9話
『ミクさん…?』
『もう疲れたの…竹内さん今までありがとう』
涙を拭いながらそう文字を打つ事で精一杯だった。本当は苦しいって言いたかった。貴方と話せなくなる事が悲しい。辛い。悔しい。
でもそれを伝える事が出来ない…。伝えてしまったら、貴方は私を忘れる事が難しくなる。それだけは避けたかった。だって彼は私の事を大切だって言ってくれたから。そんな優しい彼を苦しめたくはない。決して会う事は出来なかったけれど私達同じ気持ちだったのかな…。
彼に嫌われてもいいから、最後は嫌な女を演じよう。私なんかじゃ竹内さんに釣り合う訳がないから。
ごめんね…また傷が増えてしまうね…。でも竹内さんなら大丈夫だって信じてる。もっと良い人と巡り会えるって願ってるから。
『本当にこれで終わりなのか…』
『さようなら竹内さん』
貴方の目に、この文字はどう映ってる?
私の目にはよく見えないや…
さようなら…私の大好きな人…どうか幸せになってね…
美久は張り裂けそうな胸に手を当てながらアプリをアンインストールした。
今までのどんな別れよりも辛い別れだった。ネット間だけのやり取りだった筈なのに、気付けば心まで彼に魅了されていた。いつから好きだったんだろう。男性と関わる事が無いに等しい自分は"俺"という一人称にさえドキドキした。アプリでそんな言葉嫌って程聞いてきたけれど…何故か彼から送られてくるメッセージにはSOSのようなものを感じていた美久。
「たけ、うち、さん…っ…ふ…ぅ…」
自分達は似た者同士だと思う。理由は違えどアプリに夢中になってしまう所、親には言えない傷を持っている所、他にも共通点は沢山あった。
そんな彼の事を好きになるなっていう方が無理だった。