2話 女神との出会い
壁の向こうから少女の声が聞こえる。
透き通るような可愛らしい声だが、必死すぎて台無しだ。
「ちょっと!誰かいるでしょ! ここあけてよぉ〜」
おおお! バレてますよこれ。完全にバレてます。
鎖で雁字搦めにされた扉がドンドンという音に合わせて揺れた。
これだけ重そうな鎖でガチガチに縛られているのに、それが揺れるってどんだけだよ。
とっさにイメージしたのは、首から上が可愛らしい少女、首から下がボディビルダー。
オッケー、覚悟完了。
「いやここには誰もいないみたいですよ」
「あ〜そっか、それは残念…ってオイ!ちゃんといるじゃん!」
その場のノリにも即座に合わせてくるタイプ! いいねぇお兄さんこういうの好きよ
あけろ〜という声に合わせて、扉がグラグラと揺れるが、それまで。扉が開く気配は全くなかった。
まぁしゃあないわな。そんだけ重そうな鎖で雁字搦めにさせられてればそりゃあな。
「お願い〜!! もう何万年もここに封印されてるの! 封印解いて〜! 開けて〜!」
「オイオイオイ、何万年って…」
規模がすごすぎるわ。ちょっともうよくわからんし
万年単位って化石の地層の話とかでしか聞いたことねーよ
異世界転生、なめてたらダメだわ。ありとあらゆる可能性を考慮しないと。
声が可愛くても、人間とは違う、ドラゴンみたいな生物かもしれない。
あんがい、ナメクジみたいな生物かも・・・とりあえず、可愛い声してても油断はできない。
「あー、私女神なの! ちょ〜〜〜っと昔やんちゃしたせいで、封印されちゃってて」
さいですか。ずいぶん打ち解けた感じで話してくる女神だこと!
声の可愛らしさと、必死具合のせいで、神のカリスマ性も神々しさも全く感じなかったぞ。
にしても、封印されてたってのも、相当な問題児感あるよね。
個人的には、ちょっとの伸ばし具合が気になるとこですけどね
ちょっとどころじゃねーだろ、相当やんちゃしてたってことだよね。そうだよね。
「本当に悪いことはしませんから、神に誓って!!」
「神はアンタだろ!」
そういうと、扉の向こうで嗚咽が聞こえてきた。
…えっ、俺泣かせちゃった? えぐえぐ言ってるし、鼻水ずびずび言ってるし。
なんというか、罪悪感がすごい。女の子を泣かせるのって、これだけ精神的ダメージでかいとは
1万年も先輩だけど、すごく哀れに思えてきた。まぁこんな山頂に1万年も封印されたら、辛い思いもしてきただろうなと思う。
話だけでも聞いてやるか。
「封印解くにしてもなぁ。お前一体何やらかしたんだよ」
「…え〜それ聞いちゃう?」
そこは聞かないとな。1万年も封印されてたんだ。それ相応の理由があるに違いない。
俺個人としては、この自称女神に悪い印象はないが、俺が封印を解くことでこの世界で生きる人たちに迷惑をかけるわけにもいかないだろ。
「…う〜ん」
ずいぶんと言い渋るなぁ。やっぱりやましいことじゃないのか。
心は痛むが、これでは封印を解く理由にはならない。
「…う〜〜ん」
「言えないなら、封印を解く話はなしだぞ。」
「え〜〜!! でも恥ずかしいし…でも封印は解いてほしいし…」
恥ずかしいってなんだよ。そりゃ若い頃の過ちは認めたくないことだってあるだろうけどさ。
女神でもそういうことってあるんだなぁと、素朴に思った。
でもこう焦らされると、とても気になるな!
ちょっと脅してみる。
「言う気ないならもう放置するぞ」
「あ〜〜!! わかった言うよ! …絶対に誰にも言わないでよ?」
はいはい言いませんよ誰にも はいなんだい?
「昔ね…2万年ほど前にね…地上にね…魔獣がたくさんいた時代があったのよね」
昔話始まった…。いや間違いなく昔話なんだけどね! 間違ってはいないけれども
「魔獣は魔力を帯びた獣でしかなかった。普通の獣とあまり違いはなかったの、
でもある日魔獣の群れの中にね、ある女神が現れてね、ちょ~っといろいろと遊びすぎちゃったわけよ」
イキナリすぎるだろ女神登場。
「それで女神は魔獣と仲良く遊んだ結果…沢山の愛の結晶がこの世に産まれまして」
えぇ!!!!???
顔赤らめさせながら、すごく恥ずかしそうにいってますけども!
思っていた以上に壮大なカミングアウトだった。
「産まれた子供たちは女神の血が混じったせいだと思うんだけどそりゃもう強くて強くて…。その当時の世界を滅ぼしかけたんだよね~。やりすぎちゃったって感じかな。2重の意味で、たは」
たはじゃないだろ。たは。じゃ
可愛く言ってるけどね。世界滅ぼしかけてるわけだからね。
「……その産みまくった女神! 魔族の始祖、すべての魔族の母といわれる女神ルゥ、それがこの私だぁ! 安産祈願、子宝成就は任せてくれい。封印されてるけど、万年たった今でもそこそこ祈られる!!」
「もういい!休めっ!!!!!」
なんかゴメンほんと! マジ神話乙です 神本人から聞くことになるとはおもわんかったけど!!
だからもういいよ黙って!!!
「どう?封印解けそう? まずは鎖を取って欲しいんだけど」
「解こうとは思うんだが、あんまり期待すんなよ」
俺は結局この呪いを解くことにした。
この自称女神、とてもそこまで悪いヤツには思えないんだよな。
エロに興味がありすぎただけなんだよ。そういう時期は誰しもあるもんだと思う俺は許す。
世界滅びかけてるけど。
とりあえず、この鎖を動かさなければどうしようもないんだが、身体が物を透過してしまう以上どうしようもないのが現状だ。さて、どうするか…
「すまんな。俺はどうやら実体がないらしくてな、鎖に触れることができないんだ」
「ん? 実体がないってことは…霊体か精霊ってこと? なら《実体化》スキルを使えばいいじゃん」
今聞き捨てならないことを聞いたぞ。霊体か精霊って?それとスキル? 《実体化》?
霊体ってことは、俺は幽霊かなんかなのか、精霊ってのもよくわからんが…ファンタジーでいうあの羽が生えた生き物的な何かではなさそうだ。
ただ霊体ってのは、確かに納得できる要素が多すぎる。身体は常時ふわふわ浮いているし、疲れもなにも全くないワケだし。
あとはスキルって言ったな…《実体化》いかにもな名称だがそれを使えば物を動かせるってことか
「霊体かどうかはわからんが、身体の実体がなくて、モノを触ってもすり抜けるんだ。その《実体化》ってヤツを使えば、鎖を動かせるのか」
「物質のすり抜けができるなら間違いなく霊体だよ。《実体化》は霊体が物体に直接影響を与える際に発動させる基本スキルなんだけど、その言い方だとスキルの使い方もよくわからないんじゃない?」
「恥ずかしながらな。実際この世界に飛ばされてきたばかりで、全くわからんことばかりだ」
ほほ〜うとわざとらしい声が扉から聞こえてきた。なんか微妙に腹たつな。
「しょうがないな〜! じゃあ私が直々に教えてあげる。この世界の歴史とスキル。封印解いてもらわないといけないからね 」
「とりあえず扉の中に入って、霊体なら物体素通りできるし、この扉の封印は無視できるはずだから」
すごい得意げですよ自称女神。
というか扉、俺は自由に素通りできたのか
とりあえず中に入ってみよう