7◆水色はもう着るな
婚約者が10歳になるまでは当たり障りのない薄っぺらな手紙の遣り取りのみ。その存在をほぼ忘れており、誕生日を祝う宴に呼ばれた時は面倒臭いとしか思わなかった。
宴は盛大で、その中に婚約者はいた。
初めて間近に見た婚約者は………可愛い女の子、だった。
この国特有の褐色の肌に、艶やかな黒髪。垂れ目がちなオレンジ色の瞳が俺を見つけて見開かれた時には、柄にもなく胸が高鳴った。
招待客の中で尤も身分が高い俺は、他の客が婚約者に挨拶やら祝辞を述べるのを眺めて待つ。俺の傍らでは婚約者の兄がいちいち客の説明をしているが、コメントが独特なので良い暇つぶしになる。
婚約者へ祝辞を述べる少年を見て、衝撃のあまりコメントが耳を素通り。
俺の婚約者の着る水色と白のレースのドレスと対をなすような白を基調に水色をアクセントに配した正装。
それだけでも不快なのに、こともあろうに俺の見ている前で婚約者が満面の笑みを野郎に向けたのだ!
非常に、腹立たしい。
そんな怒り心頭の俺に漸く出番が回ってきた。眼前の婚約者は夢見る乙女のような面持ちで俺の型通りの祝辞に丁寧な礼を返した。
所作の全てが流麗で、頭の上げ下げでサラサラと揺れる髪まで美しい。瑞々しい褐色の肌に潤んだオレンジの瞳で俺を見上げる婚約者。その愛くるしい顔は、うっとりとしていてそれはそれでヨイのだが。
違う、俺にもあの笑顔を見せろ。
そう思うのに、婚約者はひたすら俺を見てうっとりしているではないか。確かに、俺の外見は赤子の頃から周りの賞賛の的ではあるが。見惚れる者も多いのは知っている。
イライラしたので婚約者の耳に唇を寄せて囁いた。
世辞を真に受けるなと。それから、俺の婚約者に相応しい格好をしろとも言った。
婚約者が硬直したので、素直な性格なのだと理解した。
今後は俺以外の男に笑みを向けないように教育せねばと心に刻み、名残惜しいが傍を離れた。先ほどの少年を捕まえてレイベーニアが誰の婚約者なのかをよくよく理解できるように繰り返し繰り返しお話してやったら、色んな体液を垂れ流して反省の言葉を口にしていた。
素直そうな婚約者だが、こまめに観察して教育してやらねばと勇んで訪問したら菫色のワンピースで出迎えた。俺の瞳の色を普段から身に纏うとは非常に素晴らしい。
残念ながらその日は直後に予定が入っており、挨拶しかできなかった。
その後、時々顔が見たくなると婚約者のもとを訪れるようにした。なぜか婚約者は俺を見ると怯えているが、あの小僧は婚約者とは一切接触していないはずなのだが。
疑問には思ったが、怯えた顔が異常に可愛いのでそのままにしておいた。