9◆帰らざるをえぬ
帰国後、レイベーニアに害為す愚か者達の排除は頗る順調で年末の王宮行事で完璧に駆逐し終えた。
しかし、やり方がえげつなかったので兄上と母上には叱られるし事情をよく知る上の弟には散々バカにされた。
父上には『婚約者を蔑ろにして他の女を侍らせるとはどういう事だ?』というキツい言葉を生温い視線とニヤニヤ顔で言われてしまった。上の弟が背後でニヤニヤしているので、粗方知っておられるのだろう。
新年会にレイベーニアは欠席と報せが届いた。
隣国の姫達の見送りも欠席だったし、これはマズイ。王宮行事以外は悉く避けられているのに加え、公的な場でも避けられては関係の修復もへったくれもない。
見舞いにすっ飛んで行ったものの、部屋の扉の前でいつになく気弱になる。真面目なはずの婚約者が、王宮行事ですら欠席するほど俺の顔を見たくないのだ。…泣ける。
が、意を決して扉を開けば婚約者の姿はなく、彼女のばぁやが奥の扉の前に控えているのみ。その扉の先は寝室。
彼女は本当に寝込んでいたのだ。心配するやら、ホッとするやら。
咳き込みながら、熱のせいで潤んだ目で見上げるものだからあの初対面を思い出した。
あの時よりも成長したレイベーニアは綻びかけた蕾の如く色気を漂わせている。物凄く、そそる。
気怠そうに半身を起こし、風邪が移るから帰れと言う。
愁眉が俺の嗜虐嗜好を煽り、寝台の上という場所だ。年頃の男の前で何を言うのだこの女。移るような事をシても良いのか?結局寝込む結果になるほどシてやろうか?
………下半身に理性を必要とした為、脳味噌と口の直結が抑えられずにまた欲望のままに意地悪な事を言ってしまう。
レイベーニアからまさかの反撃を受けた。
その衝撃に俺は暫し呆けてしまった。 令嬢らしからぬ口調は俺の耳にどこまでも心地よく、本人にすれば睨んでいるのだろう垂れ目の放つ強い眼差しは魅力的でしかない。
俺の新たなる世界の扉が開いた瞬間だった。
垂れ目でイジメたくなる可愛い婚約者は、感情のままに怒った顔が一番美しく蠱惑的だ。もはや官能の世界だ。
トドメとばかりに可愛い事を言った婚約者。
不本意な婚約?そんなワケがないのにな。レイベーニアは俺の恋情を知らないから仕方ないのだが。今ここで告げてしまおうか?しかし、それよりも、父上もチラリと口にした事だが、レイベーニアの口から聞くと背中がゾクゾクする。
他の女を侍らせる?嫉妬か。可愛い過ぎるだろう、お前。
早く体調を戻せ、レイベーニア。俺の歪んだ愛を全力で押し付けてドロドロに溶かしてやろうではないか。覚悟しておくがいい、俺の最愛のレイベーニア。
レイベーニア……そうだな、レーベが良いか。
隣国の古語で『美しい人』らしいからお前に相応しい。
帰れと言われて従うのも癪だが、今は従わざるを得ぬ。レーベによって新たな世界の扉が開かれて、主に俺の下半身がそちらを目指して暴走しようとしているからな。
帰り際、ずっと控えていた彼女のばぁやが土気色の顔で平伏して婚約者の暴言?の咎は己が受けるたらなんたら言っていたが、聞き流した。
そんな事よりも、レーベが回復したら速やかに報せろと念押し。それ以外にも幾つかレーベに関する話をして王宮に帰る。