1話
スマートフォンが溢れ返っている現代社会。当然ながらアプリを使う者も多いだろう。竹内光牙もその一人である。彼は普通の高校生だが一つ他者と違う事と言えば、チャットアプリに夢中になっている事くらいだ。理由は自分でも分からない。ただ自分の容姿が端麗である事を自覚している光牙は、見た目が表示されないこのアプリを酷く気に入っている。文字だけのやり取り、暇潰しには丁度いい。
「ねぇ竹内君、好きなの。付き合って」
「………」
「竹内君ってば!聞いてるの!?」
放課後、呼び出されて来てみれば何度目か分からない告白をされた。
「っるせぇなぁ。聞こえてるっつーの」
「う、うるさいって…酷い!」
「来てやっただけ有り難く思えよ。悪いけど俺、女に困ってねーんだよ」
「な、何よ…!こんなの見た目詐欺じゃない…!」
パン…!と乾いた音が響く。名前も知らない女子生徒に頬を叩かれたのだ。別に大した事じゃない。光牙にとってはこれが日常であり、寄ってくる女子生徒に自分の見た目とは裏腹な言葉遣いを指摘されるのも慣れている。だが…
「んだよ詐欺って。俺に勝手なイメージ持ってんじゃねーよ」
今日は相手の発言に流石に苛立ちを覚えた。こんな時はスマホを取り出して例のアプリを開くに限る。
『初めまして、こんにちは』
どうやら初めてチャットをするであろう相手からのメッセージ通知が入っていた。先程の女子生徒の言動でイラついていた光牙はそっくりそのまま同じメッセージを返す。
『よろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
『?
さっきから私の真似してます?』
『いや、悪い。イラついててさ、話すの初めてなのにごめん』
段々そのやり取りが滑稽に思え、ついに自分の本音を零す。
リアルだったら絶対に言わない自分の本音。顔も本名も何も知らない相手だから話せる安心感。自分がアプリにハマっている理由はこれだったのか。