第16話 修行という名の拷問。人は誰だって獣になりたい
骨骨ファンタジー。
英雄ロゼッタがいた場所からの道は、木々はなくなり岩肌が目立つようになっていた。やはり、火山という表現は間違ってないようだ。
山道も険しくなり、傾斜がきつく感じる。それから、酸素の量も減って薄く感じる。季節的なものもあると思うが、雪がないのも救いだ。
今、履いている靴は飾り気のない靴。見た目はシンプルでスニーカーに見えるが、山の中を歩くために作られた靴で歩きやすい。
雲と同じ高さにくると、急に視界が悪くなる。おそらく、雲の中を歩いているからだろう。
景色を見て休むということができず、敵の奇襲も考えると……気が休まらない。
さらに、山登りで疲れた体では、まともな反応ができない可能性もある。
とても、辛かった。辛くて、何度も立ち止まった。それでも、私は山を登り続けて、雲の中を抜けた。
抜けた後も険しい山を登る。自然は大きい。わたしみたいな人が叶う相手でないということを感じさせられる。
「洞窟?」
山道に従っていると洞窟が見えた。近寄ると、坑道にも見えた。それから、焚火があったので一息つけると思った。
私は悪魔の神殿に戻らないで横になった。体を少ない酸素でも動けるように適用するためだ。
目が覚めると、悪魔の巫女がいなくて寂しさを感じた。
「ふぅ……」
不死者の水を飲んで、洞窟の奥を見る。暗くて先が見えない。鞄の中から、ランタンを取り出した。
たしか、腐れ館を探索するときに、ロイドに作らせたものだ。
明りで照らすと、薄汚れた看板があった。私は手で払うと、バルゲル坑道と読むことができた。
この火山では貴重な鉱山資源としても活用されていたようだ。だとすれば、坑道を照らす物もあるのではと思った。
私はランタンの明りを頼りに奥へ進む。右手に銃を持って奇襲に備える。暗い闇の中で襲われる恐怖に耐えながら私は先に進む。そして、大きなレバーを見つける。
何かの罠かもしれないので、無視したかった。けれど、先に進みたくても鉄格子で先に進めない。
私はレバーを動かした。ごごごごという音と共に鉄格子が上がり、道が開ける。
白い光が坑道を照らす。魔法の道具かもしれない。
鉄格子の奥へ進むと広い空間。その周囲を囲む骨があった。
「……」
私はランタンを地面に置いて、鋸槍を手にした。それと同時に、手に剣を持った骸骨、槍を持った骸骨が現れる。
数が多い。坑道で狭い。槍の状態で戦うのはリスクがある。私は周囲を確認。敵の数は6だ。
1体が私に来た。私は攻撃を避けて、鋸斧で攻撃。HPが減って灰になる。
「……!」
敵は倒されたことを悟って、2体の骸骨が襲ってくる。私は右にいる敵を散弾銃で権勢して、左にいる敵の足を攻撃して、地面にひれ伏させる。
そのまま、足で踏みつぶして散弾銃で動きを封じる。
「ぐっ」
相手が捨て身で大きな一撃を放ってきた。私は左手の槍鋸で防ぐが手放してしまう。すぐにその場から離れて、散弾銃を打ち込む。
敵は攻撃しようとしていたのか、怯む。私は左手を獣の手にして、胸骨を掴む。獣化した手で胸骨を掴んで力任せに破壊を試みた。
すると、簡単に胸骨が壊れた。ただ、継続はできなかった。壊した後は、すぐに普通の手に戻る。理由はわからない。でも、私の中にいる獣に寄り添う獣がなだめたような感じがする。
獣化は、強いけれどスタミナを瞬間的に消費する。持続するのには大きなリスクがあるので、敵に大きな隙が出た時に使える一撃と考えるのが理想のようだ。
「あとは……」
私は周囲を再び見回して、敵の数を確認した。
数は3体。動きは人ができる範疇で、強い部類にはいる存在だと感じた。ただ、英雄ロゼッタと比べたら弱く感じる。
しかし、気を抜くことはできない。たとえ、弱くても数というのは大きな強みだ。敵は休む暇も与えず攻撃をしかけてくる。
しばらくは回避に専念して、動きが孤立した敵に攻撃を加える。例え倒せなくても、攻撃は1撃にしておく。
そうでなければ、他の敵からの攻撃を防ぐことができないからだ。それは、霧の村でもいやなくら知っている。
私は逃げながら、落とした槍鋸を拾って反撃。散弾銃は逃げている間に弾が切れたので、槍鋸を槍状態にして水平に薙ぎ払い複数を巻き込む。
隙のある一撃だが、3体同時に巻き込めた。私も着実に人でない何かなり始めていた。でも、自分は人であるのだから、槍鋸をノコギリ状態に変形させられるはずである。
「私は人」
人である証明をして、起き上がろうとしている骸骨に止めを刺す。木を切り裂くことができる道具だ。ノコギリの刃は簡単に骨を破壊した。
残りの2体。まだ起き上がっていない。私はすぐ近くの骨に留めを刺した。
「のこり1体」
私は槍鋸を握りしめ、前へステップ。その際、腰をかがめて敵の攻撃を避ける。この後は、タックルをかけて、鋸槍で何度も何度も攻撃して灰にする。
「はぁはぁ」
倒せた。灰になることなく私は、複数の敵を倒すことができた。私はランタンを拾い上げて、周囲を警戒した。
ここは安全じゃない。焚火が無い場所では襲われる可能性があるからだ。
「……」
私は逃げるようにその場から立ち去った。
薄暗い坑道は狭く、寂しさを感じる。冷たい。
時より、襲ってくる骸骨は凶悪だが、そこまでは強くなかった。
今回は灰になることなく、焚火にたどり着く。火を見ると落ち着く。この場所では、敵に襲われない。
焚火でレベルアップを行う。
―――
名前:鸛 小夜
職業:狩人(不死者)
レベル40
HP:659
スタミナ110
体力:14
持久:11+9
筋力:11+9
技術:10+1
心:7+11
不思議:7
能力:不死者の錬成、道具理解、無限収納、他者観覧不可
―――
ステータスの変化を確認して、不死者の水を飲む。これを飲むと、口の中がスッキリする。腐れ谷で自分の歯の状態を確認したが、綺麗な状態だった。
不死者の水は虫歯を予防する効果でもあるのだろうか。それでも、エリザベートから貰った歯ブラシを使って歯を磨く。
この世界にも歯を磨く概念があってよかったと思う。それから、チョコレートが食べたい。お菓子は、エリザベートと一緒にクッキーを焼いて食べたりしたけど、もう一緒に食べることができない。
「……」
そういえば、私が悪魔の力を持つ王を倒したらどうなるんだろう。悪魔の神殿から外に出られるか確かめようとしたことがあるけど、出口と思われるものは無かった。
そもそも、悪魔の神殿の存在意義は何なのだろう。やはり、私は多くのことを知らずに戦っているような気がした。
「……先へ進もう」
私は休むのを止めて霧に飛び込んだ。霧を抜けた先には、細長い案山子のような人形が飾られていた。
そのうちの1体が動き出し、私のゴーグルに、練習悪魔人形という文字が表示される。
練習悪魔人形の手にはハルバートと盾を持っていた。がしゃりがしゃりという音を立てて近づいてくる。
私は武器を構えて観察をする。未知の敵には観察が必要だからだ。
「はっ」
敵の攻撃をバックステップで避ける。くるくると回転しながらハルバートを振り回してきた。
けれど、しゃがめば対して怖くない。それから、身長がでかくて私の身長二つ分ぐらいありそうな感じがする。
動きは緩慢、英雄ロゼッタと比べたら遅くて弱く感じる。一気に勝負を仕掛ける私は槍鋸をノコギリ状態にして接敵、攻撃。敵の攻撃に対してはステップで避ける。そして、相手のHP削り切り灰にすることができた。
「……」
おかしい。悪魔の使者を倒したら魂が手に入るはずなのに、手に入らない。それどころから、壁に埋もれていた練習悪魔人形が動き出す。
何かあるのか……。そんな不安を思いながら、練習悪魔人形と戦う。味気ない。
私がそう思っていると……、練習悪魔人形のHPバーが3つに増える。
「複数か」
私は敵から距離を取って周囲を確認。背後に2体のレ州悪魔人形の姿を見ることができた。動きは英雄ロゼッタほどではないが、相手は悪魔の使者だ。攻撃速度が遅いだけで、すごい音がしているので当たったらHPがごっそり減るきがする。しかも、緩急をつけた攻撃でなく、可能な限り常に攻撃を続ける敵だった。
3体の練習悪魔人形は、くるくる回り名がらハルバートを振り回して襲ってきた。
「がはっ」
攻撃する隙がない。それどころか、ダメージを受けてしまった。数が増えただけで急に不利になってしまった。
不死者の水を飲む暇すらない。数を減らすしかない。
「ぐふっ」
複数の回転攻撃。それが連続ヒットして体制を崩した。結果的に私のHPは0になってしまう。
私は灰になって、敗北した。
目が覚めると、悪魔の巫女が膝枕をしていた。
「……」
頭の後ろに温もりが感じる。温かい。
「おはようございます」
私は人であることを証明するために挨拶をした。
「おはようございます」
よかった、私は人だ。いつか、自分が悪魔の下僕になって……私が獣になって…………タベテシマウカモシレナイ。
「……」
私は体を動かすことができなくなった。悪魔の巫女が両手で私の頬に触れる。悪魔の巫女の顔が近づいてくる。
額と額が触れた。……アタタカイ。ネムイ。
私は目を閉じて、眠ってしまう。寝ている間、とても暖かくて心地よさを感じた。
目が覚めると綺麗な星空と海が見えた。周囲を見回すとブラッドワイン色をした燃える炎が遠くで見えた。
近寄ると、それが狼のような形の獣だった。
獣は私を見て警戒していた。
「……」
私が観察すると、獣の後ろには白い獣がいた。そうか……獣も寂しいのだろう。私は死んだ目で周囲を見回した。
青い星空と海しか見えない。火が欲しい。私は悪魔の巫女にもらった火を手に灯した。温かい。
「ウバウノカ」
獣が問いかけてきた。
「奪わないよ」
「ウソ」
「奪ったら、私が食べられてしまうよ」
「タベル」
「だから、奪わない」
「オマエハウバイニクル」
「どうして?」
「オマエハ、ケモノダカラ」
そう言った瞬間に、私は目を見開いた。
「……」
返事することができなくて、星空がみることができない。代わりに悪魔の巫女の顔が見えた。
「私は……人だよ」
「……」
悪魔の巫女は答えてくれない。
「……」
答えてくれなかった。私は起き上がって、
「行ってくるよ」
と悪魔の巫女に死んだ目で言う。
「たとえ、あなたが変わっても私は信じています。だから、ここに帰ってきてください。
「……うん」
私はケモノで……ヒトダカラ。カナラズ、戻る。
私は武器を確認して、再び練習悪魔人形へと挑みにいった。
練習悪魔人形のところに戻ると、1体だけ現れる。どうやら、連戦を強いられるようだ。1体目はいつも通り簡単に倒す。
次に3体目が来る。
「……」
策は、何もない。とにかく、倒せるまで戦い続けるしかない。 不死者だから、ケモノだから……。人だから、何度だって戦える。
「うぐっ」
足がちぎれるような攻撃を受けても、顔にハルバートを突き刺されても、私はHPがある限り生きていた。
「はぁはぁ」
不死者の水を飲んでHPを回復して、何度も灰になりそうになりながら戦う。槍鋸を変形させて、人の確認をして、散弾銃の弾を補充して人の確認をして……。
1体目の練習悪魔人形を倒す。
そのあとは、何度もやられた。でも、やめることができなかった。ここで、立ち止まってしまうことができない。
何度挑戦したかわからない。ただ、1体減ると簡単になった。そのあとは、簡単だ。
「……倒した。タオセタ、エモノ」
練習台の魂と400000という数の魂を手に入れた。
―――
練習台の悪魔人形の魂
修行の為に作られた人形は、魂を持って牙をむく。それは練習台でなく、1人の武人として戦う悪魔の人形。
そして、直す限り戦い続ける意思は獣である。
―――
あの悪魔の使者がなんで、この場所にいるかわからない。修行の為に置かれたものなのだろうか。
とりあえず、私は焚火に戻り悪魔の神殿に戻ことにした。
「おかえりなさい」
「ただいま」
悪魔の巫女が出迎えてくれた。彼女の落ち着いた顔を見ると安心できる。
私はロイドの元へと行き、40000の魂で英雄ロゼッタの剣を背負うためのホルスターを作ってもらった。
使い方は安全装置を外して、トリガーを外すと抜刀できる状態にする武器である。そこにばねの力を利用して素早く振り下ろせるようにする。
今まで大型の敵が出てきて、大きな一撃を当たえる必要があった。似たような武器もあるのだが、英雄ロゼッタに貰った剣だ。
彼女がどんな理由で私に渡したかわからないが、いつでも使えるようにしようと思ったのだ。
私が絵を書くと、ロイドはおもしろそうに、図面を見てすぐに作ってくれる。それを受け取って、思い描くような動作をするか確認をする。
「問題ない、ありがとう」
私は魂を支払い、鞄の中に深淵の剣を仕舞う。
「悪魔の下僕になるざねぇぞ」
「ならないよ。あんなになりたくない」
「ならいい。お前はあまり知らないと思うが、お前が何度もやられているのは知っているんだ。しかも、やられても何度も挑戦する奴は今まで見たことがない。辛くはないのか」
「辛いよ」
倒されないのなら、倒されたくない。でも、弱いのだ。
「なら、少しは休んだらどうだ」
「もう休んだよ。それに私は、ただの人だ。ただの人が勝つには何度も挑戦するしかない」
「……お前、本気でそんなことを思っているのか」
「本当のことだよ。私は弱いから何度も戦って勝てる方法を探るしかない」
「そうか……、ならお前が納得するだけ戦ってこい。魂があれば何でも作ってやる」
「ありがとう。私は、行くよ」
「おう、行ってこい」
私はロイドに背を向けて、石碑のところに戻る。石碑はいくつかあるが、3つの宝石しか輝いてない。
ほかのところには行けないようだ。私は、修行者の火山に戻ると練習悪魔人形と戦った場所から先へと進むことにした。
敵がでるかなと思ったが、何もなかった。あったのは、エレベーターだ。私がそれに乗ってレバーを引くと、鎖がカチャカチャとする音を立てて上へとあがった。
チートないと、やることが地味です。それでも、主人公のメンタルは弱くて強い気がします。
あと、主人公は女の子だからな。作者自身も忘れないようにここに書いておくでありますよ。