009~お金に振り回されてる二人~
「よぉ!アタシの名前はメイダってんだ。よろしくなお嬢様方!」
「レネです。仲良くしてくださいね、ユノスお嬢様、リノアお嬢様」
「ユノスです。よろしくお願いします」
「り、リノアです。」
メイダはクセのある赤っぽい茶髪をポニーテールにした、いかにも女剣士といった風貌のワイルドな女性。
レネは青みのあるグレーのストレートロングで、魔術師然としたローブの中にその髪の一部を収めている。
両極端なキャラだが、二人とも同じパーティの冒険者で、仲は良いそうだ。
サバサバした口調と見た目で力強い印象を受けるメイダに、リノアはちょっと怖気づいていたけど、この程度ならなんとか慣れそうだな。
彼女たちは一年ほど前に依頼という形でカーノスと知り合い、以後何度か指名依頼を受けていて、今回も「俺たちの護衛」という依頼で受けたらしい。
俺たちの護衛をするなら長期依頼、短くても月単位、長ければ年単位になるだろう。
そんなに長い期間、行動を縛られて良いのかと聞いてみたところ、3つの理由があるのだという。
ひとつ、カーノスとは一年でかなり信頼関係を築いていて、自分たちに不利な条件を出すはずがないと信用していること。
ひとつ、この依頼は達成までの期間が決められていない分、定期的に報酬をもらえる契約になっている。
安定した収入というのはとてもありがたいということ。
ひとつ、元々彼女たちは後二人、男のツレが居る4人パーティだったのだが、そこでトラブルがありパーティは解散状態。
さらに早急にある程度まとまった金が必要で、今回カーノスがそれを立て替えてくれる契約をしてくれたこと。
ということらしい。
特に3つめの理由が一番の問題だった。
「あいつら、アタシらそれぞれの恋人だったんだけどさ、二人揃って結婚詐欺に引っかかったんだよ」
「急に「別れてくれ」なんて言われて、それだけでもショックだったのに、二人とも同じ女性に夢中になってると知った時は、頭がどうにかなりそうでしたね…」
「んで、パーティ共有の財産を持ち出して貢いで……悪い金貸しにまで金を借りて、搾り取るだけ取ったら女はドロンと雲隠れさ」
「私たちが女性の存在に気づいた頃にはもう逃げられた後でした。そして残ったのは、置いて行かれた元カレたちと…」
「多額の借金ってワケだ。あいつら、金借りる時にパーティ仲間だからってアタシたちを勝手に連帯保証人にしてたみたいでね。」
「今、彼らは借金奴隷としてすでに捕まっていますが、私たちも期限までに一部を支払わなければ、同じ道を辿る運命だと脅されまして」
「アタシらにとっちゃ寝耳に水だが、契約書は正式なもんだから、それを破ると借金奴隷を飛び越えて、犯罪奴隷に落とされちまう…
そんなピンチにタイミングよく声かけてくださったのが、カーノス様ってことさ!いやぁ、カーノス様はアタシらの命の恩人だよ」
「こんなトラブルを抱えている人間と新たにパーティを組みたいという人は居ませんし、かといって二人だけでは達成できる依頼も限られますからね…
カーノス様の申し出は、大変ありがたかったのですよ」
なんて重い理由なんだ。
流石の俺も素で頭を抱える案件だった。
パッと見でそんな辛い状況に陥ってるようには見えなかったから驚いた。冒険者は苦労することも多いそうだし、気持ちの切り替えが上手いのだろうか。
というか妹に聞かせる内容じゃなかったな…
護衛ってことで常日頃近くに居ることになるんだから、少しでも仲良くなってもらおうと会話に参加させたのはマズったかもしれない。
話の内容全てが分かったわけでは無いようだけど、「おとこのひとって、やっぱり、よくない……」とかブツブツ言いながらダークサイドに堕ちたような顔をしている。
男性恐怖症と相まって男性不信に突入しそうだ。
妹の行く末が心配で仕方ない。
だが彼女たちが長期の護衛依頼を受けた理由はしっかりと納得できた。
そりゃそんだけ好待遇で契約してもらえるなら受けない道理はないよな。
でも、悪い金貸しってくらいだから、金払いが良いならもっと出せって無理言ってくるかもしれないし、カーノスには用心させておこう。
二人のスペックを確認。
メイダはロングソードをメイン武器にした近接アタッカーで、風属性の魔法を少し使える。
剣に風を纏わせて、斬撃を飛ばしたりできるらしい。
レネは火・水・土・風の四大属性を満遍なく、初級までなら使いこなせる。しかもほんの少しだが回復魔法も使えるそうだ。
そういえば今まで自分が大体なんでもできたので細かく考えていなかったが、この世界の魔法は一定の属性と、級に分類されている。
属性はレネの使える四大属性と呼ばれる『火・水・土・風』、そこに『闇・光』、最後に『無』の合わせて7つ。
級は初級・中級・上級・特級の4つで、ゲームの攻略難易度を当てはめると、序盤で初級、中盤で中級、終盤で上級、ラスボス直前で特級、くらいの威力になる。
序盤レベルの魔法しか使えないレネが弱いのか?というと、全くそんなことはない。
ゲームの敵というのはどんどんインフレ化していくものだ。それに追いつけるようにキャラクターもどんどんレベルアップでインフレ化していくので、一般市民から見て終盤のメインキャラはただの化物だ。
今現在、この世界はゲームの序盤レベルから逸脱した魔物はほとんど存在しない(居たとしても魔物の領域に引っ込んでいて、人前には出てこない)ので、初級魔法で十分やっていける。
中級魔法が使えれば冒険者なら上位ランクに食い込めるし、貴族から声がかかったりする。
上級ともなれば宮廷魔術師として国から望まれる立場に立てるだろう。
特級が使えるなら、それは最早神の領域と言える。
そんな事情があるので、4つの属性の初級を使えるレネは、なかなかの腕前を持った魔術師ということだ。
実際、メイダもレネも冒険者ランクはBだ。S・A・B・C・D・E・F・Gの8段階で評価される中、上から3番目なのだから、それだけの力を持っているということだ。
そして回復魔法。これは世界でも使える人間が少ないため珍しいとされているが、それにも理由がある。
何故なら回復魔法は、無と光の混合魔法だからだ。
魔法の属性を混ぜるという概念は、今の世界にはまだ存在していない。本編の中盤で強化イベントとして技術が発見、拡散される流れなのだ。
光の属性魔法を使える人間が少ないのもあるけど、そこからさらに無意識で混合魔法を使える者はさらに少ないだろう。
そんなわけで回復魔法は珍しい、ということだ。
つまりレネは、自分でも気づいていないけど光と無の属性も使えるということだな。
闇以外をコンプリートとか、主人公である妹に迫るハイスペック。
これは育てればバケるな……
なんとか言いくるめて戦闘訓練をさせていきたいな。
ついでにメイダも磨くべきか。
サラっと流していたが、一属性とはいえ魔法と近接武器を使いこなせる人材は貴重なんだ。
戦闘の幅が広がるし、風魔法は訓練次第で攻撃も防御もできる優れものだ。
もしメイダに無属性の素養があるなら、混合魔法で速度関連の身体強化魔法も習得できる。
一人でなんでもできるオールラウンダーになれるはずだ。
妹にも護身程度に力を付けて欲しいな。主人公スペックならすぐに成長できるはずだ。
うーん、今から楽しみで仕方ない。カーノスめ、女を見る目が無いと思ってたけど、なかなかやるじゃないか。
「二人にはこの別館に住み込みで働いて欲しいと思ってるんだが、良いかなユノス、リノア?」
「えぇ、むしろこちらから頼みたいくらいです。お二人が一緒に住んでいただけるなら安心ですから」
「おねえちゃんたちいっしょに住むの?おねえちゃんたちなら、いいよー」
「アタシらとしても願ったり叶ったりさ。今は宿に泊まるだけでも懐にダメージがくるからねぇ」
「良かった。では屋敷内での二人の扱いについて決めておこうか」
夜もきっちり護衛してもらうタメに、二人も別館に住むことになった。
個室を宛がうのは勿論、食事は三食出るし、別館内の設備もコーネルさんの許可が出れば使用可能。
お風呂だって使えるし、資料室の本も一部を除いて閲覧可。
また、敷地内が広すぎるせいでたまに魔物が迷い込むのだけど、それを討伐した際は自由にして良いとのこと。
冒険者相手には破格の扱いだ。
メイダとレネも、住む場所の提供を聞いた時は安堵の表情だったけど、内容を聞いてる内に段々口元が引き攣ってきた。
「えーとそうだな、それから衣類や装備に関しても、必要なら申請してくれれば新しいものを用意するから…」
「ちょっちょちょ、ちょっとまった!」
「ん?なんだい?あと3点ほど言っておきたいことが…」
「まだあるのかい!?いや、いやいや流石にそこまでしてもらうのは悪いから!依頼分の報酬も貰ってるのにそこまでしてもらうのは流石に忍びないから!」
「カーノス様、お気持ちはありがたいのですが、私たちはあくまで一介の冒険者に過ぎませんので、失礼ながらこれ以上は分不相応かと…」
「そうかい?君らはちょっと自己評価が低いと思うんだがなぁ…私としてはこのくらい当たり前だと思うが」
「「いやいやいや…」」
カーノスの言う通り二人の自己評価はやや低い。
でも彼女たちの言い分も分かる。冒険者というのは身分でいえば平民と変わらないからな。
というかカーノスはアレだな。気に入った相手にはとことん貢ぐタイプだな。
現代日本風に言うと、廃課金とか課金厨とか呼ばれるタイプだ。
たしかダフの時もこんな感じだったし。
結局二人がカーノスを説得し、装備云々と残りの3点については無効とさせていた。
3点の内容は聞けず終いだったけど、レネが「聞いたらストレスで胃に穴があきそうなので」といって頑なに言わせなかった。