6話 吸収
俺はその後、必要なスキルをいくつか取得してルゥの封印を解いた。
封印自体は思ったより単純だったな。
『実体化』して扉に絡まった鎖を取るだけ、本当に単純。
鎖自体の重さはかなりあったが、『実体化』する際に消費するMPを増やせば、かなりの重さのモノでも軽々持ち上げることができるからな。
封印自体の複雑さより、ここがあまりにも超僻地すぎて、封印を解き放ってくれる人が皆無だったんだろう。
俺は扉に雁字搦めになっていた鎖を全て解いた。これで出れるだろ。
「おーし、封印解いたぞ〜!」
そういうと扉が勢いよく蹴破られた。
「おー久々の外出は身にしみますなぁ! 空が綺麗〜!」
「おう、さっきも眺めてたが、ここからみる景色、中々良かったぞ」
「うむ。どうせ死ぬなら綺麗なところで死にたかったからね。満足満足」
ルゥは嬉しさともの悲しさが混じったような、不思議な顔をしている。
悟ったような顔っていうのか? 本人は満足そうだが、見ているこちらが痛々しい。
先ほどの話から、どうやらルゥはもうすぐに死んでしまうらしい。
俺はとても辛くなった。こちらの世界に来て初めて出会い、分かり合えた存在だ。
封印も解いたのに、いきなり出会っていきなり死ぬなんてあんまりだろう。
「しょうがないよ、神でも死は避けられない。それに死ぬ前にハルに出会えたし、封印が解けて外をみることができて本当によかった。本当なら1人寂しく消える予定だったから」
「そうか‥‥‥‥」
なんもいえねぇ。
ルゥは悟った顔で地面に大の字に転がりながら「さぁ綺麗な夜空を眺めながら死のう」とか言っちゃってるよ。
なんもいえねぇよ。なんとか神様の寿命を伸ばす方法とか、ないのかよ。
『マスター。1つ提案があります。まずはルゥ様の魂を吸収し、分解をせず保全します。
その上で《心象世界》を再現し、そこにルゥ様の魂を書き出しすれば、知性や記憶が劣化することなく魂は保存できるはずです』
「まじで? そんなことできるの」
『はい、ただし、常時《心象世界》を再現し続けねばなりません。《心象世界》は思考領域を1つ使用し、心の中にマスターの想像する世界を作り出すスキルです。その再現した世界にルゥ様を住ませるイメージですね。定着まで時間がかかりますが、最も安全な方法かと』
すげぇな異世界。それでいこう。
早速ルゥに提案してみる。
「マギに聞いたんだが、ルゥの魂をうまいこと操れば、死なずにすませる方法がありそうなんだよ」
「‥‥‥‥えっ!? ホントに?」
俺はマギに聞いた方法を一から説明した。するとルゥの顔がみるみる明るい顔になっていく。
そうだよな、せっかく寂しいひとりぼっちの封印から解放されたんだ。もっと長生きしたいよな。
「ありがと〜〜! それでお願い!! 魂だけになって、一生ハルについて行きます〜!|」
「おう良かった。じゃあ魂を食わせてもらうことにするか。えーど、魂を食うのってどうするんだ?」
困ったな。口がないこのもやもやした身体で、どう食事をすればいいのやら。
『マスター。魂を食べる場合は、マスターの霧状の身体で対象を覆い尽くす必要があります。対象を全て覆うと、魂を吸収できます』
「マギ、助かった! となると、こうすればいいのか」
俺は身体全身を使って、ルゥに纏わり付いた。
ルゥは少し驚いたような様子だが、なんだかウキウキしているようだな。すごくご機嫌だ。
ルゥがはしゃいでる間に、俺は足元から覆っていって、頭の上まで全部隠しきった。
「いや〜ん。私をこれからどうするつもり〜?」
「どうもこうもねぇよ。ご想像どおり今から食べるぞ」
「いや〜ん。悪いオバケさんに食べられる〜〜!」
はいはい。適当にあしらいつつ吸収の準備完了だ。
すると視覚にルゥの魂を吸収するかどうか、メッセージが現れた。
そこで吸収を選ぶと、俺が覆っていたルゥの実態が、きゅっと消えた。
それに伴って、ルゥを覆い隠すため人間サイズにまで大きくなっていた俺の身体もきゅっと小さくなる。元の小さな煙の塊サイズになってしまった。
「魂の捕食って想像してたよりずいぶんとあっさりなのな。マギ、どうだ調子は?」
『マスター。ルゥ様の魂、無事吸収しました。《心象世界》も再現良好です。ただし、女神の魂が想定より複雑だったため、ルゥ様の意識が回復するまでかなりの時間がかかりそうです』
「まぁ仕方ないな。時間はどの程度かかりそうだ?」
『おおよそ4ヶ月ほどの時間はかかるかと思われます』
「そこそこかかるな」
まぁ大丈夫だな。2万年も封印されていたやつだ。のこり3ヶ月くらい、我慢してもらおう。
俺はほっと一息ついて、深呼吸した。実際は肺がないからなにも吸ったり吐いたりしてないけどな。
今日はホント色々あったからなぁ。本当に色々ありすぎた。
異世界に転生し、亡霊になり、女神にあいスキルを取得し‥‥‥‥
うむ。俺今日は本当に頑張った。
「よし、これでこの山頂はもういいだろ。マギ、周囲を《調査》してくれ」
『了解です。マスター。周囲を《調査》します。』
とりあえず下山しないとな。