外伝3 無償の愛。母である喜びを知ることができた者の物語
外伝です。まじめなお話です。
エリザベードの話
あの子は、この家から着て夫に字を教わった。本を読むのが大好きみたい。でも、文字をなかなか覚えるのが得意でなくで、フリッツに何度も何度も聞く。
今まで、男の子しか来なかったからなのかもしれない。この子は、ほかの人と違う。
それに、本当の母でもないのに、自分のことを母と呼んでくれた。
「コウノトリ、ありがとう」
庭の手入れをあの子は手伝ってくれる。私は今まで感じたことない幸せを感じていた。
「ありがとう……幾度となく、繰り返してフリッツといられる時間を得られた……でも、1つだけ叶わなかったことがあった。けど、それを叶えてくれてありがとう」
私は、あの子にお礼を言った。
あの子は、笑顔を見せない。ただ、少しこまったような顔をしていた。
「……いや、私は」
口数は少ないけど、何となく何を言おうとしているかもわかる。戸惑いだ。今まで、自分が満足した結果を手にしたことないのだろう。
それから、言葉の発音もだいぶ上手になっていた。最初のころは、少しだけ聞き取りにくいが、文字を教わる時にフリッツが発音を教えたことで、上手になっていた。
「今日は、これでいいわ。お茶にしましょう」
私はあの子の手を引いて、お庭でお茶をした。たわいのない話をした。もし、娘がうまれたら、こんな日常を味わえたのかもしれない。
幸せだ。この時間がいつまでも続けばいいと思った。
「……ねぇ、ここは何処なの」
鸛はお茶を置いて私に問いかけてきた。
「ここは家よ」
「わかってる。なんで、私を灰にしない……いや、ちがう……」
ここに来るまで、多くの人は壮絶な経験をする。ほとんどは力に飲まれてしまう。だから、私もフリッツも覚悟していた。
けれど、この子は武器を振り上げなかった。頭を抱えて、うずくまっていた。
「……私はあなたの味方よ。だから、それまでね」
「……うん」
震えが止まった。ここに来ての2日目の夜と比べたら、すぐに落ち着くようになっていた。
お茶を終えると、この子はフリッツの本を読む。最初はすごく遅かったが、2カ月たった今では、早く読めるようになっていた。
すごい勢いで読んでいく。あと、ニホンという場所では、教育水準が高いのだろう。私が知らないことをたくさん知っていた。
この子から聞く話は、どれもが新鮮だ。フリッツも本では聞いたことのない話に興味津々で、楽しそうに聞いていた。
「読み終わったのかい」
「うん」
あの子は、フリッツに頷いた。
「深い洞窟の中で、いい化け物とわるい化け物が出てきて、化け物国に平和にする話はおもしろかったよ」
この子はそういいながら、新たな本を手にする。
「コウノトリ、少し話がある」
「何……」
「僕はこれ以外に、多くの本を持っている。君の鞄は、理由はわからないがいろんな物を入れられる。だから、この家にある本を持っていくといい。地下には多くの本が保管されている。きっと、君の旅に役立つはずだ……」
「いいの?」
あの子は、申し訳なさそうな顔していた。でも、フリッツが本を差し出すということは、それだけの覚悟を持ったということだ。
「この世界の生物、植物、技術、魔法などの知識が書かれた本がたくさんある」
「……ファンタジーな本はないの?」
「ふぁ、ふぁんたじー」
ニホンの言葉なのだろうか、フリッツが少しだけ困っていた。でも、困った顔もかっこいい。
「こういう本がいい」
あの子は、自分がさっきまで読んでいた本を持ってフリッツに見せた。
「あなた、コウノトリは女の子よ。おとぎ話のほうが喜ぶわ」
「そうだな。そういう本も地下にある。たくさんある。暇なときでいいから本を持っていくといい……」
「わかった。地下に行きたい」
フリッツはタンスに隠していた鍵を取り出して、あの子に渡した。
「ありがとう。さっそく行ってくる」
あの子は、そう言うと地下の書庫へと行った。
「……」
「あなた、よかったの?」
「かまわないさ。僕たちに子どもがいるという幸せをくれた人だからね」
私はフリッツの腕を抱きしめた。
「大丈夫だよ。エリザベード。僕は最後まで、君と一緒だ」
「はい、フリッツ様」
私はメイド時代に呼んでいた言葉で、夫の名前を呼んでしまった。本来では許さぬ恋。けれど、それがある日をさかいに叶ってしまった。
ただ、それがいいのかわからない。多くの人が狂ってしまった。狂ってしまったが、私とフリッツは狂わずに、この家で過ごすことができた。
ただ、1人の戦士がくるまでは幸せだった。すべてを蹂躙したあと、私たちの魂は離れた。けど、気が付けば生き返っていた。
理由はわからない。フリッツも原因を解明しよう調べたが、わからなかった。ただ、あの迷宮のような館で化け物を倒した人が来て、私たちの幸せを奪うことがわかった。
だけど、最初のころは辛かったが、数えきれない年月を経て疲れていた。だから、私とフリッツは出迎えるようにした。何をされても……。
「フリッツ、すべてを話しましょう」
「そうだね。本をすべて鞄に入れ終わったら打ち明けよう。それまでなら、許してくれるかな」
「大丈夫、あの子は許してくれるわ。それに、あの子の名前の由来は知っている?」
「ん?」
「幸せを運ぶ鳥がもとらしいわ」
「……そうか、本当に僕たちに幸せを運んでくれたんだね」
「ええ、だから、笑顔で送り出したいわ」
もうすぐ終わりを迎えり幸せを大切に。長く行き過ぎた、私とフリッツは次の時代に幸せを譲るべきだと思っていた。
幸せを運ぶあの子に。満足する幸せを得たことのないあの子に、私は心から譲りたいと思った。
次回もお楽しみに。