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003~似合ってるから恥ずかしくないもん~


カーノスと面会している間、というか妹誘拐事件があった翌日から、俺はずっと女装している。


理由は簡単、妹が怯えるからだ。


大事な大事な魂の片割れに怯えられながら生きるなんて、俺には耐えられない。

ということで、俺はその日から「兄」ではなく「姉」になることにした。



髪の毛の短さは仕方ないにしても、仮にも俺は乙女ゲーヒロインの兄。

性別に差があるとはいえ可愛い顔をしていると自負している。

そこに女の子っぽいワンピースを着せれば、男だと分かる者は少ないだろう。


一人称が「俺」でも、男勝りな子だと誤解される程度には、完璧な美少女擬態だ。



妹は最初困惑していたが、「今までは母さんからリノアを守るために兄のフリをしていたけど、本当は姉だったんだ」という設定をゴリ押した。

精神的に弱っているのと、リアル5歳ということで、俺に洗脳…もとい言いくるめられた妹は、俺を姉だと認識するようになった。



シスターは何か言いたそうな顔をしていたが、見守ることにしたようだった。ありがとうシスター。



もし妹が男性恐怖症を克服した後、必要に迫られれば女装を解除しようと思う。

そうでなければ、一生女装していくつもりだ。俺には妹が居ればいいから、恋愛する必要もなければ、結婚する気もない。よって性別はどうでも良いことだと考えている。





諸々の事情をおおざっぱに説明すると、カーノスは大分苦い顔をしたものの、納得してくれた。



「ユノスが男だと分かれば、『次期当主に』なんて言い出す輩が湧くだろう。

ユノスがそれを望むなら吝かではないが、そうでないなら性別を偽るのは良い自衛になる」



そうだった。本来俺は存在しないからそこまで考えてなかったけど、現在カーノスの子供とされる4人には、グレンダールの特徴である赤い毛先の髪を持つ者が居ない。

毛先が赤くなる時期は個人差なのだが、もし俺が男のままグレンダール家へ行けば、あっという間に次期当主として祭り上げられるだろう。


そうなると滅茶苦茶面倒なことになる。

女装しててよかったと心底思った。





話のすり合わせをしつつ、今後のことを話しあって今日は解散。

俺たちは二日後、カーノスと共にグレンダール領へ向けて出発することになった。


妹に相談せずに勝手に決めたことは悪かったと思うが、人間不信状態の妹が首を縦に振ることは無いと確信していたので事後承諾だ。

当然妹は嫌がったが、ここに居続けると教会の迷惑になること、恩人であるシスターが危険に晒されるかもしれないこと、カーノスは実父で、絶対に裏切らないことなどを懇々と言って聞かせ、なんとか納得してもらうことに成功した。



「おねぇちゃんがいっしょに居てくれるなら、リノア新しいお家でもがんばれるよ」




んあぁぁぁぁぁっ!!! 俺の! 妹が! こんなにもかわいいっ!!!!


悶え転がりそうになるのを必死で堪え、微笑を浮かべながら妹をぎゅっと抱きしめた。

妹のためなら、なんでも出来る。俺は改めてそう確信した。








二日の間に近所への挨拶や荷支度、あとはちょっとした種まきをし、カーノスと共に馬車で出発する。



「シスター、今までありがとうございました。落ち着いたら必ず手紙を書きます」


「ユノス、リノアも、お元気で。貴方たちの未来が幸福で満ちるよう、祈っていますよ」


「シスターありがとう。また遊びにくるからね。ぜったいくるからね」



シスターは目尻に涙を浮かべながら、その場で俺たち二人をぎゅっと抱きしめた。

この暖かさを手放すのは惜しいと思う。が、カーノスに付いて行くにしても行かないにしても、彼女を面倒ごとに巻き込まないために離れることは俺の中で決定済みだった。


これでよかったのだ、と自分を納得させ、俺たちは馬車に乗り込んだ。




妹は名残惜しいのか、シスターが見えなくなるまで馬車の窓から身を乗り出して手を振り続けていた。

シスターも馬車が見えなくなるまでずっと見送ってくれたのを、俺はちらちらと横目で確認していた。



妹はまだカーノスに慣れてないのでかなり距離を取って座っているが、それでもカーノスは嬉しそうだった。


俺がカーノスが無害だと妹に何度も説明していたので、この程度で済んでいるのだ。


他の男性なら姿が見えるだけで逃げようとするし、同じ馬車の中に居るような距離なら、発狂しても仕方ないレベルだろう。

それが「できるだけ距離を取って、会話は俺経由」くらいで良いのだから、かなり心を開いている証拠だ。



「ユノスはシスターとの挨拶はあれでよかったのか?リノアと一緒に手を振りたそうにしていたように見えたが」



俺が背後のシスターの様子を伺っていたのを見て、カーノスが冗談めかして聞いてくる。

それに対して俺は肩を竦めながら返した



「そういうのは妹の仕事です。俺は愛想が無いので。それに、気になる事もありますから」


「気になることとは?」


「それは内緒です」



人差し指を口元に持ってきてほんのり微笑めば、カーノスは「それは残念」と言いつつも、ほんわかとした空気で笑い返した。


我が子大好き設定は知っていたが、俺にまでこの甘々対応なのはちょっと驚きだった。

俺は自分が不愛想なキャラだと自覚しているからな。


まぁ、この程度でごまかされてくれるならありがたい。

ぐいぐい行けば嫌われる、と理解しているんだろう。


女運が異常に悪いだけで、カーノス自体は優秀な方だ。

今後もこの調子でほどよい距離を保ってくれると良いんだが。



その後もちらちらと背後を眺めつつ、ゆったりと馬車の旅を楽しんだ。


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