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受肉

「んー!んー!」


 さっきから王子妹が暴れて移動しにくい。目の前で食べるだのなんだの言ったら当たり前かもしれないが怪我をされたら面倒だな。あの技で眠らしてみるか。魔力体を直接繋いでっと王子妹の抵抗が激しくなったな。喰われると思ってるのかも。よし魂を見つけた。それで魂のこの部分を刺激してやると、


「んん!」


 びくんってなって気絶したな。悪魔相手には全く通じない方法だけど、やっぱりこっちの生物は魂を直接触られるのには弱いみたいだな。今のうちに王子のところに戻るか。





 俺は今扉の前にいる。この扉の向こうに王子たちがいるのは気配から分かる。なぜ俺が部屋の前で止まっているかというとこのまま入ったら王子妹が死んでると誤解されかねないと気付いたからだ。

 よしまず王子妹の猿轡を外して手足の拘束も解いて…これで良し。一応ノックして王子妹が眠っていることを説明しとくか。

 扉をノックすると


「誰だ!」


 声からして騎士のクラウスだな。


「わたしですよ。王子の妹君を救出してきました」


「何だと!ならさっさと入れ!」


「ええ分かっていますよ。ただ予め伝えておきたいのですが救出してから安全のため妹君には眠ってもらいました。命に別状はありませんが起きるまでしばらくかかることはご了承ください」


 それだけ言い放って俺は召喚された部屋の中に入った。


「「「「姫様!」」」」「フィーネ!」


 凄い勢いで五人が近づいてきたので俺は王子妹を床に置いて距離を取った。


「貴様!姫様に何をした!」


 やっぱりこうなるのか。仕方ないな。


「さっきも言いましたが妹君が起きていると怪我をする可能性がありましたので眠ってもらっただけですよ」


「フィーネは大丈夫なんだな!?」


 王子もかなり慌ててるな。まあ妹がそれだけ大事ってことか。


「勿論ですよ。起きるまで少しかかりますがそれだけです」


「…本当に大丈夫なんだな?」


 随分念押ししてくるな。眠らせなかった方がよかったかな?


「ええ、妹君を救出するのが取引内容なのですからそれに反する事をわたしがするわけないでしょう」


 そこまで言ってやっと納得したらしい。さて王子妹が眠っている間に話を進めておくか。さっき魂を多く吸収したおかげで王子の事情もかなり分かってきたからな。


「それでは取引についてなのですが」


「ああ分かっている。だがお前に魂を渡すのは少し待ってくれ、最後に妹に話をしておきたい」


「王子!王子は姫様と一緒にお逃げください!この悪魔は我らが何としてもこの場で抑え込んでおきます!」

「そうです!王子、早く姫様を連れて!」

「ここは我らお任せください!」

「王子は生き延びてください!」


 俺に向かって剣を構えやがった。。殺すのはまずいな。面倒だな全員無力化するか。


「だめだ!この悪魔はたった一体でフィーネを短時間で連れてきたんだぞ!僕らが抵抗すればフィーネまで殺されてしまう。でもフィーネだけなら生き延びられるんだ」


「王子様はよく分かっていらっしゃる。あなた方が四人で同時掛かって来たとしてもわたしなら一瞬で殺害するなり無力化するなりできます」


 王子と俺がそう言うと今の状況がやっと分かったみたいだな。しかし悔しそうにしてるが俺がいなかったら王子妹を助けることすらできなかった事に気づいてないのか?


「しかし王子様、妹君をあなたの兄君の手の届かない場所にお連れするという話でしたけどもどこかあてはあるのですか?」


「それは…僕らを匿ってくれる貴族はいないが他国に逃げればそう簡単には見つからないだろう」


「つまりそれは他国にあなたの妹君を着の身着のまま放り出すということですか。そんなことをしてこんな少女がまともに生きられると思いますか?」


「…それしか方法がないんだ。この国にいたらいつか兄上に見つかって殺されてしまう。それなら他国に逃げた方がまだ生きられる可能性がある」


「死ぬより悲惨な目に合うかもしれませんよ?こんな貴族然とした少女が一人でいるなんて犯罪者から見れば恰好の獲物でしょうね」


「黙れ!ならお前はこのまま妹をフィーネを死なせろとでもいうのか!」


 キレたな。キレさせるためにやったんだから当然だな。


「いえいえ、そんな事を言うつもりはありませんよ。ただ他の国で暮らしていくのは難しいならこの国で暮らしていけばいいだけということが言いたかっただけですよ」


「今、話しただろ。この国にいれば兄上に殺されてしまう。どうしようもないんだ…」


 寂寥感あふれてるな。仕方ない答えを教えてあげるか。


「そう今王子様が仰った通り貴方の兄君がいるからこの国では暮らしていけない。なら貴方の兄君を排除してあなたが王位を取れば問題は解決するのでは?」

 

「僕が王位を取る?そんなことできるわけないじゃないか。ほとんどの貴族は兄上についている。それに第二騎士団と第三騎士団も兄上の味方だ。僕の味方はここにいる四人だけさ。全く勝ち目はないよ」


 始まる前から諦めているな。だがこいつをやる気にさせないと話が進まないやる気になってもらおう。


「勝てると思いますけどねぇ?」


「何を言っているんだ。今の話を聞いて勝てると思うなんてどうかしてるよ」


「だって貴方の話はわたしが協力しなかった場合でしょう?わたしなら貴方を王にして見せますよ」


 さっぱり理解していないな。何を言われたか分かってないんじゃないだろうか。


「わたしの力があれば少なくとも挑戦してみる価値はあるんじゃないでしょうか?」


「…意味が分からない。なんで突然そんなことを言い出すんだ。お前との取引はもう決まっているだろう」


「取引の追加ですよ。なぜこんなことを言い出すのかというと貴方が王になった方が私にとって都合がいいのですよ」


「都合がいい?」


「ええ、貴方の兄君が王に成ればわたしのことを警戒しだすでしょう。そうなるとこの国やその周りの国ではわたしは動きにくくなります。それに貴方を王にした報酬もちゃんともらうつもりですしね」


「言いたいことは分かったが報酬とは何を欲しがる気だ。国民の命は差し出せないぞ」


「そんなものを貰うつもりはありません。わたしが望むものは三つです。

 一つ目、そこの悪魔用の罠に使われている魔石、

 二つ目、わたしの人間としての身分、

 三つ目、悪魔の召喚に関するすべての権限。

この三つの報酬が約束いただけるのでしたらわたしは全力を持って貴方に協力いたします」


「…一つ目と二つ目の報酬は用意できる。だが三つ目は無理だ。悪魔召喚に関する権限はかなり強い、そんなものを個人に与えれば国が傾きかねない」


「ふむ、なるほど、では三つ目の報酬は悪魔に関するすべての情報とこの塔を一回使用する権限でいいですよ。その代わり一つ目の魔石は今前払いで頂きます」


「…それならばなんとかなるか。いいだろうお前に賭けることにするこのまま何もせずにいたら妹が生きられないしな。ただ一つ頼みがある」


「なんでしょうか?」


「もし僕らが負けるのがはっきりしたらその時は僕らの魂は好きにしてくれればいいから妹だけは連れて逃げてくれ、頼む」


 くっくっく、上手くいったぜこれでこいつを王にすればこの世界で自由に生きられるようになる。それにセレナを召喚する手がかりも手に入りそうだしな。


「いいでしょう。その頼み引き受けましたよ。では取引もまとまったことですし、前払いの分の報酬を頂きたいのですが」


「ああ魔石だったな。少し待っていろ」


 少し状況を整理してみるか。

 今代の王が急に死んで今この国には王がいないらしい。そこで次の王を決めなければならなくなったのだが王は王太子を決めていなかったせいで王子兄と王子のどちらが次の王に成るかもめたらしい。王子兄は正妻の子供だが王子と王子妹は王の側室の子供で母親は没落した貴族の娘だったみたいだ。

そういう理由もあって王子は王に成る気はなったみたいだが周りの貴族が王子を祭り上げようとしたらしい。それに危機感を持った王子兄は王子と王子妹を始末してしまおうと考えたらしい。この三人しか王の子供はいないので二人が死ねば王子兄の地位は盤石になると考えたのだろう。王子側の貴族は少しは旗色が悪くなるとあっさり王子を見捨てたらしい。

そして王子と王子妹は王都から逃げ出したが途中で王子妹が捕まってしまいどうしようもなくなっていたようだ。

 だから起死回生の一手を狙って悪魔を召喚しようとしたといったところかな。

 おっと王子が魔石を外してきたみたいだな。


「持ってきたぞ。これがその魔石だ」


「素晴らしい魔石ですね。一体なんのものなんでしょうか?」


 受け取った魔石は半径二センチくらいの球で人間のものより少し大きめだったがその純度は思ったよりも高く、生きていたころの魔力量は王子よりもかなり多いだろう。


「確か、初代国王が討伐したオーガの王種のものだったはずだ」


「なるほど、それでもこれほどのものはそうありませんよ」


 王種とはその種の平均よりも遥かに多くの魔力を持っている個体のことだ。例えば王子や王子兄、王子妹は人間の王種だ。王種の下には貴種、普種、劣種と魔力量が減っていく。騎士たちは普種と貴種の間だ。

これで魔石は準備できたな。あとは王子に血を貰えばいいか。


「では王子様少し血を分けてください」


「は?」


「ですから血を分けてほしいと言ったのです」


「…突然なんだ?なぜそんなものを欲しがる?」


「これからわたしはあなた方に協力していくわけですが、その際に人前に出ることもあるでしょうその時に悪魔の見た目のままではいろいろと不都合が生じるでしょう。それを防ぐために人の姿を取りたいのですが、できるだけ性能のいい身体をベースにした方が私に合う身体を作りやすいのです。この場で一番の魔力を持っている人間は王子様ですから、王子様から血を貰いたいなと思いまして」


「言いたいことは分かった。受肉に必要ということだな。どれ位必要なんだ?」


「王子!王子がそんな事せずとも私の血を差し出します」


「出来るだけ魔力が多い身体を基にした方が悪魔の負担が減るのだろう?この悪魔にはこれから色々なことをして貰わなければならない。その時に今悪魔の負担が増えたせいで失敗でもしたら目も当てられない。ならば僕が血を渡すのが一番だろう」


「…分かりました。しかしお気を付けください。血は流しすぎると簡単に死んでしまいます。王子が死んでは元も子もありません」


「分かっている。それでどれくらい使うんだ?」


「ほんの少しですよ。小指の先くらいの量もあれば十分です」


「そんなものでいいのか。どうやって渡せばいい?」


「では腕を出してください。わたしが直接吸い出します」


「こうか?」


 王子が鎧の籠手を外して俺に腕を出してくる。


「ええ、少し痛みがあると思いますがそのまま動かないでください」


 まず魔力体を尖らせて注射器の先ぐらいにしてと。静脈はこの辺かな。一気に刺す。

 王子は顔色を少しも変えないな。この程度の痛みなら当然か。

 十分採れたな。


「はい。もう十分ですよ」


 魔力体を抜きながらそう言うと


「あまり血を取られたかどうか分からないな」


「それはそうでしょう大した量取っていませんから、ではわたしの身体を作り始めますよ」


 まずオーガの魔石から魂の残りを完全に吸い取る。次にその魔石に俺の一部を流し込んで俺が扱えるようにする。この魔石は純度が高いから俺の魔力にも耐えられる。そしてこの魔石を中心にして王子の血液から取った情報と騎士の身体の残骸をもとに俺専用の肉体を作り上げる。見た目は王子と全く同じにするのはまずいから髪の色だけ金から銀に変えておくか。よし作成開始。

 

「これが悪魔が受肉か」


 


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