8◆早く帰るぞ
兄上が自らその資質を示す事で、立太子は時間の問題となって一安心。まだバカな事を言う狸爺どもはいるから油断はできないが。
既に父上の仕事を引き継ぎ始めた兄上から、内密の指示を受けた。隣国への留学を名目に、あちらの王族と密約を結ぶべく隣国へ渡れと。
これまでも兄上の右腕となるべく研鑽してきた事が認められたのだと誇りに思うのだが、それとは別に頭痛の種がある。
レイベーニアだ。
まだ操り人形の方がマシと言えたほど、俺達の関係は残念なものに成り下がっているのだから頭が痛い。
まだガキな俺が独占欲と嗜虐嗜好と口の悪さでレイベーニアを構い続けたせいで、すっかり嫌われてしまった。
嫌われた自覚はあるが、見るとついイジメたくなる。
レイベーニア以外にはそうならないし、こんなにも自制心が働かないのはレイベーニアに関してのみだ。普段は口が悪いだけでそれなりに見目の良い有能な王子なのだ、俺は。
そんなこんなで、かなり後ろ髪引かれるが行かないという選択肢はない。悪い男がつかないように、上の弟に見張りを頼んである。
『寂しいよりも誇りに思う』
本音では無いだろうが、その言葉を聞いて励みに思う。
早く終わらせてレイベーニアのもとに帰る。その一心で俺は異国の地で奮闘した。合間には手紙を書いたが、レイベーニアからは素っ気ない返事しかこない。
自業自得にしても、結構…かなり、堪えた。
女々しいと情けなるが、俺はかなりレイベーニアに深く惚れてしまっている。遠く離れて、より自覚した。
俺の性格は、非常に悪い。
レイベーニアへの恋愛的な執着心と独占欲の強さに加えて、嗜虐嗜好がある。
婚約者として宜しくない性質だろう。直す気もないが。
なので、もう開き直ることにした。
どうせレイベーニアがどれほど奮闘しても俺との婚約は解消できないという、非常に有り難い後ろ盾もあるしな。
兄上の密命を無事に果たしたので帰国の目処がついた。
協力者たる姫二人を連れての帰国、出迎えに国境まで来ていた上の弟から嫌な話を聞いた。
前から小競り合いが有るのは承知していたが、他の令嬢達のレイベーニアへの嫌がらせが危険なレベルまできているという。王家の守護一族のエル・グロンバルーデ家の娘だからこそ身の危険は無いが、心は傷つくはずだ。
さて、どうしてくれようか。