Pysgod _ 魚を釣って、焼いてみる _
典が釣りに川と向かい合って、恭行が乾いた骨組みを組み立てたりし始めてから、そろそろ約一時間半ほど経つ。
自然のものだけで作る簡易テントの組み立ては順調に進んでいるのだが、釣りの調子は良いとも悪いとも言えないようで、今のところは二十五cmくらいのが二匹のみだった。その二匹は、しっかりと洗ったり内蔵を取り出したりという処理を済ませた上で、細長く、鋭い枝で串刺しにされて典のすぐ横に敷かれた葉の上へ置かれている。
「ちょっと懐かしいんだよなーこういうの」
引き籠もってばかりいたからなのか、家族にもやしになるぞと言われ、旅行へ強制的に連れて行かれることもあった。何度か連れて行かれたことのあるその旅行先──以前にも犬の話をした親戚の家、そこの亭主が漁師だったことから、典には釣りの技術と魚の捌き方をみっちりと叩き込まれていたのだった。
さらに、普段からゲームを頻繁にプレイし、その中でもかなり時間を使うものや、気が遠くなるほどの待ち時間があったからなのか、獲物がしばらくの間かからずともさほど気にした様子はなく、むしろ、それこそゲーム間隔で楽しんでいるようにも見える。
ちなみにこれは余談だが、小魚を捌くのに使ったのは打製石器、それと例のバケモノの爪だ。捌いている最中、終始典は苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、その原因は完全にあの爪にある。スプラッタ映画などを普通に楽しんで見れる程度のグロテスク耐性はあるのだが、あのバケモノだけはどうしてもトラウマ気味だ。
「2匹じゃ足んねえんだよなあ、あいつの食う量は知らねえけど、普通に男子中学生が小魚1匹ずつって……どう考えても足りないだろこれは」
そろそろ時刻は午後の一時頃だろう。腹の虫が喚き立てるどころか、きゅうきゅうと内臓が締まっていくような感覚さえしている。時たま後ろを振り返って確認しているが、もうじきテントの方は組み終わる頃だ。なんて事を考えては、はぁ、と片膝を立てて座った体制でその膝へ肘を付き、頬に手を当てながら溜息をついた。
直後。竿の先につけた蔦がピンと張る。ついでにウキ代わりに付けた、中身をくり貫き空洞にした木の実も沈んでいったのが見えたことから、獲物がかかったのがわかる。
「今度はバレんな、あと千切れんなよ……っ!!」
実は、あの二匹の他にも何度か釣れた感覚はしていたのだが、どうも針は素人が石を削ったり、硬い木の実を割って作った粗悪品、糸となるものも、辺りで拾った蔦。そんな寄せ集めで作られたこの釣り竿では、大きな相手には蔦を千切られる上、大きくない相手でも引っかかりの甘い針もどきではすぐに逃げられてしまうのだ。
更に、典に筋力がほとんどないからなのか、それとも筋肉痛が原因なのか、相手が大きかろうが小さかろうが、余り強く引っ張ることもできないため余計に逃げられてしまっていた。
それでも小魚が二匹釣れていたのは、みっちり仕込まれた技術の賜物、更にゲームで待ち慣れていた事が幸いしたからなのだろう。
「よし来たこれは釣れたあがる行けるッ!!」
立ち上がって、ぐい、と竿を引っ張り獲物を陸へと引き摺り上げる。蔦の先端に付いていたのはやはり小ぶりで、およそ三十cmくらいの小さな魚だった。
「1匹半……あー、まぁ0よかマシな方だな」
新しく釣り上げた獲物を掴み、他二匹と同じように、川で洗ってぬめりを落としたり、といった処理をしながら独りごちる。
あとは串刺しにして火を起こして素焼きにするのみだ。
典は串刺し魚三本と釣り竿、餌の余りを手に、簡易テントの方へと歩き出す。もう作業はほぼ終わっていて、それらしく見えるまでになっていた。
ちなみに餌の余りの中にミミズ(?)はもういないので、中身は丸見えの状態で持っている。
「おーなんか結構それっぽいの建ったな、あとは敢えて余らせた膜の葉の、端の部分をそこらの砂利で埋めて止めるだけか?」
「だいたいそんな感じじゃない? ……あ、魚釣れたんだ」
「たった3匹だけどな。とりあえず砂利で埋めっとこまでしたら飯だ飯」
典が持っている串刺しの魚により、具体的な食事の様子が想像できてしまったからなのか、恭行の腹の虫がより一層騒ぎ立てた。もうミミズ(?)はいないので特に表情が曇る様子もない。
ひとまず、といった風に、典はその串刺しを川で洗っておいた葉を敷いてその上へ置いておいた。
それからの作業は速かった。テントの周りの砂利を退かし、余らせた葉の膜をしっかりと伸ばしてその上へ退かした砂利を戻す。ついでに周囲からも石や岩を拝借して積み上げ、風で飛んでしまったりしないようにしておいた。
終われば火を起こす。テントの中では火の粉が燃え移る可能性があるので、二mほど離れた場所に井戸のように石を積み上げ、その中に焚き火の薪を組んでから火を着けた。枝で串刺しにした小魚をその上へセットし、焼きあがるのを待つ。
「思ったんだけどさ」
「おうどうした」
「このまま焼いても味しなくない?」
そこを聞くのか。典がつい、考えないようにしていたのに、というものを滲ませたような溜息を吐く。
「……………………仕方ないだろそこは、それはどうしようもねえわ……」
「このまま川下っていったら海とかあるかな」
「……近場にあったらいいがな。あれば塩作るぞ」
「希望的観測?」
「しっかり覚えたな? まあそういうこった」
覚えたての『希望的観測』を首を傾げながら使ってみる恭行に、典はちゃんと覚えたんだな、と感心したように返答をしつつ、魚を刺した枝をひっくり返して、焼いていた側と逆の方を火へ当てる。
ひっくり返されて見えた、先程炎に当てられていた側はこんがりと焼きめがつき、見た目だけなら美味しそうに見えた。




