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007~昨日の敵は今日の下僕~


グレンダール領までの旅路はまぁまぁ順調だ。

たまに夜盗に襲われたりするけど。


というか夜盗に見せかけた暗殺者だったけども。





実は旅に出る前の挨拶回りの時に、最初の誘拐騒ぎの実行犯が所属していたグループの一員を見かけていたのだ。

何で分かったのかって?

依頼人だった商人を見つけた時にそこの繋がりも洗ったからだよ!

じゃぁなんで処理しなかったのかって?

確かに妹を守るためにアイツらみたいな悪党はみんな処理した方が良いだろうけど、全部処理していくと後が大変だからな。

一々末端まで潰してたら時間がいくらあっても足りやしない。

そのせいで妹の傍に居られないのは本末転倒だろう。



んでその団員野郎、どうも別の悪党グループに鞍替えしたみたいだったんだが、そいつらと一緒にカーノスの従者の一人と取引してる最中だったわけだ。

従者はいかにもモブです!って顔の男だったけど、そのモブ顔には見覚えがあった。

本編で義母に侍ってたやつと同じ顔だ。


こいつこんなところに潜んでたのか。

あまりにもモブ顔だから取引の現場を目撃するまで気づかなかったぜ。


話を盗み聞きしてみると、旅の途中で夜盗に見せかけて俺たち双子を暗殺する依頼をしていたようだ。

あれ、この段階で襲われるイベントとかあったっけ?

俺が居ることによってシナリオがズレてるのか?

それともイベントに書き起こされてなかっただけか?


兎に角妹を危険に晒すわけにはいかないので、処理することに決定。

だけどこの場で全員殺るのはマズイ。

人気のない路地裏とはいえ昼間の街中だ。誰が見てるとも限らない。

それに、従者が裏切っているという事実を有耶無耶のままにして、カーノスが周囲に対する警戒心を薄めてしまうのもシャクだ。



ということで、あえて夜盗には襲われて、暗殺計画をばっちり暴いてしまおうという方向に持って行った。

そのためにまず鞍替え野郎の後を付けて、一人になったところで魔法で拘束。

OHANASHIすることにした。


鞍替え野郎はダフという名前で、俺を見るなりガタガタ震えだした。

自分を拘束している魔法の行使者を理解しているらしい。

こんな幼児といっても過言ではない子供が魔法を使うとは、普通考えないからな。


ダフは俺と妹の顔と名前を憶えていたし、今回の暗殺依頼も本当は受けたくなかったようだ。

でも鞍替えしたばかりでグループ内で信用がないから、どうしても断れなかった。

だから適当について行って、自分自身はなるべく俺たちに手を出さないようにするつもりだった、と話してくれた。


別にダフが子供に優しい一面を持っているとか、そんなんじゃない。

単純に、俺か妹のどちらかが前のグループの実行犯や、依頼主だった商人を殺害した犯人だとアタリを付けていたからだ。


普通に考えて、そんな推測をするやつは頭がおかしいと思われるだろう。

実際、前のグループの奴らからは馬鹿にされて相手にしてもらえなかったそうだ。

このままここに残ってて、もし報復に来られたら確実に全滅する。

そう悟ったダフは今のグループに鞍替えした、というわけだ。


まぁそこでまた俺たちに関わることになってしまったんだが。

運の無い男である。



運もなければ力もない小物だが、俺の子供ならざる力を見極める目と、危険を回避するためにすぐさまグループを鞍替えする行動力は、後々使えるかもしれない。

そう思った俺は、「俺の言うことをちゃんと聞くこと」と「俺を裏切らないこと」を条件にダフを雇うことにした。

断れば殺されると判断したダフは即決で了承してくれた。

憲兵の隊長もそうだったけど、賢い人間は嫌いじゃないぞ。

もちろん後で裏切ったら地獄の果てまで追いかけて殺すから、と笑顔で告げれば、ズボンと地面にシミを作りながら白目を剥いて気絶してしまった。

ちょっと脅しすぎたかな?


仮にも俺の父親であるカーノスよりは年上なんだから、もっとしっかりしてもらわないと困る。






そんなこんなでわざと夜盗に襲われたわけだけど、いつ、何人で、どんな風に襲ってくるかはダフを通じて筒抜けだったので、それをこっそりカーノスに伝え(もちろん例の従者の裏切りも添えて)あっさりと全員を捕縛することに成功したのだった。


ダフのことは「俺個人と仲良くしてくれている情報屋」とカーノスに紹介、俺たちが狙われてることを知って、わざわざ暗殺者集団に潜り込んでくれていたという設定をでっち上げた。

旅に出る前の挨拶回りで大人から可愛がられている俺を見ていたカーノスは、おっさんであるダフが俺の友人と聞いてもそこまで不信感を持たなかった。

むしろ命の恩人としてダフを受け入れ、小汚い恰好のダフにハグしてみせるほど喜びと感謝を表していた。


おっさん同士のハグとか誰得でしかないが。

少なくとも俺に需要はない。


小物犯罪者から一転して貴族の子息子女を命がけで守った善人に祭り上げられたダフは滅茶苦茶に挙動不審だったが、なんとか黙らせることに成功。

これを機に犯罪から足を洗って本物の情報屋でもやってもらいたいところだ。

そして俺に有益な情報をプリーズ。







「さて、マクスウェルよ。お前があの夜盗どもに子供たちの暗殺を依頼したそうだな」


「グレンダール様!それは誤解です!私はあのような者どもと会ったこともありません!」


「テメェだけ逃れようったってそうはいかねぇぜ!

お前が依頼なんざしなけりゃ俺たちゃ捕まらずに済んだんだ!

このまま鉱山送りになるなら、テメェも道連れだ!」


「うるさいぞ貴様!余計なことを!」


「夜盗のリーダーはこう言っているぞマクスウェル。

ユノスの友人も、君と彼らが一緒に居る現場を目撃したと証言していたぞ。

どう言い逃れするつもりだ?」


「違います!違うんですグレンダール様!どうか話を聞いてください!!」




カーノスと従者と夜盗の頭と3人で、盛大に修羅場っている。

というか従者はマクスウェルという名前だったのか。

モブのくせに名前はやたらカッコイイな。


ちなみにダフの存在は頭や従者にバレると面倒なことになるので隠すようにカーノスにはお願いしている。

頭や従者はダフも一緒に捕まってると思い込んでるだろうな。



結局従者はその後も言い訳を続けていたが、ポロっとボロを出したことで夜盗ともども捕縛されることになった。

みんなで仲良く犯罪奴隷として鉱山労働行きになる予定だ。

俺の妹を殺そうとしたんだ、命があるだけマシだと思うがいいさ。


けど、何故従者が俺たちを暗殺しようとしたのか、その真実を知ることはできなかった。

従者自身は言い逃れが出来なくなってからは犯行を認めたけど、理由は頑なに喋らなかったのだ。

俺は原作知識から、義母に頼まれたのだと確信しているし、カーノスも大体予想がついているみたいだったが、証拠がどこにもない。

従者はそういった義母に関わる物を一切持ち合わせていなかったのだ。



そうこうしているうちに、人目のない隙をついて従者は舌を噛み切って自害してしまった。

義母との関係を証言させようと、口に噛ませていた布を取ったままだったのが災いしたらしい。


俺が駆け付けた時にはまだ一応息があったけど、「子供が見るものじゃない!」と言ってカーノスが俺を抱き上げてしまったのでそれ以上は何もできなかった。

例えそのまま近くまで行けたとしても、こうも多くの目がある場で回復魔法の行使は控えたい。

回復魔法を使える者は貴重だし、そもそも俺はまだ『魔法を使えないただ賢いだけの幼子』という設定なのだ。

グレンダール領で妹の身の安全を確保するまで、これ以上悪目立ちをするわけにはいかない。

そんなわけで従者のことは諦めることにしたのだった。


カーノスからすれば裏切者だけど、義母からすれば天晴な忠誠心の持ち主だったな。

義母にそこまでの価値があるようには思えないけど、そこはまぁ、人それぞれか。






あ、勿論だけど妹にこの一連はまるっと伏せておいた。

旅を開始した時からお世話になっているメイドのコーネルさんに、妹の相手をお任せしていたのだ。


コーネルさんはダフと同じくらいの年齢で、程よくふっくらとした体形でとても安心感のある見た目をしている。

母親はスラっとした体形で、目鼻立ちもコーネルさんよりハッキリとしていた。

妹的に、母親のイメージとまったく違う女性のコーネルさんは受け入れやすい存在だったらしく、すっかり懐いている。

今もコーネルさんの膝枕でぐっすり眠っているくらいだ。


グレンダール領に付いたら、俺たちは恐らく別館に住むことになるだろう。

カーノスにお願いして、コーネルさんを俺たち付きのメイドにしてもらった方が良いかもしれないな。









その後も暗殺は関係なしに盗賊に襲われたり魔物に襲われたり、細々としたハプニングはあったけど、俺が探査魔法で襲ってきそうな気配を察知し、ダフに伝える。

それをダフがカーノスに報告するといった流れで、その場を楽々と切り抜けることができた。


よほどのことが無い限り、先手が取れれば現在の護衛兵士数人でいずれも対処可能な敵ばかりで助かった。

いや、この場合はグレンダール家に仕える兵が優秀なのか。



俺の隠れ蓑として情報を提供し続けたダフは、カーノスに思いっきり気に入られてしまっていた。

すっかりダフを信用しきっていて、寝る前の晩酌に付き合わせたりしているようだ。


その際義母や祖母の愚痴をこぼしたり、領のことで困ってること、今後やっていきたいこと等もこぼしたりで、一平民が聞いて良い内容じゃない部類も入ってるとかで

「旦那の親父殿をなんとかしてくれ」とダフが涙目になりながら訴えてきてちょっと面白かった。


ちなみにダフは俺のことを、人目がある時は『ユノスお嬢様』、二人きりの時は『旦那』と呼ぶ。

ダフには俺が男であることを見破られてしまっていた。

当時の仲間を殺したかもしれない俺たちの情報を集めるために、色々調べた結果だそうだ。

勿論それに関しては口外しないように厳命している。

ただ、こうやって自分の性別も実力も偽らずに接することができる相手は現状ダフしか居ないことを考えると、良い拾いものをしたなと思う。

短気を起こして皆殺しにしなくて良かったなぁ。


俺が満足気に笑っているのを見て、ダフが真顔で「こわい」と呟いている。

失礼な。美少女(擬態)の笑顔だぞ。もっと崇めろよ。



そんなダフは、ちょっと前まで小汚いおっさんだったが、今では小奇麗なおじさんに進化している。

旅の途中で立ち寄った町で、カーノスがダフを着せ替え人形にした結果だ。

ああいうのは女性特有のものだと思ってたけど、そうでもないらしい。


カーノスは小一時間あーでもないこーでもないとダフに色んな服を着せ、結構な数の服を購入していた。

付き合わされたダフはげっそりした顔で項垂れ、その後購入金額を聞いて顔を青くしたり白くしたりしていた。


ゲーム上の都合もあってか、この世界は中世ヨーロッパ風ではあるがリアル中世よりは文明のレベルは高い。

それでも衣類は手製なので用意するのが難しく、それ故に高価になりがちだ。



「親父殿が買った俺の衣装の総額、俺が人生で稼いだ金の七割相当な件について」


「胃が痛い時は回復魔法をかけてやろう」


「他人事だと思って!!!」


「だって他人事だもの。 いいじゃないか貰っておけよ、あの人なりの恩返しだろ」


「恩なんか無いだろ!全部旦那の手柄じゃないか!」



そうやってキーキー騒ぐダフは、髪やら髭やらを服に合わせてセットされると思いの外イケメン、いやイケオジ?だった。

滅茶苦茶美形というわけでもないが、親しみがあるというか、人の輪の中に入りやすそうな印象を受ける。

今まで恰好で損してたんだなぁ。

もっと普段から整えてればモテてたんじゃないか?



「いや、ガキの頃からまともな恰好してると何故か変態に追い掛け回されたり野郎に言い寄られまくってたから、わざとボサボサにしてたんだよ……」



うすうすそうだろうなとは思っていたけど、ダフの不憫属性は生まれ持ってのものらしい。

そのおかしな性質のせいで人間関係が上手くいかずまともな職につけなくて、小悪党にまで落ちてしまったのだとか。


死んだ魚のような目をしながら、「親父殿は大丈夫だけど、護衛兵士の何人か目が怪しいんだ…」と嘆いている。








このままダフを隠れ蓑にし続けても良いけど、そのうちボロが出るかもしれない。

ということで、影でダフに探査魔法を教えることにした。


探査魔法は風と土と無の混合魔法(カクテルマジック )だ。

3種類の混合なので、コツが掴めるまではかなり難しい魔法となる。

だけどダフが 「ここまで俺のことを買ってくれている親父殿に、これ以上嘘をつくのは忍びない」 と言って自ら俺に教えを請うたのだ。


元犯罪者のクセにやたら真面目な部分があり、ダフは一生懸命探査魔法を覚ようと努力をした。


状況を見極めようとする本人の気質に合ったのか、魔法自体初心者だったダフも、精度は俺に劣るものの、二週間程で探査魔法を習得した。

逆に魔法初心者だったからこそ、既存の概念にとらわれず混合システムを受け入れられたのかもしれない。

この調子なら、近いうちに俺よりも探査魔法が得意になるかもしれないな。



え、なんで覚醒して間もない俺が探査魔法を使えるのかって?

そりゃぁ前世の知識と体のスペックのなせる技よ。

プレイヤーの趣向に合わせてステータスをカスタマイズできるチートスペックなヒロイン。

その双子のお兄様が、低スペックなわけがなかろうってことだ。





そんな感じでダフをいじったり妹を甘やかしたりカーノスに付き合ったりしながら、俺たちは一月かけて無事にグレンダール領へ辿り着いたのだった。


週に1回か2回更新できれば良い方かな、くらいの遅筆です。

定期更新とかは難しいと思います。ご了承ください

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