第9話 地図が無ければ模型を作る暴挙とでる
人である証明とはなんでしょう
「大丈夫ですか」
悪魔の巫女は私の顔を覗き込むように言った。
「……うん」
私は大丈夫なことを伝えた。死んでない。それに、死ぬたびに服が綺麗になるから助かっている。ただ、お風呂に入りたい。戻るたびに私にとって最善の状態に戻るが、お風呂に入りたい。精神的な休養という意味で……。
「……また、行くのですか」
「………行く」
私は起き上がると腐れ館へと再び向かった。迷宮みたいな館で私は何度も灰にされた。
そして、腐れ館を探索してから1週間、何の収穫を得ることができなかった。
松脂もとっくに尽き、やつの足止めは時間がかかるので散弾銃で足止めしながら逃げるだけとなった。
さらに、敵はこれ以外にいた。人形がハサミを持って襲ってきたり、鎧が動きだして襲ってきたり、石造が動いて襲ってきたりと散々な目にあっていた。
どれも、倒すと灰になって魂を得ることができる。しかし、無事に神殿に戻ることができないので、ロストし続けている。
1番の原因は、ヒルに覆われた悪魔の下僕と動く鎧、ハサミ持った人形とかにか奇襲された時だ。
次に、館に仕掛けられたトラップに引っかかって灰なることもある。それから、ドア開けて抜けた先が高くて転落でも灰になる。
それでも、確実に私はこの腐れ館の構造を理解し始めていた。私が不死者の水を飲んでのんびりしていると、ロイドが布で包んだ短銃を持ってやって来た。
「お前、なにやってんだ」
ロイドは、焚火の隣に置かれた、作りかけの腐れ館の模型を見て言った。
「……模型作っている」
「見ればわかるが、ここで模型作っているのお前だけだわ」
「そうか。見てほしい。この模型、ドアが開くようになっている。しかも、罠の部分もしっかり再現してある」
私はロイドにこの模型のすごさを語った。ここ1週間のほとんどは、不死者の錬成で、模型作りに費やしていた。
ちゃんと、いろんな部分を精密に再現している。なにせ、現場を見て作っているからな。
「無駄に凝りすぎだな」
気になったら突き詰めたくなるのです。
「でも、お前……本来の目的を忘れていないか」
「忘れていないよ……ただ、こうすることで、私が人であることを証明できると思っている」
私は、不死者の錬成で模型のパーツを作りながら答えた。私は人間、私は人間。
この坑道が、私にとっての人である証明の1つだと思っている。
「……すまねぇ。俺は不死者になってずっと、好きなことできると思って毎日を楽しんでいるが、お前はおれじゃないからな」
「気にしてない」
不死者であることが不幸と考えるなら、不幸なのかもしれない。けれど、私の知らない何かを見てから死ぬのを決めても遅くないと思っていた。ただ、不死者だから死ねるか疑問である。
私は1つ1つ家具を設置していく。そして、一区切りつけると、ロイドに
「短銃、できたの?」
と問いかける。
ロイドは、短銃を包んでいた布を取って、私に差し出した。私は受け取って、短銃を見る。
「この綺麗な装飾に意味はあるの?」
「装飾は半分趣味もあるが、装飾に合わせて結晶弾の性質を変えているんだ」
「それは私にもできるもの?」
「ああ、大切なのは魂で作り上げること。幻想を超える想像力だ。わしには魔力がないが、不死錬成で、想像力で不思議な現象を起こすができる」
私は銃を手にして、装飾を眺めた。とてもきれいだ。戦略的アドバンテージがなければ、いらないと思ったのだが、装飾によって不思議な現象を起こしているなら別だった。
やはり、ファンタジーはすごいと思った。
「試し打ちしたい」
「おう、弾はこれを使え」
ロイドは血晶弾が入った袋を私に渡す。私はそれを受け取って、試し打ちできる場所で短銃を使ってみる。
「どうだ、暴発もしないようにしてある。それに、貫通力も上がっているはずだ」
「……すごいね」
「あたぼうよ。鍛冶礫400年以上の歴史だからな」
「ありがとう。探索の助けになるよ。それと、腐れ館については何かしらない?」
「すまねぇな。俺は、偶然、馬車に弾かれたここに来てな、何も知らねぇだよ」
「わかった。自力で制覇するよ。あと、もう1丁つくれる?」
「魂を払ってくれるなら作れるぞ」
私は必要な魂の量を聞いてロイドに支払う。ロイドは数分で作ってくれた。さらに、ヒップホルスターまで作ってくれた。
「サービスだ。お前さん、両手が器用みたいだからな。左右にあったほうがいいと思ったんだ」
「ありがとう」
私はお礼を言うと、腐れ館へと向かった。もちろん、今日も何の収穫なく灰となるのであった。
異世界怖い。