行の考え方が甘いことが判明、さらに自分の打算的、合理的な考え方と比べてしまったせいか、ちょっとした混乱状態に陥っていた。



(えーーー、何アレーーーーーーー?? 知らなかったがアイツ結構な良い奴じゃんうっわ、俺なんかいつか(きた)るハーレムのため、死なないためにアイツの事(主にコンディションの事を)気にしてただけなんですけどちょっとお前なんなん?? 田舎育ちってあんな穢れないいい子ばっかなの??? いやばつが悪いと思ってはいたが2割ぽっちだったの俺かなり非情なのでは――!?)


 


サバイバルしない(養われている)のですっ飛ばしました。

近所のお兄ちゃんお姉ちゃんおばさんおじさんお爺さんお婆さんが仕事でなかなか親が帰ってこない幼稚園生くらいの子供の世話を総出でするみたいな感じで微笑ましく見守られてました中学生男児。



tips-『ヒト族』

彼らは七種族の中で最も特筆するべき事柄のない者たち。髪、瞳の種類にも特にこれといった偏りはなく、種族的特徴にも特筆するべき事柄は存在しない。なんとなくその個体の血が半分から三分の二ほど純粋なヒトのものであれば、それは『ヒト族』である。

……筋肉モリモリマチョメーンウメーンな彼らも、一応『ヒト族』である。

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