6話
『ありがとう』
もし文字に魔法があるとしたら、自分はその魔法にかかってしまったのかもしれない。
たった一言、顔文字も絵文字も無いその言葉が胸を熱くさせた。
ただ話したくて送っただけのメッセージも彼はフォローしてくれた。ここでは数々の人と話した事があるけれど、竹内さんのように真っ直ぐに正直に、見返りも無く話してくれる人は居なかった。
もっと彼の事が知りたい。その欲求は止まる事を知らず、スマホの画面に向かって指がスラスラと動いていく。
『いえ。。竹内さんは高校生ですか?』
『そうだけど?』
『私と同じですね。もしかしたら同じ学校だったりして』
『そんな偶然があったら奇跡だな』
『ふふふ』
自然と笑みが零れる。今日だけで何度微笑んだ事だろう。彼は自分の欲しい言葉をくれる。それだけ気遣いの出来る人なんだと思った。
『あ、敬語じゃなくていいぜ?』
『でも…』
『俺達ネット友達にならないか?』
『友達…嬉しいです!あ、嬉しい!』
友達、それは美久が常にネットの中に求めていたものだった。
ここまでお互いに気が合うのだから、友人に進展するのは自然な流れでありながらも心の奥底ではまだ人を信じる事への恐怖と闘っていた。
『俺、男だけど何も求めたりしないから安心して欲しい』
『うん。竹内さんの事信じてもいい…?』
恐る恐る打った文字。これ以上傷つくのが怖くて、どうしようもなく怖くて、友達になろうと言ってくれた彼を試すような言葉。
それでも彼は…
『今は無理に信じようとしなくていい。ミクさんに信じてもらえるように俺が努力する』
文字がボヤけて見える…
スマホの画面に雫が落ちる…
「ぅ…ぅっ…」
涙は悲しい時に流れるものだと思っていた。
涙は苦しい時に溢れるものだと思っていた。
でも涙は嬉しい時にも流れるものだって彼が教えてくれた。