3◆帰って来やがった
私が12歳の時、奴は14歳。幸運の女神の計らいで、マーティングは隣国へと留学に出た。
満面の笑みで見送る私に『あねうえはさみしくないのか?』と人を介して尋ねたのはマーティングの末の弟王子。この王子、既に婚約者がおられるのだが、その婚約者を私が抱っこしているという…。
まだ4歳の可愛い王子殿下にはご令嬢モードの回答をしておいた。近寄れないせいでデカイ声で言わざるを得ないのが辛い。
「マーティング殿下はお勉強に行かれるのです。ご立派なことですので、淋しい以上に誇らしく思っております」
最悪な事にそれを当のマーティングに聞かれていた。早く行けよ!さっさと行け!!帰ってくるな!と念じた。
「義姉上のことは私が見張っておりますから、さっさとガチムチ筋肉国へ行ってきたらどーですか?」
前半は無視するとして、後半には激しく同意したい。しかしこの弟王子は可愛くない。
マーティングの一つ下の弟という生い立ちのせいか、顔立ちは言わずもがなだけど性格の悪さがマーティングと似ている。
奴の留学中は比較的平穏だった。時折奴から手紙が届くので渋々と返事を書いたぐらいで、他は一年に数回ほど王宮の行事に顔を出した程度。
王宮ではもれなく可愛くない方の弟王子、ローデルト殿下に強制エスコートされるのが地味に嫌だった。
私の15歳の誕生日を少し過ぎて、マーティングは帰国した。
歓迎の宴に呼ばれた私を打ちのめしたのは、マーティングの左右に侍る隣国の女性達。宴へのエスコートこそされたが、私は少し離れた場所で立ち尽くしていた。
「マーティングのコンヤクシャサン可哀想に1人ぼっちよー?コッチに呼んであげれば?」
「気にするな。それに呼ぶ方が可哀想だろ」
「なんでー?」
「着飾ってより美しい姫達の中に交じれば、あれが周りにどう見えるか考えてみろ」
「目立ちますねー。ああ、目立つのダーメでしたー」
嫌でも会話が聞こえてしまうし、姿が視界に入る。
マーティングが言うように、隣国の姫達は美しい。
お国柄なのだろう、どちらの姫も蠱惑的な顔立ちに魅惑的な身体。
輝くプラチナの髪の姫達の真ん中でマーティングの金の髪がサラサラと揺れているのが絵になる。
周囲からも賞賛や感嘆の声が聞こえた。
ああ、そうか、と呟く私の惨めな声はマーティングと姫達の賑やかな笑い声にかき消されれて誰にも届かなかった。
流石に見かねたようで、ローデルト殿下が退出のエスコートをしてくれた。隣国の女性達はあちらの王族で、賓客として翌々日まで王宮に滞在していたそうだ。見送りの儀を私は『体調不良』として欠席という逃げを打った。
一度逃げると、次に顔を合わせるのがより憂鬱になる。
私はそれからも力の限り逃げて避けて過ごした。しかし、年末の王宮の行事は逃げようがない。
物凄く不本意だが、参加した。