2話
『いえ、大丈夫ですよ(笑)何かあったのですか?』
『今、平手打ちくらった』
『え!?どうしてですか?』
『告られて断ったら、見た目詐欺だって言われてな。どうでもいいから軽くあしらっただけなんだけど』
『…それは辛かったですね…』
『辛い、か。そんな感情ももう消えかけてる。慣れちまったのかな。勝手に理想押し付けられて誰も本当の俺なんて見やしない』
『…それでこのアプリを?』
『…そうだな。顔なんて見たくもないし見られたくもない。その方が楽に話せるだろ?』
それは心からの本音だ。自分を知らない人と話したい。このアプリを使っている人間の大多数が同じ意見だろう。と思っていたが…
『確かに…。でも…私は女性ユーザーだからかもしれませんが、その…変な目的の人もいて困っています』
そのメッセージで思い当たる変な目的とは恐らく、出会い目的・もしくは卑猥なやり取りがしたい等の目的のどちらかだろう。自分は男だから滅多に来ないが、このマッチング相手は相当嫌な思いをしてきたに違いない。
ネットの中だろうが何だろうがやってる事は弱い者いじめと変わらない。そういう輩が自分は許せないとさえ思う。
『俺よりよっぽど嫌な思いしてきたんだな』
『アプリの中だけですから…大丈夫です』
『大丈夫じゃないのにそう言うのはよくねーよ?話してみろよ、何があったのか』
言い方こそ横暴に聞こえるが、光牙は芯のある優しい男だ。ネットの中のやり取りだからと言って、一人の困っている女性を見過ごせる程心は荒んでいない。
『実は…よくここで話す人に体の写真を求められたんです…。そしたら普通の話をしてくれるって条件付きで…』
『…それで送ったのか…』
『私は普通の話がしたかった…普通に話をして笑って過ごしたかっただけなのに…信用した私が馬鹿でした…』
『信用すんのは悪い事じゃねー、ただ相手を見誤ったら全部自分にのしかかってくんぞ。これからは失敗を教訓にして見極めればいい。俺で良ければ話し相手になるから』
『…はい、ありがとうございます…!』
お互い何も知らない状態で出会った二人が心を通わせた初めての瞬間だった。
現実でもきっと直ぐに人を信じてしまうタイプの女性だろう。その度に傷つき、癒しを求め再びネットに取り憑かれてしまう彼女の存在を今はただただ見過ごせない。