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とっても楽し(くな)い異世界サバイバル!  作者: 古楯むつき
序章 _ わすれもの
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Rheswm _ その原因と始まり _

 どこか異世界じみた、それなりに深い林の中でのこと。

 なんだかおかしな二人組の姿があった。


「チガウ………コンナノチガウ……」


「うるさい、カタコトでぶつぶつ言ってないで焚き火用の枝集め手伝ってよ」


 一方は地面に〝のの字〟を書きながら項垂(うなだ)れ、また一方はせっせと手頃なサイズの枝を集めている。


 二人の共通点といえば、ほぼ全裸といっても過言(かごん)ではない姿…大きめの葉を(つた)で繋ぎ合わせ、服のように被っただけの格好をした中学生くらいの男子、といったところだろうか。


 こうなった原因を説明するには、かなりの時間を(さかのぼ)る必要があるだろう。





 扇風機の回る音、なにやらゲームの操作をしているタップ音、外から聞こえてくる元気な子供たちの声。心地よい風が吹いている部屋の中は、電気はついていないものの、朝方の太陽の日差しがあるため明るい。


「画面見すぎて目が疲れた……読書でもするか」


 昨日の夕方、風呂上がりからずっとゲームをしていたからか、肩が凝った様子で独り言をぽつりとこぼした少年は鷺鳥(さぎと) (てん)


 くあぁ、とあくびをしながらやっていたゲームアプリを終わらせると、充電器が繋がれたままのスマートフォンを適当にそばにある机の上へ置いた。


 それから、寝転んでいる布団の枕側にある本棚へ手を伸ばし、適当なライトノベルを抜き取る。


「何回目だっけかな、5、6回は読んだ気ぃする」


 パラパラと適当にページを捲って、数個目の挿絵(さしえ)のところで手を止めた。それは主人公の青年が剣を振りかぶり、目の前の相手に斬りかかろうとしているイラストのあるページだ。


「…………夏休み、今日は家に一人、なんの予定もない、道具は揃ってる…」


 一言ずつ、何かを確認するように小声で(つぶや)くと、ラノベをそのまま布団の上に置き、机の引き出しから睡眠薬らしき錠剤を取り出せば、横にかかっていた小さめの鞄の中に乱雑(らんざつ)に突っ込んだ。


 スマートフォンになど目もくれずに部屋を飛び出し、ドタドタと階段を降りていく。持ち物は何やら細々としたものが入った小さな鞄のみ。


「やべ、家の鍵はさすがに掛けとかねえと!」


 靴を履いて家を出かけた時に思い出す。慌てて靴を脱いで部屋に戻ると、本棚の上においてあった鍵を取った。


「鍵閉めた、鞄持った、あとは大丈夫だよな?」


 よし、とだけ呟いて歩き出す。少し歩けば公園が見えて、小学生くらいの子供が遊んでいるのがわかった。


 鷺鳥典は自他ともに認める引き()もりで、不登校児だった。つまりはそんな元気な小学生を見ていると、なんだか乾いた笑いがこみあげて来てしまうのだ。


(元気だな……俺なんかここまで少し歩いただけでもう疲れてるってのに)


 うだるような夏の暑さに灼かれてとても暑い。普段引き篭もっているせいで体力もないからか、まだ少ししか歩いていないのにはやくも疲れているようで、息が上がってきている。

 自分に向けた嘲笑(ちょうしょう)が小さく口からもれた。


 四十分ほど歩けば、(よし)が生い茂る河川敷についた。ガサガサと葦を掻き分けて川のそばに行けば、鞄の中に小さく丸めて入れておいたレジャーシートを取り出して、水に入るギリギリのところに敷いた。

 それから、持ってきた睡眠薬をこんにゃくゼリーで飲み込む。


「手頃な石とかねえかな~」


 先程のんだ睡眠薬の効き目は強く、恐らく十五分もかからないうちに眠りに落ちるだろう。それまでになんとしてでも手頃な石を見つけておかなければならない。


 というのも、(よわい)十四歳、鷺鳥(さぎと) (てん)は今日ここで自殺をするつもりだからだ。


 理由は、よくある異世界ハーレム生活を期待したものである。実に下らなく、軽率な自殺であると言えよう。


 と、五分ほど葦を掻き分けたり歩き回ったりして見つけたのは、典の両手の(こぶし)を握って隣合わせたくらいの大きさの石。その石に持参(じさん)した麻紐をしっかりと巻き付け、自分の身体に繋げておく。


「………遺書、書きわすれたなぁ。まあいっか」


 すべての準備が整い、レジャーシートの上へ寝転んで数分。そろそろ眠気が少しずつ近付いてくる頃、ようやく遺書を書き忘れた事を思い出したがもう遅い。


「誰に言うわけじゃねえけど、おやすみ。目が覚めたら、異世界ハーレムであることを期待、して……」


 ゆっくり、ゆったりと典の意識はまどろみの中へと沈んでいく。


 典は寝相がかなり悪く、さらに一度眠りにつくとなかなか目が覚めない。恐らく次に目が覚めるとしたら、すぐ横の川にその身体が沈む頃だ。





 ところ変わってこちらは辺境の山奥、田舎の街……と言って良いのかわからないくらいに(すた)れた場所。街というよりも、いっそのこと村だとか、集落と言ったほうが正しいのかもしれない。


「今日はどこまでいこうかな」


 ふんふんと鼻歌まじりに川沿いを歩くのは、齢十四歳の元気な育ち盛り真っ只中の少年、安功(あく)恭行(やすゆき)。先程の鷺鳥典とは真逆の野生児で、中学二年生になってもまだ休みの日には森の中を駆け回り、服や身体を泥まみれにして帰ってくるような元気で健康的な少年だった。


 夏休みであっても変わらず…というより、むしろ生き生きとした様子で、今日も森の中への足を踏み入れていく。昔から入っている森だが、かなり広い山の中(ゆえ)に行ったことのない場所も沢山あった。そのため、日に日に少しずつ範囲を広げていき、やがてすべての場所に行けるようになるのが恭行(やすゆき)の今の所の目標だ。


「よ、っと、ほっ」


 とん、とん、と小川や二mくらいの溝を飛び越えてみたり、木の根を足場にして急斜面を登ってみたりと、まるで野生動物かなにかのように身軽に動いていく。


 しばらく移動すると、まだ来たことのない場所に出た。少し開けた場所になっていて、一際(ひときわ)大きな、樹齢千年は超えるであろう大樹がそびえ立っている。


 その前には(ほこら)のようなものがあったため、恭行は合掌(がっしょう)の後に深く頭を下げる。


「お邪魔します」


 一言挨拶をするように言ってから横を通り過ぎ、更に森の奥へと進む。

 それから十分程の時間が経った頃


「あっ……!!?!」


 知らない場所、来たことのない領域に入っていたというのに、警戒を怠ったことをあとから後悔する。恭行は頭上の木の枝を避ける際、足元の注意を疎かにしてしまった。そのせいで木の根に足を引っ掛け、そのままバランスを崩してしまったのだ。


 かなり高いところまで登ってきていたため、何度も何度も身体や頭を硬い岩や木の根に打ち付けられながら、意識を失い、糸の切れた人形のように転がり落ちて行く。


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