6◆操り人形はいらん
帝王たる父上と、その正妻の母上。その間に生まれたのが兄と俺と、弟。この国の王族には面白い特徴があり、王位継承権の有る者の瞳は紫が出る。
兄と俺と弟も紫の瞳だが、3人とも色味は異なる。
紫の括りに入る事には違いないので、赤の強い紫の瞳の兄が長子として次期王と目される。
俺の瞳は『王家の至宝』の『アメジストこそ王の中の王』で『次期王に相応しい』と、一部の五月蠅い奴らは騒いだようだが 、青の強い紫の瞳の父上が『私も弟に譲位すべきだと言いたいのか?』と凄んだら静かなになったと聞く。
静かにはなったが、水面下ではどうなんだか。
特に、俺の婚約者が『王家の対』たるエル・グロンバルーデ家の娘なのが厄介の種。建国前から王家を支え、絶対的な忠誠を誇る家。王家や王位を狙う者へは容赦ないし、王族ですら彼らの制裁には一切の口出しは出来ない。
そんな彼ら一族の娘が、第二王子の俺の婚約者。
ますます、次期王位継承者騒ぎがヒートアップするのは火を見るより明らかだろうに。更に火に油を注ぐ如く、娘が生まれたその日に俺の婚約者に決定するとはどういう事か。
婚約が確定した時は二歳なのでその意味すら分かりようも無かったのだが、成長とともに俺なりに思う事は多々あった。
兄と俺と弟は仲が良い。俺だけが婚約者が居るが、兄上はそれについては気にする風もない。むしろ、俺の微妙な立場を思って『私は将来、己に相応しい女を自分で探す自由と責任があるのだ』と公言している。
兄上の将来の立太子の邪魔にならないように、俺の婚約を解消すべく働いたが絶対無理だと父上に一蹴されたのは俺の誕生日当日。
嫌なタイミングで婚約者当人から誕生日を祝う手紙が届く。コイツのせいで!と腹立ちまぎれに手紙を丸め潰したものの、コイツ自体はただ生まれてきただけだったはずだ。
丸めた手紙を伸ばせば、辿々しい字が並ぶ。
コイツは今、何歳だ?…まだ5歳か。ではこんなものなのだろうと、ヘロヘロした字を眺めた。ありふれた祝の言葉の最後に婚約者の名があった。
レイベーニア・エル・グロンバルーデ
祝の言葉より下手クソに見える。もっと練習しろ。…祝の言葉の方が自分の名前より練習したのだとしたら笑えるが。
いや、笑えないか。よくよく考えるまでもない。
コイツ…レイベーニアにすれば、産声をあげた直後に婚約者が決まったのだから。
帝王たる父上からあれほど頑なに婚約解消を否定されたのだから、レイベーニアが将来どれだけ強く望もうともこの婚約は絶対だ。
そして、そう望まないような教育でも施されているだろう。
顔も知らぬ婚約者に、初めて同情をした。
同時に、操り人形が将来の嫁かと思うと気が滅入った。
同情はするが、それだけだ。