8話
文字だけの交換で恋が芽生えるとしたら…それはどんな恋よりも純粋な愛と言ってもいいのではないか。
美久は毎晩のように彼からのメッセージを心待ちにしており、それと同時に他者からの攻撃的なメッセージに心を痛めていた。
『体見せろよ』
『嫌です』
『つまんねぇ女だな。ここ辞めちまえよ!』
「っ……」
どうして見ず知らずの人間に、こんな事を言われなくてはいけないのだろう。
以前の自分だったら、怖くて写真を送ってしまっていただろう。でも今は友達の竹内さんが居る。彼の存在が美久自身を強くさせていた。
『辞めません。これ以上こんな文章送るならブロックします』
『お前の位置情報掴んでやろうか?本名や顔とか全部晒してやろうか?』
『そんな事出来る訳が…』
『俺を舐めんなよ!』
怖い…と心の底から思った。
これはただの脅しかもしれない。けれど文字は一種の暴力にもなるんだと、思い知らされた。
結局、その男から二度とメッセージが届かないようにブロック機能を使ったが、似たようなメッセージは止まる事を知らず何度も自分の元に届く。
これ以上は限界だ…。でもアプリを辞めたら竹内さんと話せなくなってしまう。辛い日々の中で唯一の癒しだった彼の存在。彼と話しているだけで生きていて良かったと思えた。大袈裟だと人は言うだろう。こんな自分の気持ちなんて誰にも分かる筈ない。
最後に…ちゃんと彼にお別れを言わなくては…。突然消えて居なくなるより、今までの感謝を伝えてから消えた方がいいと思ったから。
そして彼は自分には私を引き止める資格もないと言った。
どうして貴方はそんなに優しいの…?私なんて居ても居なくても何も変わらないでしょ…?
『ミクさんの事大切なんだ…今泣いてないよな?ごめん、やっぱり放っておけない』
『泣いてない』
嘘…本当は泣いてる…
でも確かめる手段も無いから嘘がバレる事も無い。
竹内さんは優しくてきっとカッコ良くて…誰よりも傷つきやすい人、私と同じ傷を負っている人。これ以上私と関わったら彼まで不幸にしてしまうような気がして…初めて強気な態度を取った。