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サンタの居ないクリスマス

作者: 亀谷琥珀

この作品は作者が執筆のカルチャースクールで発表した作品を掲載しております。

お楽しみいただければ幸いです。

 とある雪深い小さな村の大きな家に一人の男の子が居ました。

「今年は来てくれるかな……」

 その男の子は暖炉に当たりながら憂鬱そうに壁に掛かっている日めくりカレンダーを眺めています。

 男の子が憂鬱なのには視線の先に原因がありました。部屋の日めくりカレンダーは十二月二十四日。世界中の子供の大半は大はしゃぎな一大イベントが明日に迫っています。

 そう、明日はクリスマス。ですが、男の子の家にはもみの木のツリーも派手な大きな靴下もサンタさんへのミルクとクッキーも用意してありません。

 それはなぜかというとこの村にはクリスマスを祝う風習が無いからです。

 村人の大半はこの時期は大忙しで何日も泊まり込みで仕事に行っていますし、現に男の子のお父さんもお爺さんもお仕事で何日も帰ってきていません。

 毎年二十五日はお父さんもお爺さんもお仕事お仕事。とてもクリスマスを祝うという感じではないのです。

「でもクリスマスにはサンタさんに会いたいよ!」

 男の子はそう宣言するとすくっと拳を握って立ち上がりました。

「坊やもう寝なさいね~」

「は~い」

 男の子が決意を新たにしたそのタイミングでお母さんにそう言われ、男の子はベッドに潜り込みます。ですが、寝るわけではなく毛布に包まりながらサンタさんを待つのです。

 そんな村の男の子がどうしてクリスマスやサンタを知っているかと言うと、きっかけはお爺さんが海外に行った時のお土産に持って帰ってきた一枚のポストカードでした。

 赤い服を着て恰幅の良い、ひげを生やしたおじさんの絵に男の子は興味を魅かれます。この人は誰と家族に聞きますが誰も答えてはくれません。何度もしつこく聞いてお爺さんがやっと重い口を開いてくれました。

「坊や。そこには外国の文字でサンタと書かれているんだよ」

 やっとの思いで聞き出したサンタと言う言葉。男の子はそのサンタと言う言葉が気になって小さな村で必死になって調べます。調べると言っても、大人に聞くのではなくインターネットです。村長さんの家に唯一あるパソコンを使わせてもらって男の子はサンタの事を調べました。

 調べて判ったことと言えば、世の中にはクリスマスと言うとても魅力的なイベントがあるという事。

 男の子は自分の家でもクリスマスをやりたいと家族に訴えたのですが誰も相手にしません。

「その時期は忙しいからダメよ」

 お母さんはそっけなくそう言いますし、お父さんは無言のまま。お爺さんは笑みを浮かべて微笑むだけです。男の子も仕方なく引き下がりましたが、本物のサンタさんが来ないかと、知った年から二十四日は寝ずにサンタさんを待ちました。しかし、次の年も、その次の年もクリスマスにサンタさんは来てくれません。サンタを信じて疑わない男の子は考えます。

「きっと僕が悪い子だからサンタさんは来てくれないんだ」

 そう考えた男の子は常に良い子にするよう努めました。

 お母さんの手伝いをしたり、自分で着替えをしたり、お父さんが飼育しているトナカイの世話を手伝ったり頑張りました。それでもポストカードで見たサンタさんはクリスマスに現れません。

 そうしてその年もサンタさんが来ないまま朝になり心が折れそうになった時、男の子は閃きます。

「僕がサンタになればいいんだ!」

 そうです。いなければなればいいのです。そうすれば自分みたいに悲しんでいる子たちもきっと減るだろうと男の子は考えました。

 考え付いた興奮も相まって体の底から何かが変わった気がします。興奮で眠気も吹き飛んだと思ったのですが、寝ずに起きていたので男の子はいつしか眠ってしまいました。

「坊や。こんなところで寝てたら風邪をひくよ」

 そう言われて男の子が目を開けるとお仕事から帰って来たお爺さんが男の子を抱いているところでした。

 男の子は朝考え付いた大事な大事な決心をお爺さんに告げます。

「お爺さん。僕サンタになる!」

 それを聞いたお爺さんはとても愛おしそうに男の子を見つめます。

「そうかそうか、坊やはサンタになるのか。じゃあサンタについて一番大事なことを教えよう」

 お爺さんはそう言うと男の子を椅子に座らせて神妙な顔をします。

「いいかい坊や。サンタのプレゼントは物じゃない。プレゼントとは明日をより良く過ごすための夢の魔法なんじゃ」

「夢の魔法?」

「そうじゃ。坊やがサンタになろう思ったとき別の人のことを考えたはずじゃ。そうすると魔法を使えるようになるんじゃよ。試しにそこの消えている蝋燭に火を灯すイメージをしてごらん」

 お爺さんにそう言われ男の子は蝋燭を見つめて火を点けるイメージをしました。するとどうでしょう。何もしていないのに蝋燭に火が灯ったのです。男の子も本当にできてびっくりします。

「な、すごいじゃろ。サンタはそれを操って子供たちに明日をよりよく過ごしてもらう手伝いをするんじゃよ」

「良く判らないけど頑張る」

 男の子は意欲満々です。お爺さんはその様子を見て楽しそうに笑います。

「それから遅くなったが儂からのプレゼントじゃ。去年までは寝ている間にあげていたんじゃが今年はいいじゃろう」

 そう言ってお爺さんは人差し指をくるくる回して男の子のおでこに当ててからさらに笑みを深くします。

「それにしても坊やがその歳で儂の跡を継いでくれる決心をしてくれるとはの~」

 すらっと高身長でひげも蓄えてないお爺さんはそんなことを言うのでした。


 物語はココで終わりです。

 読者の皆さんはもうどういう事だかお判りですよね。

 えっ、判らない? それは困りました。

 仕方がないので種明かしをしますよ。よく読んでくださいね。

 その村は本物のサンタの住む村。世界中の子供たちに夢を配るサンタに、クリスマスの日だけ会えないサンタの孫の小さな小さなお話でした。


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