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008~ここが俺たちのハウスね~


グレンダール家に到着すると、予想通り義母たちが居るであろう本館を素通りして別館に招かれた。

まぁゲームでもヒロインは別館に住んでたからな。

下手に挨拶に行って何されるとも分からないし。



ダフは屋敷には来ないで街に住むことにしたらしい。

カーノスは屋敷で雇う気マンマンだったようだが、貴族の屋敷でダフが出来る仕事は無いからな。

(自称)情報屋として、大人しく外で暮らしていた方が活動しやすい、ということでカーノスを納得させていた。


生活するための資金援助も打診されたがこれも断っていたな。

グレンダール家に貢献できる情報を仕入れたらその報酬は受け取るけど、普段は自分で日銭を稼いでなんとかするつもりらしい。

それに、隠してはいるがダフはすでに俺に雇われてる状態なので、重複雇用を避けたいのだそうだ。

律儀にもほどがあるだろ。俺の場合は口約束みたいなもんなのに。

アレでよく今まで犯罪者できてたな……


なお雇用主としてダフに給与を渡さなければならないわけだが、今の俺には自由に使える金が無い(隠れ家の物は全部置いてきたしな)ので、

探査魔法と、ついでに逃げ隠れしやすいように商人の屋敷で使った隠密魔法を教えたことで、ひとまずチャラにしてもらった。

隠密魔法も肌に合ったのか、割と早く習得していた。あいつもしかしたら魔法の才能あるかもしれない。

魔法を教える過程で相手をした魔物の素材なんかも渡しておいたから、冒険者ギルドにでも卸せばそれなりの金額にはなるはずだ。









別館の入口ではお髭の似合うダンディな執事に出迎えられた。

カーノスの最も信頼する部下、ライガスさんだ。歳はダフよりちょい上。

具体的に言うと、カーノスが現在27歳、ダフが30歳、ライガスさんが32歳だ。


ライガスさんはゲームの本編でもよく登場していて、領地を気軽に離れられないカーノスの代わりにヒロインを助けてくれていた。

なので俺の中でライガスさんへの好感度は初対面ながらMAXである。



しかしここで問題が発生。そう、妹のトラウマである。


妹は現在男性恐怖症を患っていて、特に大人の男がダメだ。

つまりライガスさんは近づくのもお断りな対象。

実際、入口前でお辞儀をしているライガスさんを見ただけで、それなりに距離があるにも関わらず恐怖のあまり泣き出してしまったのだ。

旅の間はカーノス以外の男からは遮断してたこともあって、突然知らない男性に会って驚いたのもあるだろう。


出迎えただけでボロ泣きされるという状況に、流石のライガスさんもカーノスもたじたじ。

ライガスさんは事前に手紙で事情を知っていたけど、まさかここまでとは思ってなかった様子。

カーノスも、俺の介入のおかげでそこまで拒絶されていなかったので、一番の部下であるライガスさんを完全否定されたことに少なからずショックを受けていた。


妹を泣かせる奴は断罪あるのみ!!な俺でも、流石にライガスさんは許した。

すごいしょんぼりしてて可哀想だったし。














「申し訳ありませんでした。妹の心の傷の深さを見誤ってしまった俺のせいで、ライガスさんには不愉快な思いをさせてしまいました」


「そんな!ユノスお嬢様がお気になさる必要は一切ございません!

事前にご連絡をいただいたにも関わらず、不用意に姿を見せた私が悪いのです」


「いや、確かに手紙でリノアのことは書いたが、事実よりもずっと軽めに書いてしまった自覚はある。

ユノスがリノアを必死に説得してくれたおかげで、ある程度の距離を許されていたということを忘れていたよ。

だから今回リノアを追い詰めてしまった責任は私にある。二人には何の罪もない」


「旦那様までそんなことを…」



現在俺たちは応接室で机を囲み、3人で謝罪合戦を繰り広げている。

妹は半分パニック状態だったので、コーネルさんにお任せしていて、この場には居ない。




話し合いの結果、残念ながらライガスさんは本館にてこれまで通りカーノスのサポートをすることになり、別館へは極力足を運ばないことになった。

妹を説得することも不可能ではないだろうけど、一度拒絶してしまった相手と歩み寄るのは中々難しいだろうし、実父のカーノスでさえまだ慣れていない状態。

そんな中で無理にライガスさんに慣れさせようとして、ストレスで余計にトラウマが強くなる可能性もあるからな。


別館の指揮をライガスさんが取る予定だったので、急遽代役を立てることに。

これに関してはすんなりと決めることができた。コーネルさん一択である。

コーネルさんはグレンダール家に勤めて15年のベテランで、なにより妹がこの場では俺の次に懐いている存在だ。

「彼女になら安心して任せられる」とライガスさんのお墨付き。

ゲームの進行と変わってくるけど心配する要素は今のところ無いだろう。













別館の間取りを確認するために、リノアとコーネルさんを連れて探索を開始する。

先ほどまで居た応接室と、食堂、厨房、広間ときて…トイレは魔道具で水洗式になっていた。

ウォシュレットまで完備してある。

前世見たソレと謙遜ない高性能ぷりだ。


たしかシナリオのどれかで、トイレを探索することがあってその背景に映り込んでいたトイレが、どうみても最新の水洗トイレだったので「突然の圧倒的現代要素に草はえる」と最初は皆ネタにしていた。

後になって訝しんだ検証班によって、ネット上のフリーではない画像を無断でトレースした名残だということが判明し炎上していたが。


なるほどあの時のとんでもトイレのくだりが、こんな感じで補填されたわけだな。

お詫びの書き下ろしキャラ絵を添えた修正パッチで、水洗とも汲み取りともつかない無難な形のトイレに変更されていたはずだけど…


蛇足だが、背景を担当したイラストレイターは、これ以外にもいくつか無断トレースが発覚し、依頼先の数社と揉めたり散々SNSで叩かれていつの間にかいなくなっていた。



ここだけ異常に世界観がマッチしていなくて動揺してしまった。

コーネルさんにトイレの使い方を聞いたところ、前世のソレとなんら変わりないようだ。

ただ、流れていった排泄物がどこへ行くのかは分からないらしい。

流れていった先にある魔法陣に接触すると、水ごと文字通り消えるのだとか。


何それこわい。一種のブラックホール的なサムシング。


いかにファンタジーな世界観とはいえ、魔法に関してある程度原理を説明することができるのに、このトイレの魔道具は製造者ですらそのメカニズムを理解していないらしい。

そもそも古代の遺跡から発掘された魔法陣を模写しているだけなのだとか。


接触した物が消滅するというある意味で最強の魔法陣なら、兵器に使用できそうなものだけど、この魔法陣は「トイレとしての機能」でないと発動しないという制約がある。

理屈はやっぱり分からないけど、その制約はとてもありがたい。流石にう〇こ扱いでこの世から消え去るとかシャレにもならないからな。

まさか水洗トイレにここまで恐怖を覚えることになるとは、夢にも思わなかった。





トイレショックを引きずりつつ、探索を再開する。

私室は各一人ずつ使用できるくらいには数があった。

コーネルさんは複数人で寝泊まりできる使用人部屋で良いと言っていたけど、これだけ数があるのだし、どうせここで過ごす人数はそう増えない。

コーネルさんは別館の指揮を取るリーダーのような存在であるし、リノアの部屋の隣くらいに陣取ってフォローしてもらえるとありがたいと説得し、宛がうことに成功した。


妹は最初、俺と同室が良いという可愛らしい我儘を言っていたけど、なんとか説得させてもらった。

今後成長した妹のためにもプライベートな空間は必要だし、逆もまたしかり。

未来に向けて色々準備もしていかないといけないし、人目につかない空間は必須だと思ったのだ。

まぁ、見られて困るようなものはなるべく置かないようにするつもりだけど。

しばらくは仕方ないにして、外に出れるようになったらダフのところにでも置いておけばいいだろう。



あ、カーノスの部屋も一応決めてあるけど、カーノスは基本的に本館住みだ。

曲がりなりにも妻と子が居る本館から別館へ完全に移動なんてしたら、義母が絶対余計なことしてくる。

ただでさえ暗殺しようとしてきたのだから、推して知るべしだ。

あと単純に外聞が悪い。

カーノスには義母のご機嫌取りをして、こちらから目を反らす努力をお願いした。

カーノスは大変に不満そうな顔をしていたけど、義母の危険性は理解しているんだろう。「ライガスと共にしっかり見張っていよう」と力強く宣言していた。

うん、その調子で頼むぞ。




最後に中庭と屋敷の外を確認。

こじんまりとした中庭は、普段から手入れだけはしているみたいだけど、色気が全然無かった。

好きな花とか植えて良いのかコーネルさんに聞いてみたところ、快く許可をくれた。

ライガス事件からずっと低かった妹のテンションが、ここにきて急上昇した。そういえば花とか好きだったな。


中庭に関しては妹に丸投げしよう。


屋敷の外は広場やら雑木林やら、割と色々あった。

壁の中は敷地内、とのことだったが、壁までの距離が中々に遠い。

魔法なしで普通に歩いたら、壁に到達するまで子供の足だと2時間費やしそうな勢いである。

この家、そんなに金持ちだったのか…それとも単に土地が余ってるだけ?



「こんなに土地があると、畑とか作ってみたくなるな」


「畑でございますか?可能ですが、屋敷の庭師は野菜等にはあまり精通していないと思います」


「あ、作っていいんだ?うーん、畑作りは俺が自分でやるから、道具とか種とか揃えてくれると助かるかな」


「お嬢様が畑作りを?」


「貴族令嬢らしくない?」


「そうですね…でも、お嬢様が希望なされるなら、応援させていただく所存です。旦那様もきっとお許しになられるでしょう」


「ありがとうコーネルさん」


「日焼けとケガには注意なさってくださいね」


「はーい」



コーネルさんからお許しが出たので畑を作ることにした。

前世では家庭菜園をちょっと進化させた程度のレベルだけど、一応趣味だったんだよな。

今後邪魔にならないよう、作る場所には気を付けないとな。





こうして別館の探索がひと段落した頃、一度本館へ帰っていたカーノスが、冒険者風の女性を二人連れて帰ってきた。


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