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とっても楽し(くな)い異世界サバイバル!  作者: 古楯むつき
序章 _ わすれもの
2/39

Disgwyliad _ 期待(願望)と現実 _


 そんなこんなで、鷺鳥(さぎと)(てん)安功(あく)恭行(やすゆき)は無事に死亡してしまったのだった。


 死因はそれぞれ、派手に寝返りを打って川に落ちてしまったことによる溺死、崖から転がり落ちながら身体全体、そして頭を強く打ってしまったことによる脳挫傷(のうざしょう)


 無事に川で溺れ、死人と化したはずの鷺鳥典が目覚めたのは、どこか見知らぬ原っぱだった。どこぞのモンスターを狩りまくるあのゲームに出てきそうなだだっ広い平原、といえばわかりやすいだろうか。


「……俺、生きてる? あれ、うん??? いや、待て落ち着け。俺は鷺鳥典、日本人、14歳、ここは誰の僕はどこ、っとはなってないな、よし……ついでに服はジャージのままなのな?」


 深呼吸をし、改めて周囲を見渡してみてもやはりそこは広いと言うには広すぎる平原にしか見えない。聞いたことのない生き物の鳴き声のようなものが聞こえて視線を上へ向けると、これまた見たことのないような奇妙な鳥…にみえなくもないシルエットをしたおかしなものが、優雅に空を舞っているのが見えた。


「…………これは???? ということは??????? ッくぅ~~~~~~~~~~異世界バンザァアアアアアアアアイ!!!!!!!!!!!!!!!」


 頭がおかしくなったのではないか。そう言われてもおかしくないような突然の発作のように起きた典の狂喜乱舞を止めるものは、残念ながらこの場にはいなかった。


「見たことない生き物と某モンスター狩りのアレみてえな平原ときたらこれはもう異世界確定だろこれはパラダイスの予感、俺は異世界に転生したってこたそれはつまり????? ハァーーーーーーレムバンザアアアアアアアアイ!!!!!!」


 誰もいない平原で一人で大声を出し、いてもたってもいられないのか意味もなく走り回ってみたり前転をしてみたりと好き放題に動き回る典の様子は、間違いなく前に生きていた日本の人間からすれば『頭がおかしい精神患者』と揶揄(やゆ)されてしまうだろう。


 しかし元々は家に引き篭もってばかりいた不登校児。数分もしないうちに疲れ果ててしまい、芝生の上へ大の字に堂々と転がってしまった。ゼェゼェと長距離走の直後のように息を切らして必死に酸素を取り込んでいるが、それでもその表情は幸せと今後の希望に満ちたものだった。


 と、寝転んでしばしの休息を摂っていた典の視界の端……そこにまた新しい何かが映り込む。首をそちらに向けてみると、それを引く馬などの動物もいないのに、勝手に車輪を転がして動いている荷馬車が見える。


「馬車……??」


 上半身だけを起こし、奇妙な荷馬車を眺めていると、それは猛スピードで典の方へ近付いてきているのがわかった。流石に()かれることはないだろうとそれでも荷馬車を見つめ続けた事を典はあとから後悔した。いや、後悔して行動を変えていたとしても結果は変わらなかっただろうが、それでも後悔せずにはいられなかったのだ。


 すれ違いざま、荷馬車の中から伸びてきたロープ。それが蛇か何かの生き物ではないか、と錯覚するほど自由自在に動き回り、一瞬のうちに縛り上げられた典は荷馬車の中に引き摺り込まれてしまったのだった。そのままギリギリと首を絞められ、ついには失神してしまう。


 せっかくの異世界だというのに、早くも意識をまたまた手放してしまった。






 一方、こちらは不本意ながら脳挫傷で死亡してしまった安功恭行。彼が目を覚ましたのは、どこかの街の外れだった。廃墟のような建物の中で、硬い石で作られた床の上に無造作に転がされているらしく、体の節々から鈍い痛みを感じ取ったのがはじまり。


「…………なに、ここ」


 さながらスラム街一歩手前くらいの荒れようで、なんだか硫黄と似て非なる異臭がする。鼻につく嫌なニオイに、恭行はつい口と鼻を手で覆ってしまう。


 顔を(しか)めながら建物を後にし、周囲をザッと見渡しつつ歩いていると自分の格好がかなり浮いていることに気が付いた。


 この荒れ果てた廃墟のような街にいる人々はたいていボロ布を(まと)っていて、痩せこけた不健康そうな身体を引きずるように歩いている。対して恭行は、半袖Tシャツに半袖のパーカー、下は適当な短パンジャージを着ていて、露出した腕と脚は至って健康な十代の少年そのもの。


 荒れ果てた街と衰弱した人々の中、ただ一人だけが妙に“普通”で、“普通であるが(ゆえ)”に浮いてしまっていた。


(早くここから離れた方がいい気がする)


 片手は異臭を(さえぎ)るために口元へ寄せたまま、ジョギングでもするかのように軽く走ってその場を離れる。なるべく人の多い方へ、賑やかな方へと移動していく。


 決して治安の悪くない現代日本の田舎で育った恭行だが、野生の勘は妙によく働く。しかしこの時ばかりは、崖から転げ落ちたはずなのに、知らない間に見知らぬ場所に無造作に転がされていたことやら、周囲の人間の自分を値踏みするような嫌な気分のする視線やら、不快感を煽る硫黄とは似て非なるが鼻につく異臭など、様々な要因が重なったせいかそれは鈍ってしまっていたようだった。


 ボロ布を纏い、それなりに痩せた身体をしているように見えるのに妙に動きはしなやかで洗練された、妙な人物が恭行の跡をつけていたことには気が付けなかった。


 しばらくするとその人物は先回りをして恭行を角で待ち構え、急に襲いかかると同時にむしろ鮮やかとも言える手腕で縛り上げる。


 あまりに突然のことで予想など微塵もしていなかったせいか、全く反応できずに奇襲にあっという間に捕らえられてしまう。更に、ついでと言わんばかりに(あご)へ思い切り膝を当てられると、脳震盪(のうしんとう)を起こして気を失ってしまった。

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