第15話 英雄の救い方
人の選べる1つの可能性のお話。
目が覚めると、悪魔の巫女が膝枕をしてくれていた。
「おはようございます」
そう言いながら、私の頭を撫でている。
「……ありがとう」
私は起き上がるとお礼を言って、ロイドのところへ行く。
「よぉ、調子はどうだ?」
「負けが続いている」
「そうか、その割には普段通りだな。悪魔の下僕とは程遠い目をしている」
「……私は人だから」
「そうか、それで、何の用だ?」
「英雄に勝つために、火炎壺を作ってほしい」
私は1枚の紙に作ってほしいものを描いた。
「……まってな、すぐに作ってやる」
ロイドはすぐに私の願いの品を作ってくれた。
「ありがとう。魂はいらないの?」
「後払いだ。英雄とやらを倒したときに払ってくれ」
「わかった。ありがとう」
私はお礼を言って、 私はロイドに作ってもらった防具を付けて英雄ロゼッタのところへ行った。私は達人ではないが、練習である程度できると信じている。だから、できるはずだ……。
私は再び英雄ロゼッタと戦う。いつもとかわない戦い。HPを3分の1まで削る。そこから、英雄ロゼッタは暗闇を生み出す。
「今日は勝つよ……」
私は敵の攻撃を避けながら、槍鋸で応戦する。ダメージを受けるが、相手に攻撃を当てることで灰になるのを防ぐ。
強力な振り下ろしから薙ぎ払い。それを右にステップして避ける。
次に敵は左右に振り払う。それも、すべて避け、攻撃が止まったところで、槍鋸を投げる。相手は、体を捻って避ける。
私はその隙に、ロイドの作ってくれた火炎壺に火を付けて投げる。回避行動中ということもぁつて、英雄ロゼッタに当たる。
ぱりんという音と共に、火炎壺は割れ、中に入っていた油が飛び散る。それと同時に、火が広がって英雄ロゼッタは火に包まれる。
一瞬だけ動きが鈍るが、火が収まると同時に、右手に持っている剣で攻撃してくる。
それに対して、右手に持った散弾銃の銃口を、英雄ロゼッタの顔に向けていた。
ばん
引き金を引けば大きな銃声。兜が吹き飛ぶ。至近距離の攻撃に敵のHPもごっそり減った。相手は膝をついた。武器を落とした。
私は英雄ロゼッタの持つ剣を蹴って、敵に散弾銃の銃口を向けた。
引き金を引けば倒せるHPだった。
けど、私は止めを刺せなかった。たぶんだけど、目の前の美しさに心を奪われたのもあるかもしれない。
青い目をして、綺麗な金色の髪の女の人が目の前にいた。私は悪魔の使者がこんなに美しい人だとは思っていなかった。
それに、顔に怯えが感じられた。英雄の面影はない。そんな相手に私は止めをさすほどの獣にはなっていない。
そして、ロゼッタという名前……。ローズから派生した名前で、主に女性の名前に使われることを忘れていた。
「……」
私は武器をおろした。一応、いつでも応戦できるようにするために、武器は収めていない。、けど、ここを先に進めために、この人の命を奪わないといけないと思うと辛かった。
英雄ロゼッタは、私が攻撃しないのを理解すると剣を指さした。私は英雄ロゼッタが使っていた剣を拾い上げた。
重い、肩で背負わないと振るうことができない。英雄ロゼッタも肩に背負って使っていた剣であり、両刃になってないことから……肩に背負って使うことを想定して作られたのだろう。
これ……どうしよう。渡したら襲ってきそうな気もする。
「……あげる。そして、ありがとう」
英雄ロゼッタはそう言って、灰になった。
「……待って」
私がそう言った時には、英雄ロゼッタはどこにもいなかった。代わりに私の手元には愛を得た英雄の魂と手に入れた。さらに、それとは別に大量の魂を入手したのか、ゴーグルの魂の部分に14000という数字が表示されていた。
―――
愛を得た英雄の魂
戦いの中でしか生きることができなかった英雄。誰かに感謝されることなく、誰かの為に戦い続けた英雄。力を得ても、英雄が望む者は手に入らなった。けれど、最後に慈悲という優しき愛を得た英雄は剣を手放し安らぎを得た魂。
―――
私はその魂の意味を知って、空を見上げた。もう暗闇はない。あるのは灰色の空だった。
空を見るのを止めると、英雄ロゼッタの剣を見た。
―――
深淵の剣
深淵を歩く英雄が持つ剣。英雄を生み出した剣。しかし、慈悲を知った深淵の剣に英雄を生み出す力は無い。ただ、壊れない深淵を歩くための丈夫な剣へとなり下がった剣。
―――
英雄を生み出すというが、それと引き換えにこの剣は多くの命を奪った剣であるということか。あの英雄ロゼッタは、多くの命を犠牲にして、大切な人を守ったのかもしれない。
私は、彼女に何があったかわからない。ただ、最後に幸せを手にしたのなら、これでいいのかもしれないと思った。
私は周囲を見回した。すると、神殿に戻る焚火があった。神殿に戻ると、ロイドのところへ行き、魂を支払った。わりと安かった。
私はあまった魂で、悪魔の巫女のところへ行く。
「力が欲しい」
「私に触れて……望む力をお選びください」
悪魔の巫女は私の手を掴んだ。それと同時に、私の頭には獣の姿が映る。
獣の爪は鋭く、牙も鋭い。どちらも、獲物を切り裂く強大な力だった。
「……爪という牙が欲しい」
「わかりました」
悪魔の巫女は、そういうと私の持っている魂を吸い出した。手持ちの魂は一気になくなり、私は獣の爪を手に入れた。
私は自分の左手を見ると、赤黒く変わり果てていた。
「あなたが望む限り、獣になることはありません」
私の変わった左手を悪魔の巫女の白い手がやさしく触れる。
「あなたに渡した獣は、あなたの中の獣を愛します。あなたがあきらめない限り裏切ることはありません。ただ、忠実に従い、あなたの望みに従います。だから、お願いです。悪魔の下僕にも使者にもならないでください」
私はじっと、自分の左手を見た。戻りたいと願ったら、私の手は人の手に戻った。悪魔の巫女がくれた獣は、力強いけど……どこかやさしさを感じるものだった。
「ありがとう」
私はそう言って、修行者の火山へと戻るのであった。
ライバルと書いて、友と書くようなお話が終わりました。